49話 彼らの人探し
メルヴァイナの絶叫が煩いぐらい響き渡る。
誰かが飛んでくるのではないかと思うくらいの声量だったが、誰かが来ることはなかった。
彼女の絶叫が止み、彼女は大きく息を吸って、吐き出すことを数回繰り返すと、ライナスに近づき、何かをこそこそと話している。
割と近いが、話している内容は聞き取れない。
僕達にとって、いい話をしているとは到底思えない。
話を終えると、メルヴァイナは僕達に向き直り、にこっと笑みを浮かべた。
はっきり言って、薄気味悪い笑みだった。
助けられた身で、彼らは恩人だから、考えないようにはしていた。
彼らは一体何者なのか?
人探しと言っていたが、本当なのだろうか?
最近、この辺りは異常なことが起こっている。魔獣による街の襲撃。何者かに全滅させられた村。
それらに関係しているとは言わないが、不安材料には違いない。
この辺りにいるのは、軍関係者か、周辺の住人だが、彼らはどちらでもなさそうだ。
そんなことを考えても、結局は彼らに頼らなくては、この村を護ることはできない。
ただ、他の村のことも気になる。
あの女性が今、どこにいて、何をしているのか?
腕を切り落とされたのだから、しばらくは大丈夫ではないかと思うが、保証はない。
それに、村を全滅させたのが、あの女性とも限らない。
僕はメルヴァイナにも疑心を抱きつつ、彼女を見つめていた。
「そんなに見つめられると恥ずかしいわ」
メルヴァイナは恥ずかしがる素振りをしているが、全くそうは思わない。
「なぜ、俺の名で驚く? 俺のことを知っているな」
グレンが低い声で問う。
「あなたが、ドレイトン先生の甥っ子だったからよ。先生はあなたには会ってみたいと言っていたわ。ドレイトン公爵家の変人同士、気が合うんじゃないか、だって」
「嘘を言うな。伯父は死んだ。俺が言いたいのはそのことじゃない。俺が勇者だということを知っているんだろう!」
「そうね。あなたの名前を聞いて、あなたが勇者だと知ったわ。だからといって、あなた達に危害を加えるつもりはないわよ」
「それを信じろと?」
「信じなくてもいいけど。ただね、あなた達をどうこうするなんて、簡単にできるのよ?」
メルヴァイナが冗談めいた口調で言う。
「……」
グレンが黙り込む。
ライナスは間違いなく、僕達より強い。グレンも十分すぎるほど、わかっているだろう。
本当に冗談なのか、脅しなのかはわからないが。
「俺にそいつに会えというのか?」
「そんなの、どちらでもいいわ。先生が勝手に言っていただけだから」
「そいつの名前は?」
「えーっと、ああ、フィンレー・テレンス・ドレイトンよ。ずっと、ドレイトン先生と呼んでいたものだから」
「……そうか」
何か思うところはありそうだが、グレンはそれだけ言った。
僕もその名は知っている。確かに死んでいるはずの人物だ。追い出されたと言っても過言ではない。その人物は30年前の勇者で、生贄だ。
どうして、このようなことを言うのか、彼女の真意がわからない。
「あの、あなた方は人探しをしていると伺いましたが、どなたを探しているのですか?」
「ああ、そのことね。もう見つかったから、いいのよ」
「この村にいらっしゃったのですか?」
「そうなの。後は一緒に来てくれるか、なのよね。どうしても、来てもらいたいのだけど、強制的にはだめだって言われてるから」
「それはそうでしょう」
「ええ。というわけなので、一緒に来てくれるかしらぁ?」
「……」
「もちろん、3日間はこの村に滞在するわよ。約束通り」
「あなた方が探しているのは――」
「ええ。グレン・ヴィンス・ドレイトンとコーディ・フィニアス・フォレストレイ、それに、イネス・バーサ・デリンとミア・グラフの四人よ」
「……僕達に何の用なのですか? どなたに頼まれたのでしょうか?」
「会ってもらいたい子がいるの。詳しくはその子が説明するわ。今は、この先のバイレードという町にいるのよ。とりあえず、そこまで来てもらいたいの」
「考えさせていただけますか?」
「いいわよ。一緒に来た方があなた達の為になると言っておくわね」
僕とグレンはすぐにライナスの部屋を出た。特に止められることもなかった。
この夜更けからイネスとミアの部屋を訪ねるわけにもいかず、自分の部屋へと戻る。
ため息しか出てこない。
彼らは一体、何なのだろう?
軍の追っ手かとも思ったが、どうも違う気がする。
それに、どうして、フィンレー・テレンス・ドレイトンの名が出てくるのか?
意味がわからない。
いや、一つ思い当たることはある。
”魔王”
魔王の追っ手という可能性もないわけではないのだ。
そう考えても、謎が多い。
魔王は僕達を開放している。不本意な開放だったということはあるかもしれない。
あれ程の力がありながら、このような面倒なことをする理由があるのか。
考えれば考えるほど、ありえないと思う。
いっそのこと、町まで行った方がいいのではないか。
そう投げ遣りに考えたりもしてしまう。
逃げられるとも思えない。
それなら、行くしかないともいえる。
”会ってもらいたい子”というのは誰のことなのだろう?
メルヴァイナよりは年下なのだろう。
「グレン」
グレンに呼びかけるが、
「考えてもわかるわけないだろう」
即答された。行き詰ってしまったので、グレンにも意見を聞こうと思ったが……
結局は、彼らと行くしか何もわからない。




