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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ①
35/316

35話 闇魔法の失敗

今日で決着をつける!

わたしはそう意気込む。

正確にはまだ明日もある。でも、そんなことを思っていては勝てない。

剣術の稽古終了後、ドレイトン先生が立ち去った後も、わたしはまだ庭園にいた。

あらかじめ、ティムにこっそりと頼んでおいたことを実行してもらう。

庭園では、ライナスを囲むように、闇色の人型のものが出現する。

わたしはちゃんと学んだ。今度は人と同じぐらいのサイズである。

しかも、ある程度、建物からは離れている。

鼓動は速く、適度に緊張している。

タイミングよく、ライナスに攻撃する為だ。

わたしはライナスを見ていた。

そのライナスの姿が見えなくなってくる。

わたしは複数とは頼んだ。正確な人数を告げたわけではなかった。

わらわらと人型のものが現れ、数を増やし、ひしめいている。

明らかに多すぎる。

わたしが攻撃しなければ意味がないにもかかわらず、ライナスに近づけなくなった。

それどころではなく、既にわたしの周りにも人型のもので溢れている。

「ティムー! 多すぎる!」

わたしが叫ぶと、わたしの周りの人型のものが形を失った。

ただ、消滅せず、黒い霧のようにそれが漂う。

辺りがよく見えない。

庭園にいるはずだが、本当にそうなのか不安になってくる。

やっぱりちゃんとした打ち合わせは必要だった。

嘆いても、遅い。

これは、闇魔法の視界遮断だろうか?

とりあえず、さっきまで見えていたライナスの方へと歩を進めた。

「魔王様」

そう呼ばれ、立ち止まる。

彼女の姿がはっきりとしてくる。

黒い霧の中でも浮かび上がるようにはっきりと見える。

桃色の髪の美少女、リーナだ。それも、裏リーナの方である。

緊張で体が硬直する。

裏リーナも悪い子ではないと思っている。

ただ、不安になる。この黒い霧を発生させているのは、裏リーナではないかと。

そんなことをする理由は、わたしを襲う以外にないと思う。

もしかして、こんなことを思うのは、闇魔法の精神干渉の効果だろうか。

「魔王様? 大丈夫ですか?」

蠱惑的に微笑む裏リーナと目が合う。

「大丈夫よ」

かなりやせ我慢している。こんな周りのよく見えない、よくわからない状況だ。不安にもなる。

しかも、闇魔法で問題を起こすのは二度目だ。

うん、明らかに、まずい。

怒られないかもしれないが、完全に呆れられる。

今後のことを考えるとよくないのではないか。

いや、むしろ、馬鹿だと思われている方がいいのかもしれない。

狙ってやっているわけではないところが、悲しい。

「魔王様、こちらへ」

そう言うと、裏リーナはわたしに背を向ける。

動こうとしないわたしに裏リーナが振り返る。ついて来いとばかりに。

裏リーナが歩き出し、黒い霧に霞んでくる。

わたしは仕方なく、彼女を追いかけた。

裏リーナは振り返らず、歩いていく。

距離にするとほんの僅か歩いただけだと思う。ただ、緊張のせいか疲れる。

裏リーナの他に三人の人影が見えた。

「リーナ!」

メルヴァイナがリーナを呼ぶ。

「急にいなくなるから、心配したわ」

メルヴァイナがリーナを抱き寄せる。

「メイさまもご無事でなによりです」

リーナを抱き締めたまま、メルヴァイナがわたしに声を掛けてくる。

「わたしは大丈夫です」

「メイさま、治癒魔法を使っていただけますか?」

「え? 誰も怪我なんて」

「治癒魔法は光魔法の一種なのです。この強力な闇魔法を打ち消すことができるかもしれません。私達では残念ながら、打ち消すことができませんでした」

メルヴァイナがリーナを離し、わたしを見つめてくる。

「この闇魔法を消したなら、多少、認めてやろう」

ライナスは完全に上から目線で言ってくる。

「わかりました」

わたしは一言だけ答え、治癒魔法を発動しようとする。

よく考えると、治癒魔法はこれまで2回しかやっていない。

しかも、偶々、発動できたようなものだ。

今は危機感もなくなった。黒い霧によって周りは見えにくいが、他に害があるようには思えない。

おそらく、ティムが闇魔法を失敗しただけだろう。

治さなければいけない傷もない。

今更ながら、できる気がしない。

でも、やらなければならない。

そうでないと認められない。

せっかくもらえたチャンスだ。

わたしは一回、深呼吸し、以前感じた体が温かくなるような感覚を思い出す。

もう後は、祈るしかない。

神に? あれ、ここでの神は魔王? 魔王はわたし?

現実逃避に、くだらないことを考えてしまう。

すると、目の前が淡く光る。

それが急速に広がっていく。

それと同時に、黒い霧が消えていく。

発動できた!

頭の中で、もう一人のわたしが拍手喝采している。

くだらないことを考えていたのは気取られてはいけない。

わたしはできて当然というように振舞う。

やがて、黒い霧は完全に消失した。

見えているのは、いつも剣術の稽古をする庭園だ。

「多少は認めてくれるんですよね?」

ライナスに向かって強気に言う。

「そうだな」

と、その一言だけが返ってきた。

本当に認めてくれているのか怪しいが、まあいい。どうやら、庭園には被害がない。

今回は、何かが破壊されているということはなかった。

元に戻るのかもしれないが、正直、何もなくてほっとしていた。

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