37話 これからについて
あのよくわからないゲームから数日が経過した。
わたしも含めて誰もそのことには触れない。
変わったことといったら、彼らに対する苦手意識は薄れた。
彼らがいるのが当たり前のようになった。
ライナスやティムも話し掛ければ、ちゃんと話してくれる。
結構な進歩だ。わたしにしては。
魔王に忠実な魔王四天王とまでは全然いかない。
そもそも治癒魔法しか使えない魔王を尊敬しろという方がおかしいし、無理だ。わたしもそんな魔王は願い下げだ。
何とかしないといけない。
まだ、元の世界へ帰る手がかりもない。
それまではここにいるしかない。幸いにも、衣食住は問題ない。
勇者パーティとの旅の次のこの魔王ライフ。
いっそ、魔王然として、勇者を待ち受けようか。30年後に。それくらいあれば、もっと魔王っぽくなっているだろうか。ライナスにもちゃんと魔王として認められるだろうか。
また、ドレイトン家の勇者が来るかもしれない。
そうしたら、あの勇者パーティの四人のことが聞けるかもしれない。
わたしは勇者を待ち受ける魔王を想像してみた。
ゴシック調の重厚な玉座の間の玉座にいるのはわたしだ。
そこには魔王四天王が控える。
人間の勇者には勝てるだろう。ライナス達が負けるとは思えない。
ただ、なんだか締まらない。
それに、わたしは負けそう……
治癒魔法しか使えない魔王に、魔王四天王はドラゴンに変身できないライナス、同じく変身能力の使えないメルヴァイナ、ちょっと自分に自信のないリーナ、注意力散漫で失敗するティム。
魔王のように振舞っても、虚勢を張っているようにしか見えない。
むしろ、憐れまれそうだ。
それなら、魔王直属の暗黒騎士団とかもほしいところだ。
ああ、それはいいかもしれない。
魔王四天王に、暗黒騎士団を揃えて、理想の魔王に……
わたしの思い描く魔王のように振舞ってみよう。
悪役もいいかもしれない。わたしは悪役も結構好きだったな。
剣術の稽古が終わった後、そんなことを考えていた。
今日は休んでいいとお許しをもらっていて、勉強は休みだ。
剣術の稽古はドレイトン先生の意向で、休みにしてもらえなかった。
美しい庭園を眺めながら寛いでいるのもいい。
はっきり言って、休みといっても、何をすればいいのかわからない。
部屋に戻って、残りの時間はベッドで過ごそうかと思うほどだ。
「メイさま、これからどうされるのですか?」
メルヴァイナに聞かれるが、わたしもわからない。
「何か楽しいこととか、娯楽ってあるんですか?」
「そうですね。観劇などがありますが、私はあまり見ませんね。私は街で買い物したり、騎士団の演習場でいい男を探したりしていますね」
というメルヴァイナらしい答えが返ってきた。
ただ、騎士団の演習場に興味が湧いた。もちろん、いい男を探しに行きたいわけではない。
「騎士団があるんですね」
「ええ、それはそうです。特別区を警備しているのも、近衛騎士団の騎士達です」
確かに特別区で警備をしてくれているが、彼らは黒ではなく、むしろ白っぽい服装だった気がする。
「団服は黒ではないんですね。魔王のイメージカラーは黒のような気がしますけど」
「魔王さまのイメージカラーですか? 私は黒というイメージはありませんが……ああ、メイさまは黒い髪に黒い瞳ですし、確かにそうかもしれませんね」
「は、はい。魔王には魔王に忠誠を誓う漆黒の団服の暗黒騎士がいた方が様になりませんか!?」
「暗黒騎士だと、よくないイメージがありますよ」
メルヴァイナは不思議そうに言う。
「え、えーと、王国では魔王はそういう認識なんです。魔王そのものがよくないイメージなんです。だから、期待に応えた方がいいかと思って……」
「? そんな必要はないかと思いますが? でも、悪くないかもしれませんね。ええ、私に任せてください」
メルヴァイナがなぜか得意気に胸を張る。
「ま、まあ、はい」
曖昧に答えておいた。
「それでは、どうされますか?」
「演習場に行ってみたいです。後、この城の中を見て回りたいです」
「いいですね。では、すぐに参りましょう」
メルヴァイナは非常に乗り気だ。
その後は、主にメルヴァイナの案内で、演習場にかなり長く滞在し、城を見て回った。
わたしはまで、正式に魔王だと名乗りを上げていない為、特別区以外では誰も気にしない。
それでも、ぞんざいに扱われることはない。
おそらく、ライナスがいるためだ。淡い青色の髪と金の瞳という彼の明らかなドラゴニュートの特徴のためだ。
向かう先で時折、ドラゴニュートだという囁き声を聞いた。
わたしはこれからどうなるのかわからない。
危うい立場だと理解している。
魔王だと言われているが、それは宰相にそう言われたからだ。
いつ切り捨てられるかもわからない。
本当は魔王ではないと、手のひらを返されるかもしれない。
選択を間違えてはいけないのだ。




