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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ②
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47話 出会い

その男は危ないところを助けてくれたのだ。敵ではないと思う。

ただ、人間とは思えないような女性の剣を目の前の男は余裕で受け止めたのだ。

その緊張状態を破ったのは、怒ったような女性の声だった。

「ラ、イ、ナ、スゥ~! 何やってるのよ、まったく!」

別にもう一人いたらしい。全く気付くことができなかった。

既に辺りは薄暗いということもある。

道ではないところから女性が近づいてくる。

女性の露出の高い服装に目を逸らしたくなる。

その女性が男のすぐ横に立つ。

「あなた達、ごめんなさいね。ライナスが余計なことをしなかったかしらぁ?」

「メルヴァイナ……」

男はそう呟き、ため息を吐く。

彼らがライナス、メルヴァイナという名だということはわかった。

「何よぉ。痴話喧嘩かもしれないじゃない?」

「あれが、そう見えるのか?」

「そういうこともあるかもしれないじゃない? ほら、浮気されたりしたら、腕の一本や二本ぐらい飛ばすわ」

「それは止めろ」

「躊躇わず、あの女の腕を飛ばした男に言われたくないわね」

「……理由を知らず、承諾も得ずに割り込んだことは謝罪する。単に弱い側の味方をしただけだ」

ライナスは一方的に言ってくる。しかも、直に弱いと言われているが、事実なので反論の余地はない。

「それにしても、この辺りにはあんなに強い女がいるのね。驚いたわ。腕が飛んでも、声一つ上げないなんて。私でも声は上げたわ。痛いものね。彼女を知っているなら、紹介してほしいくらいだわ」

メルヴァイナも独り言のように言っている。特に返答を求めているようには見えない。

僕は立ち上がると、彼らに向き合う。グレンも立ち上がっていた。

「あの、助けていただき、ありがとうございました」

僕は彼らに頭を下げた。

「いや、いい。勝手にしただけだ」

「それと……お願いがあるのです。不躾なお願いだということは承知しております。ですが、しばらく、軍が到着するまでこの先の村に滞在していただけませんでしょうか?」

僕は彼らに頼むため、もう一度、頭を下げた。

僕達では彼女がまた戻ってきたときに、勝ち目がない。

彼らは、少なくとも、彼は強い。僕達より遥かに。

「それは、この前の村が全滅していたことが理由か? というより、それは先ほどの女性がしたことか」

「その通りです。あの女性が村を全滅させたのかということまではわかりませんが、僕達では村を護ることができません。どうか、お願い致します」

彼らが何者かわからない。軍人ではないような気がする。

それでも、彼らを頼るしかない。

断られる可能性もある。断られても何としても、そう思っていた。

「いいわよ。私達は人を捜しているの。ついでに、2、3日なら滞在してあげるわ」

「メルヴァイナ、勝手に決めるな」

「いいじゃないの。急いでいるわけではないのだから」

どうやら、引き受けてくれそうだ。

「お礼はお支払い致します。どうか、宜しくお願い致します」

「必要ないわ。お金には困っていないの。宿泊場所と食事の用意はお願いするけれど。それと、これが重要。あなた達の顔が結構、好みなのよね。私の相手をしてね」

メルヴァイナは不穏なことを言う。

「あ、相手ですか……」

「誤解しないでよ。話し相手になってほしいだけ。それくらい、いいでしょう? あなたの恋人からあなたを奪ったりしない、と思うわ。それとも、既に結婚していたりする?」

「け、結婚はしていません。話し相手でしたら、引き受けます」

「あら、結婚したい相手はいるのね。残念だわぁ。ずっと黙っているあなたはどうなの? 恥ずかしがり屋なの? それとも、私の魅力に声も出ないの?」

「……引き受ける」

グレンがそう答えてくれて、心底ほっとした。あれ程の力の差を見せられれば、納得するしかないだろう。

余計なことは言わず、僕は黙っていた。

「ん。いい子達ね。ライナス、いいわよね?」

「長くて3日だけだ。それ以上は許さない。私はその間、別行動をさせてもらう。メルヴァイナのことは君達に任せる」

「そう。わかったわ。私はこの子達といるわね。それじゃあ、村に案内して」

僕とグレンはライナス、メルヴァイナの二人を伴い、村へと続く道を行く。

もう日は沈み、真っ暗というわけではないが、足元は心もとない。

「それにしても、この辺りの村人にしては立派な剣を持っているのね。そこそこの剣なら、剣ごと体も真っ二つになっていたわよ」

「……」

彼女の言うことはもっともだった。剣が折れていれば、ただでは済まなかった。

それに、剣のことを疑問に持つのは当然のことだ。僕達はまだ、村人に借りた服のままだ。確かに不釣り合いだろう。

もっと明るい時間ならば、僕の緑眼を指摘されていたかもしれない。この国では緑眼を持つのは、王族かそれに連なる者がほとんどだ。

村に戻れば、村人でないことはすぐにわかるだろう。

「僕達は村人ではありません。村にはしばらく滞在させてもらっているだけです」

「そうなのね。でも、本当にその剣があってよかったわね」

メルヴァイナは言い方はどうであれ、心配してくれているらしい。

僕にはどうしても、ライナスに聞いておきたいことがあった。

「どうすれば、それほどまでに強くなれるのですか?」

僕はライナスに問いかけた。

「私達の一族は元々、力が強い。先ほどは、力押しに過ぎない。同じように強くはなれないだろう。私の剣術の師は、単純に力では私より劣っていた。だが、その経験や技術は尊敬に値する。経験を積み、技術を磨くしかないと思うが?」

「それはそうね。ただ、さっきの女相手なら、逃げるのが一番よ。それこそ、魔王と契約でもしないと勝てないわね」

メルヴァイナが口を挟んでくる。

「逃げてしまえば、村が襲われていたかもしれません」

「その前に、あなたが死んでいたわよ」

「そうかもしれません。ですが……僕は騎士を目指しておりました。逃げることはできません」

「そう。それが信念なら仕方ないわね。私は逃げてもいいと思うけど」

最近、力のなさを痛感させられてばかりだ。

魔王には相手にすらされず、今も、あの女性に敵わなかった。

目の前にいるライナスも僕より遥かに強い。もしかすると、このメルヴァイナも相当強いのかもしれない。

騎士学校では上位でも、外の世界では全然だった。

本当に、彼女の言う通り、魔王と契約するしかないのかもしれない。


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