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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ②
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53話 あの子とお願い

一瞬何も見えなくなったかと思うと、すぐに視覚が戻った。

ただ、違和感がある。

先ほどまでと、景色が全く違う。

明らかにおかしい。

僕が今、立っているのは建物の中だった。

傍には、ベッドと机とチェストが置かれている。

「さあ、着いたわよ。バイレードの町よ」

メルヴァイナの言葉に、ミアが窓に駆け寄り、その窓を勢いよく開けた。

「町です!」

ミアが驚嘆の声を上げる。

「どういうこと……?」

イネスが呆然と呟く。

「転移魔法よ。使うには、色々、制約はあるんだけど」

メルヴァイナは何事もないように言う。

転移魔法……そんなものは聞いたことがない。

薬で幻覚を見せられているのではないかと思ったが、そのような感覚は全くない。

窓の外からは人の声が聞こえており、見える景色も空気感も町の中としか思えない。

僕の知っていることが全てではない。まだまだ、知らないことの方が多い。

僕達は町に転移した。それは事実だ。

転移魔法も単に僕が知らなかっただけなのだろう。

極秘とされている魔法かもしれない。

そんなものを彼らは僕達に簡単に見せてよかったのだろうか。

「ここは、バイレードにある宿の一室よ。中々、いい町よね」

メルヴァイナもミアの後ろから町を見る。

ただ、今は転移魔法のことよりも、これから会わなくてはならない人物についてだ。

「あの、会ってほしいという方はどういう方なのですか?」

「会えばわかるわ」

メルヴァイナはここまで来ても、頑なに教えてくれそうにない。

会えばわかるというぐらいなのだから、会ったことのある人物なのだろう。

「あなた達の雇い主はゼールス卿なの? それとも、教皇? 国王陛下?」

イネスは、窓の外を眺めているメルヴァイナの背に淡々とした口調で問いかける。

「全て、違うわよ」

イネスの問いにメルヴァイナはあっさりと答える。

メルヴァイナはくるりと体の向きを変え、僕達を見る。

「まあ、会いたくないというなら、無理強いはしないわ。あの子があなた達にお願いがあるというからあなた達を連れてきたの。会わないというなら、私達からあなた達にお願いしたいことがあるわ」

「それは絶対なの? その子かあなた達かどちらかの依頼は必ず引き受けなければならない?」

「強制はしたくないのよねぇ。引き受けてくれないと困ってしまうわぁ。多少、難しいお願いだという自覚はあるんだけど」

「……四人で考えさせて」

「仕方ないわね。いいわよ。でも、決断は早くしないとだめよぉ」

メルヴァイナはライナスを促し、部屋を出て行った。

部屋には沈黙が訪れた。

口を開いたのは、グレンだ。

「あの得体のしれない奴らにこれ以上、付き合うのか!? 不愉快だ」

「あんな魔法を見せられて、逃げられると思うの? 強制はしたくないと言っていたけれど、あれは牽制でしょう」

イネスが冷静に言う。

「あいつらは一体、何を依頼するつもりだ? 俺達を捨て駒でもするつもりじゃないのか!?」

「それはこの国も同じでしょう。すでに捨て駒にされたわ」

「……それはそうかもしれない。だが、依頼を聞けば、完全に逃げられなくなる。あいつらの正体も、依頼主もわからない。そんな不透明な依頼を受けられるか!?」

「そうだけど、コーディはどうなの?」

「僕は、彼らを利用できないかと……転移魔法なら、魔王の元に行けるのではないかと思っている」

「確かにその可能性はあるわ。ミアは?」

「ボクは……メイを助けたいから、転移魔法で、もし、メイの元に行けるなら――」

「お前達の好きにしろ。決断に責任を持って、死んでも恨むな」

グレンがそう言い放つ。

その時、ドアが激しくノックされた。

メルヴァイナとライナスが戻ってきたのかと思った。それにしては早い。決断は早くと言っていたが、早すぎないだろうか。

ただ、鍵は掛けていない。メルヴァイナなら、そのまま入ってきそうだ。

何かあったのかと、僕はドアを開けた。

すると、ノックをしていた人物が部屋の中に倒れこんできた。

僕はその黒髪の女性を受け止めた。

彼女が顔を上げる。

「コーディ!!」

よく知る声がうれしそうに僕の名を呼んだ。

魔王に捕らわれているはずの彼女。僕達が助け出そうとしていた彼女。

信じられなかった。

幻を見ているのではないかと思った。

こんなところにいるはずがない。

「……メイ」

掠れた声で彼女の名を発した。

彼女をじっと見つめていた。

彼女の体温と、柔らかな感触が伝わる。

「メイ」

彼女の名を呼んだ。

「コーディ……あの……」

メイが身動ぎする。

僕ははっとして、メイを放した。

「も、申し訳ありません」

声が裏返ってしまいそうになる。

顔も赤くなっていないか、心配になる。

「メイ? 本当にメイなの!?」

イネスが僕を押しのけて、メイをしげしげと眺めている。

「イネス! 会いたかったです。もう、二度と会えないかと思いました」

「メイィィィ! よかったぁぁぁ」

ミアは目に涙をいっぱい溜めて、メイに縋り付いた。

「ミア! 本当によかった」

メイの目にも、涙が光っていた。

「メイ、どうしてここにいるんだ」

グレンが厳しい口調でメイに言う。

「話せば長くなるんですが、話します。それで、それを聞いた上でお願いがあるんです」

「話せ。その”お願い”を聞くかはわからない。俺達の目的はすでに達した」

「わかりました」

メイは、静かに言った。

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