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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ②
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49話 彼らの人探し

メルヴァイナの絶叫が煩いぐらい響き渡る。

誰かが飛んでくるのではないかと思うくらいの声量だったが、誰かが来ることはなかった。

彼女の絶叫が止み、彼女は大きく息を吸って、吐き出すことを数回繰り返すと、ライナスに近づき、何かをこそこそと話している。

割と近いが、話している内容は聞き取れない。

僕達にとって、いい話をしているとは到底思えない。

話を終えると、メルヴァイナは僕達に向き直り、にこっと笑みを浮かべた。

はっきり言って、薄気味悪い笑みだった。

助けられた身で、彼らは恩人だから、考えないようにはしていた。

彼らは一体何者なのか?

人探しと言っていたが、本当なのだろうか?

最近、この辺りは異常なことが起こっている。魔獣による街の襲撃。何者かに全滅させられた村。

それらに関係しているとは言わないが、不安材料には違いない。

この辺りにいるのは、軍関係者か、周辺の住人だが、彼らはどちらでもなさそうだ。

そんなことを考えても、結局は彼らに頼らなくては、この村を護ることはできない。

ただ、他の村のことも気になる。

あの女性が今、どこにいて、何をしているのか?

腕を切り落とされたのだから、しばらくは大丈夫ではないかと思うが、保証はない。

それに、村を全滅させたのが、あの女性とも限らない。

僕はメルヴァイナにも疑心を抱きつつ、彼女を見つめていた。

「そんなに見つめられると恥ずかしいわ」

メルヴァイナは恥ずかしがる素振りをしているが、全くそうは思わない。

「なぜ、俺の名で驚く? 俺のことを知っているな」

グレンが低い声で問う。

「あなたが、ドレイトン先生の甥っ子だったからよ。先生はあなたには会ってみたいと言っていたわ。ドレイトン公爵家の変人同士、気が合うんじゃないか、だって」

「嘘を言うな。伯父は死んだ。俺が言いたいのはそのことじゃない。俺が勇者だということを知っているんだろう!」

「そうね。あなたの名前を聞いて、あなたが勇者だと知ったわ。だからといって、あなた達に危害を加えるつもりはないわよ」

「それを信じろと?」

「信じなくてもいいけど。ただね、あなた達をどうこうするなんて、簡単にできるのよ?」

メルヴァイナが冗談めいた口調で言う。

「……」

グレンが黙り込む。

ライナスは間違いなく、僕達より強い。グレンも十分すぎるほど、わかっているだろう。

本当に冗談なのか、脅しなのかはわからないが。

「俺にそいつに会えというのか?」

「そんなの、どちらでもいいわ。先生が勝手に言っていただけだから」

「そいつの名前は?」

「えーっと、ああ、フィンレー・テレンス・ドレイトンよ。ずっと、ドレイトン先生と呼んでいたものだから」

「……そうか」

何か思うところはありそうだが、グレンはそれだけ言った。

僕もその名は知っている。確かに死んでいるはずの人物だ。追い出されたと言っても過言ではない。その人物は30年前の勇者で、生贄だ。

どうして、このようなことを言うのか、彼女の真意がわからない。

「あの、あなた方は人探しをしていると伺いましたが、どなたを探しているのですか?」

「ああ、そのことね。もう見つかったから、いいのよ」

「この村にいらっしゃったのですか?」

「そうなの。後は一緒に来てくれるか、なのよね。どうしても、来てもらいたいのだけど、強制的にはだめだって言われてるから」

「それはそうでしょう」

「ええ。というわけなので、一緒に来てくれるかしらぁ?」

「……」

「もちろん、3日間はこの村に滞在するわよ。約束通り」

「あなた方が探しているのは――」

「ええ。グレン・ヴィンス・ドレイトンとコーディ・フィニアス・フォレストレイ、それに、イネス・バーサ・デリンとミア・グラフの四人よ」

「……僕達に何の用なのですか? どなたに頼まれたのでしょうか?」

「会ってもらいたい子がいるの。詳しくはその子が説明するわ。今は、この先のバイレードという町にいるのよ。とりあえず、そこまで来てもらいたいの」

「考えさせていただけますか?」

「いいわよ。一緒に来た方があなた達の為になると言っておくわね」

僕とグレンはすぐにライナスの部屋を出た。特に止められることもなかった。

この夜更けからイネスとミアの部屋を訪ねるわけにもいかず、自分の部屋へと戻る。

ため息しか出てこない。

彼らは一体、何なのだろう?

軍の追っ手かとも思ったが、どうも違う気がする。

それに、どうして、フィンレー・テレンス・ドレイトンの名が出てくるのか?

意味がわからない。

いや、一つ思い当たることはある。

”魔王”

魔王の追っ手という可能性もないわけではないのだ。

そう考えても、謎が多い。

魔王は僕達を開放している。不本意な開放だったということはあるかもしれない。

あれ程の力がありながら、このような面倒なことをする理由があるのか。

考えれば考えるほど、ありえないと思う。

いっそのこと、町まで行った方がいいのではないか。

そう投げ遣りに考えたりもしてしまう。

逃げられるとも思えない。

それなら、行くしかないともいえる。

”会ってもらいたい子”というのは誰のことなのだろう?

メルヴァイナよりは年下なのだろう。

「グレン」

グレンに呼びかけるが、

「考えてもわかるわけないだろう」

即答された。行き詰ってしまったので、グレンにも意見を聞こうと思ったが……

結局は、彼らと行くしか何もわからない。

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