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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ②
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54話 誓い

メイの話を聞こうというところで、ドアが勢いよく開けられた。

メルヴァイナが踊り込んでくる。その後ろにはライナスもいる。

「メイ、もぅ、だめでしょう」

「ごめんなさい、メル姉。つい……」

「私はいいけど」

「これから、経緯とお願いについて、話すつもりです」

「そう。じゃあ、頼むわね」

メイは僕達に視線を戻す。深く息を吸って、吐く。

「わたしは魔王の元で軟禁されていました。あっ、怪我は大丈夫でした。自分で治せます。そこで、同じく軟禁されていたメル姉とライナスに会ったんです。それと、後二人、別の部屋にいます。皆、治癒術師です」

メイは淡々と語る。

「一か月くらいそこにいました。それから、色々あって、何とか、五人で逃げ出せたんです。こっちには少し前に辿り着きました。なので、今、ここにいるんです。簡単に話すとそんなところです。本当はもっと色々あったんですけど、本当に長くなるのでその辺りは止めておきます」

「魔王は追ってきていないの?」

イネスが当然の疑問を投げかける。

「はい、そのはずです。メル姉とライナスは探知能力にも長けているので、その気配はないと聞きました。それに、魔王は容易にはこっちに来られないのではないかと思います」

メルヴァイナとライナスが軽く頷いている。

「それならいいのだけれど……」

「黒いドレスの女のことを気にしているのか? あれは魔王とは関係ないだろう」

ライナスはつまらなそうに言う。

「そう、かしら」

イネスは腑に落ちない様子だ。

「それで、続きを言え」

グレンは不機嫌そうにメイを促す。

「はい。わたし達は逃げ出せたんですが、まだ、向こうに残っている人達がいるんです。その人達を助けに行くつもりなんですが、協力してもらえないかと思って。他に頼める人がいないので」

「折角、逃げ出せたのに、また、戻るつもりか? 馬鹿じゃないのか?」

僕が言えないことをグレンが言う。

「それは……そうかもしれません。返す言葉はありません。それでも、約束したので……」

メイの表情は浮かない。

「止めておけ。お前に何ができる? わざわざ戻って、捕まれば、全くの無意味だ。捕まるだけなら、まだいいがな」

グレンの声が嫌に響く。

メイには安全なところにいてほしい。

危険なところへ行かないでほしい。

メイを失ってしまうのが怖い。

僕自身が死ぬことよりも、彼女が死んでしまうことの方がずっと辛い。

もう二度と会えなくなるなんて、考えたくない。

考えるだけで、胸が苦しくなってくるようだ。

彼女が生きてさえいてくれればいい。

そう思うにもかかわらず、僕はその言葉を飲み込んだのだ。

止めてほしいと言えなかった。

それは彼女の意思に反することだろう。

僕もきっと、そうするはずだ。見捨てられるはずがない。

見捨てれば、きっと、自分を許せない。

「……わかっています。それでも……抜け道も知っています。成功する可能性は高いと思います。だから、手伝ってください。こんなことを頼んで、悪いと思っています。でも……」

メイが辛そうな表情で懇願する。

僅かでも、僕が彼女の役に立てるなら……

僕がもっと強ければ、自信を持って、メイを護れた……

力のないことがもどかしい。

僕はメイといることを選ぶ。傍にいて、盾になってでも、必ず、護る。

「僕が共に行きます。僅かでもできることがあるのでしたら、協力します」

「コーディ……」

メイが僕を見つめてくる。思わず、目を逸らしてしまった。

「協力するわ。魔王の鼻を明かしたいしね。惨めに敗けたままは嫌だわ」

イネスは普段と変わらない淡々とした口調ながら、その熱情は伝わる。

「ボクも! ボクも行きます!」

ミアが意気揚々と言う。

「グレンはどうするの?」

「行けばいいんだろ」

嫌味を含んだイネスの言葉に、グレンは嫌そうな表情を貼り付けている。

「嫌々来なくていいのよ?」

「行くと言っているだろう」

彼らも来てくれると聞いて、正直、うれしいと思った。彼らのことも大事だ。彼らのことも失いたくない。

それでも、また、彼らと、メイと共にいられる。

不安はあるが、うれしいことも事実だった。

これが、魔王の元に向かうのではなく、ただの旅ならば、どんなにいいことだろう。

「ありがとうございます。無理を聞いてもらって。わたし、ずっと、剣術も訓練していたんです。いつか、イネスより強くなるかもしれません。わたしもだれかを護れるようになりたいから」

メイが先ほどとは違い、少し誇らしげに言っている。

「そうなのね。感心したわ。いずれ、倒してみなさい。相手になるわ」

「はい。まだまだなのはよくわかっているので、頑張ります。護られているだけなのは嫌だから」

メイが勢い込んで言う。

「ええ。それはよくわかるわ。一緒にがんばりましょう」

「もちろんです。それと、向こうで会った人に剣術を教わっていて、その人はまだ向こうにいるんです。その先生がすごく強くて、金髪碧眼の渋くてカッコイイ人でした」

「その先生にも会ってみたいわ」

「向こうで会えれば、紹介します」

メイと話しているイネスがちらっと僕を見た。

僕のことを気にしてくれているのだろう。

確かに、別の男の話を、しかも、その男が強くて格好いいと話されるのは面白くはない。

だが、先ほどよりもずっと、朗らかな様子のメイに、視線を奪われる。

彼女の笑顔をずっと見ていたいと思う。

例え、その、結婚などできなくても、できることなら、傍にいたい。

メイを護れるように強くなりたい。否、なってみせる。

彼女を絶対に失わせないと誓った。

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