318話 魔王の役割
メルヴァイナとリーナとティムと部屋へと戻る途中。
「あの、メル姉」
「気になさらないでください、メイさま。直接、宰相に言ってみるのもいいかと思っただけです」
メルヴァイナに遮られた。
「……さっきは宰相に全く、届かなかったですね。わたしの攻撃は」
わたしはそんなことを言いたいわけじゃなかった。
そんなこと、あえていう事じゃない。
おしいぐらいなら、反省会もあるかもしれないけど。
おしくもなんともなかった。差が歴然だった。ぼろ負けのようなものだ。
気にする人なら、傷をえぐったかもしれない。
何か言わないとと、焦るとだめだ。無神経なことを言ってしまう。
「そうですね。単なる手合わせですし」
「メル姉、このままでいいと思いますか?」
聞いても意味はない。
そんなの誰にもわからないかもしれない。
わたしが決めること、だから。
メルヴァイナは答えなかった。
「メイさま、それより、また、街にでも出ましょう。閉じ籠っているのはよくありません」
メルヴァイナは微笑んでいた。作り物みたいに。
わたしは余計なことをしたんだろう。
これで終わりにしないといけない。
何が”魔王”なんだろう。
わたしには何の力もない、役立たずだ。
わたしだけ、切り離されているような気がする。
所詮、異世界人だから。
”魔王”の玉座は孤独の象徴。
あそこには近寄りたくない。
これまでの魔王はどうしていたんだろう?
辛くなかった?
割り切って、好き勝手していた?
元の世界に戻った?
何度も何度も、そんなことを考えてしまう。
全部、割り切れればいいのに。
そんなこと、気にせず、楽しめばいいのに。
わたしが利用するとか思っていたけど、全然だ。
いっそのこと、本当に魔王として振舞った方がいいの?
悪女みたいに。
メルヴァイナ達のことは、宰相から言われていた。
厳しく躾けるようにと。
メルヴァイナとライナスはわたしより年上だ。
何の力もない”魔王”と呼ばれるだけのわたしには、できない。
メルヴァイナとライナスは、わたしと違って、いつも自信があって、強くて、堂々としていて。
そんなメルヴァイナでも悩んでいることがある。
わたしは皆のやさしさを利用したようなものだ。
わたしは何もできていない。
何もしてない。
責められても仕方ない。
一人でいると、だめな自分が次々に浮かんでくる。
いやだ、いやだ、いやだ。
自分がどうしようもなく、いやになる。
それでも、すぐにここからいなくなりたいわけじゃない。
アーノルドの言ったことは都合が良かった。
200年はここにいて、その後、元の世界に戻れる。
そう思うと、やっぱりわたしは好き勝手しているのかもしれない。
そんなわたしを皆、どう思ってるんだろう?
今すぐ、元の世界に戻れるけど、これを逃すと二度と戻れないなんて、言われたら、わたしはどうするだろう?
魔力を供給していることが本当なら、魔王国は魔力が足りなくなるかもしれない。
今の魔王国を保てないかもしれない。悪くすると、滅びてしまう。
前にドリーが言っていたと思う。
前の魔王が短命だったから、魔力が足りなくなりそうだったと。
かなり危なかったらしい。
わたしはこれから、どうすれば?
何となく生きているだけではいけない?
できるのは、今は勉強ぐらい。
部屋で休憩した後、勉強の時間だ。
元の世界とそれは変わらない。
それではいけない?
勝手に連れて来て、義務とか言うの?
勝手に王だとか言われて、どうすればいいかわからない。
「どうすればいいかわからない」
わたしは声に出していた。
「魔王様」
声を掛けられた。
ドリーに独り言を聞かれていた。




