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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ②
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48話 出会い 二

到着した村には灯りが灯され、既に門は閉じられている。

僕達が声を掛けると、人一人通るのがやっとというぐらいに開き、村の中に入った。

すぐに出迎えたのは、先に逃がした村人だった。

彼は特に怪我もないようだった。その顔も安堵の表情が浮かんでいる。今までずっと、張り詰めていたのだろう。

その村人の後ろには、村長に村の何人か、それと、イネスとミアもいる。

「無事でよかったわ。何があったのよ? 彼の話では要領を得なくて。黒い剛腕の女に襲われたとか言うのだけれど」

イネスが村長よりも先に口を開く。

「あら、大体、合っているわよ」

答えたのは、メルヴァイナだ。

「? あなたはどなたかしら?」

「偶々、人探しの途中で通り掛かったの。そうしたら、ライナスが割り込んじゃって。その黒い剛腕の女と取り込み中にね」

「村長、お話があります」

余計なことを言われて、複雑にされても困る。

僕はイネスとメルヴァイナの会話を打ち切るように大きめの声を出した。

まずは先ほどの件の報告と、彼らの滞在許可を取らなければならない。

僕から簡潔に事情を説明した。

概ね理解はしてもらえたと思うが、どうしても、女性のことは半信半疑らしい。

話を聞いただけで信じられないのは無理もないと思う。

僕自身も何の冗談かと思う。

ドレス姿の貴族令嬢を思わせる女性に男三人で太刀打ちできなかったのだ。

一緒にいた村人も、疑問の表情を浮かべる村長に本当のことだと力説する。

とりあえず、ライナスとメルヴァイナの滞在は許可してもらえた。

彼らも村長の家に泊まることになった。


グレンと共に、村長の家の部屋に戻り、ベッドに腰掛ける。

「グレン、僕達は……相当、弱いか?」

グレンと二人になり、僕は思わず、そんなことを言っていた。

「……さあな」

グレンはベッドに転がり、背を向けていた。

こんな簡素な部屋に、質素な服、それでも、グレンからは文句を聞かない。

あの騎士学校は、隔絶された世界だったのかもしれない。

あそこは貴族の子弟や裕福な家の者ばかりだった。

僕は世間知らずなだけだったのかもしれない。

努力してきたつもりだった。

だが、圧倒的な実力の差を見せつけられた。敵わないと思ってしまった。追いつけると思えなかった。

魔王相手とは違う。

同じ人間でここまで違うとは思わなかった。

騎士学校での成績も、優秀だと期待されたことも、単に貴族だから、煽てられていただけなのだろう。

努力すれば、立派な騎士になれると思っていたし、そうなるつもりだった。

僕は護られて、助けられてばかりだ。

ライナスが来なければ、信念を貫いても、メイを助けられないまま、殺されていただろう。

もう、このまま、閉じ籠ってしまいたい。

……

僕はそれでも……

明日になれば、また、日課の鍛錬をするのだろう。

そういえば、ライナスの話にあった彼の師に会ってみてもいいかもしれない。

「グレン、明日、手合わせを頼めないか?」

「ああ」

そっけない返事が返ってきた。

「僕はライナスの剣術の師に会ってみたい。このままではいけないと思う」

僕がそう言うと、グレンは無言で起き上がる。

ドアを勢いよく開ける。

「来い。あいつを問い詰める」

ライナスに失礼なのではないかと思ったが、まだ遅い時間でもない。

ここはグレンに従うことにした。思い立った時にした方がいいこともある。


グレンと共に、ライナスの部屋を訪れた。

声を掛けると、ドアは開けてもらえた。

彼は嫌そうな顔はしていない。だからといって、これまでの彼の言動から歓迎はしていないだろう。

「あら、あなた達、ライナスのところなんかより、私のところに来てくれればいいのに」

後ろから、唐突に声を掛けられた。全く気配がなかった。

「まあ、いいわ。さあ、入って」

メルヴァイナは僕達をライナスの部屋へと押し入れる。

「相変わらず、勝手だな」

ライナスの表情が僅かに歪む。

メルヴァイナまで部屋に入り、ドアを閉めてしまう。

「お前の剣術の師に会わせろ!」

グレンがライナスに掴みかかるのではないかと思うほどの勢いで言う。

「言動には気を付けた方がいい」

ライナスが含みを持たせるように言う。

「ふふっ。私は結構好きよ」

メルヴァイナがグレンに後ろから抱きつく。

「ドレイトン先生は遠くにいるのよ。残念だけど、すぐには会えないわ。そもそも、私達の一存では決められないの」

「ドレイトン!? その名を出すな! 不愉快だ!」

グレンはメルヴァイナを振り解こうとするが、当のメルヴァイナは涼しい顔で全く気にしていない。

「そうなの? ごめんなさいね。でも、ドレイトンは公爵家でしょう? 恨まれているの? 先生は、公爵になりそこなったって言っていたわね。追い出されたそうよ。それでも恨んではいないって。本当、あの先生らしいわ。追い出されたのは、自業自得のような気もするけどね」

「メルヴァイナ、少し黙っていてくれるか」

ライナスはしびれを切らしたのか、若干、怒気を帯びている。

「すみません。その方は、ドレイトン公爵家の所縁の方、なのですか?」

悪いとは思いながらも、僕は口を挟んだ。ドレイトン公爵家――グレンの家だが、いい印象は持っていない。

「ええ、嫡男だったそうだけど。本当なら、公爵になっているはずよね。何をして追い出されたのかまでは聞いていないから、知っているなら教えてほしいわ。気になっていたのよね」

「嫡男、ですか? そんなはずはないと思うのですが? よほどのことがない限り、嫡男が跡を継ぐはずです。ドレイトン公爵家について、そんな話は聞いたことがありません」

「それはその男が出鱈目を言っていたのだろう。確かに、追い出された嫡男はいた。だが、もう死んでいる」

グレンはメルヴァイナを振り解くことは諦めたようだ。

「? 詳しいのね。あなたの名前は? ちなみに、私は、メルヴァイナ・メレディスよ。彼は、ライナス・エメリー・デル・フィーレス」

「……グレン・ヴィンス・ドレイトン」

「え……?」

メルヴァイナは驚いたような声を出し、グレンから離れた。

グレンの正面に回り込み、その顔を覗き込む。

「確かに、なんとなく似ているわ……ええええええええええぇぇぇ!?」

メルヴァイナがなぜか、絶叫した。

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