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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ①
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32話 リーナと 四

元々、裏リーナではなく、リーナには協力をお願いしている。具体的にどうするかは決めていないが。

リーナからもらった石もライナスに試したい。せっかくもらったのだ。

数を打つ作戦は失敗したので、もっと綿密な作戦を立てなければ。

やはり、裏リーナにもう一度、会ってみよう。怖いけど。

後はティムにも協力を取り付ける。

そして、本人のライナスにも探りを入れよう。

ライナスと話してはいけないということはないのだ。答えてくれるかは別として。

わたしは別に、ライナスを憎んでいるわけでも、嫌いなわけでもない。そもそも、そこまでの関係がない。

メルヴァイナは詳しく教えてはくれないだろう。だから、他の人をあたるしかない。

というより、これはメルヴァイナからのわたしへのテストなのではないかと思っている。

明らかに、わたし一人ではどうにもならないくらい、ライナスは強い。それは実感した。しかも、彼が魔法を使うのを見たことがない。わたしの攻撃は全てその高い身体能力で回避されていた。

そして、メルヴァイナは結局、ほんの少しの助言しかしてくれないのだ。

今後のことを考えると、彼らとは良好な関係でいたい。

ここに長く留まることになるかもしれないのだ。

メルヴァイナが何を考えているのかは置いておいても、わたしは乗るしかない。

何よりも、メルヴァイナは信頼できると思うのだ。きっと。

まずは、裏リーナだ。

裏リーナにどうすれば会えるのかわからないが、とりあえず、昨日と同じくらいの時間に、同じ場所に向かった。

緊張する。

やはり、怖い。

彼女もわたしより圧倒的に強い。

昨日は彼女からの申し出を拒否してしまった。

それでも、彼女に会えないのも困る。

この場に着いて、数分は経ったと思う。

待っている時間がやけに長い。

それから、さらに、時間が経過する。

もう来ないかと諦めかけた頃、彼女は現れた。

間違いなく、裏リーナだ。

彼女がぞっとするような笑顔を向けてくる。

「本日もお会いできて、うれしい限りです。魔王様」

わたしは魔王。誰もが恐れる魔王。恐怖の象徴。

暗示を掛けるように自分に言い聞かせる。

わたしは意を決して、

「わたしも会えてうれしいわ、リーナ」

余裕のあるようにゆっくりとした口調で、愛想笑いも浮かべてみる。

わたしの思う魔王とは似ても似つかなかった自覚はある。

せめて、メルヴァイナぐらいの体格なら……

思っても仕方のないことを思ってしまう。

わたしとリーナは身長がほぼ同じだ。真正面にリーナの顔がある。

「私に御用なのでしょう?」

裏リーナは打って変わって、純真そのもののようなとびきりの笑顔を見せる。

わたしの答えをわかっているかのようだ。

「そうね。用があるわ」

わたしの言葉を聞き、裏リーナはふふっと笑う。その様子が、姉妹だからか、メルヴァイナの姿に重なる。

「協力してくれるのよね?」

「はい、魔王様。精一杯、協力させていただきます」

「それで、何を見返りに求めるの?」

裏リーナは可愛らしく、小首を傾げる。

「特には求めませんがーーあえて言うなら、苦しむ顔が見たいだけですよ。私にとって、甘い蜜なのですから。これ以上ない、ご褒美です」

「そ、そう。ところで、あなたは自由に出て来れるの?」

「自由にとまではいきません。そうですね、夜の方が出て来易いのです。夜はあの子の不安が大きくなりますので」

「わかったわ。夜ね。ライナスはリーナに弱いって聞いたから、わたしの攻撃が当たるように、ライナスの動きを止めてほしい」

「かしこまりました、魔王様。ライナスお兄様は私を傷付けたりしませんもの。長くは止めておくことはできませんが、努力いたします。では、その機会は魔王様ご自分で作り出してくださいませ」

「本当に素直に協力してくれるとは思わなかったわ」

「それは心外ですよ、魔王様。もちろん、魔王様に協力いたします。それが私の務めですから。魔王様のお傍におりますと、より甘美な蜜が味わえそうな気がするのも確かですが」

また、あの嫌な笑みを浮かべた裏リーナがそこにはいた。

裏リーナが去っていった後、誰もいないことを確認して、大きなため息を吐いた。

ため息でわたしの心臓を落ち着かせてほしい。

未だに、鼓動が速い。かなり緊張していたと思う。

それより、リーナは勿論のこと、裏リーナも基本的にはいい子なのではないかと思う。

ちょっと趣味があれなだけで、基本的に人を傷付けたりはしないのではないだろうか。

だから、メルヴァイナもそのことで何も言わないのだろう。

と、思う。きっと。そうであってほしい。

わたしに人を見る目があるかはわからないけれど、というより、そこまで人と関わってこなかった。

これまで、人と深く関わることは避けてきた。

苦手意識があったのと、それ故に、面倒になっていた。

でも、友達の多い社交的な人が、羨ましくもあった。

わたしはなぜ、そうではないの?

なぜ、できない?

そう、自分で自分に問いかけていた。

リーナはどうなのだろう? 裏リーナではなく、リーナは。

かつてのわたしのようなリーナ。

彼女には姉のメルヴァイナがいる。

でも、ずっと一緒というわけにもいかないかもしれない。

わたしもリーナのことは言えないが。わたしも前よりはましになった程度だ。

わたしが劇的に社交的になったわけじゃなく、周りの人達のお陰だ。

彼らが優しく、わたしを気に掛けてくれただけだ。

彼らにはとても感謝している。

だから、わたしはなんとかやっていけている。この世界で。これからも。

わたしは彼らを裏切りたくない。

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