316話 わたしの不安
わたしは知ってるから。
いつまで、今が続くかわからない。
いつものように家を出て、学校に行くはずだった。
家族とは会えなくなった。
わたしの暮らしていた世界じゃなくなった。
魔王国で何もしていない時間、不安になる。
いつ終わってしまうかわからない。
コーディからのお誘いを断ってしまった。
シンリー村の村人に会いに行くというのに。
だから、デリアにも会えたのに。
デートのお誘いではなかったと思うけど。
今日、コーディはシンリー村の村人に会いに行っていたそうだ。
しかも、女性と二人で出掛けたと聞いた。
その女性は案内役らしいけど。
なんか、いやだ。
わたしは婚約者なのに。
でも、断ったのはわたしだ。
断らなければよかっただけだ。
断らなければ、わたしも一緒に行っていた。
それだけのことだ。
わたしが悪いんだから。
その後、朝の剣術の鍛錬でコーディに会う。
何となく、話し掛けづらい。
本当にコーディはわたしの婚約者なんだろうか?
ずっと、勘違いしてる?
婚約指輪とかがあるわけじゃない。
そもそも、手に何かを付けるのはあまり好きじゃない。
だから、すぐにわかる証はない。
こういう時は、何かで紛らわせるしかない。
でも、ここでは娯楽はやっぱり少ない。
この後の予定は既に決まっている。
勉強だ。
したくてたまらないほど好きというわけではもちろんない。
他にわたしができること、それが全然ない。
昼食前に、宰相が姿を見せた。
宰相がわざわざ訪ねて来なければ、会うことはない場所だ。
急用? 非常事態?
わたしの護衛として、今は、メルヴァイナとリーナがいる。
ティムは何をしているのか知らない。
でも、時々、わたしの護衛に加わっている。
「魔王様、お伝えしておくべきかと参りました。明後日、私は、コーディ、ライナスと手合わせを行う事になりました。気軽なものです。どなたでも参加を歓迎致します」
宰相と手合わせ?
喧嘩でもしたんだろうか?
宰相に勝てる想像ができない。
「おもしろそうですね。私とリーナも参加致します」
メルヴァイナは即座に応えた。
勝手に参加させられるリーナも特に反対しない。
「わたしも参加してもいいですか?」
わたしもそれを聞いて、咄嗟に口走っていた。
参加しないと、仲間外れにされたような気がするから。
「後方支援でしたら構いません」
宰相の了解も取った。
「魔王様がどのような存在なのかを聞きたいのだとコーディが申しておりました。手合わせの後、時間を作るつもりでおります」
宰相がそう、続けて言う。
コーディが宰相に直接聞かないように言ったのに。
わたしの代わりに聞いてくれたんだろうか。
それで、宰相を怒らせたから、手合わせ、ということはないよね?
宰相が怒っているという感じはしないから大丈夫だとは思う。
参加するしないに関わらず、わたしはその手合わせの場にいた方がいい。
わたしも当事者に近いと思う。たぶん。
それに、純粋に気になる。
翌日も、コーディとはあまり話せていない。
朝に、わたしも参加するのだと伝えたくらいだ。
宰相との手合わせに誰が参加するのかもよく知らない。
宰相一人対100人とかだったら?
それでも、宰相が勝ちそうな気はする。
こちらが自滅しないとも限らない。
手合わせで、どう戦うのか、話し合わなくて大丈夫なんだろうか?
そういうわたしも、近くにいるメルヴァイナと手合わせについて、特に話してはいない。
後方支援と言っても、わたしにできるのは身体強化くらいだろう。
本当はわたしも戦いたい。
今回は単なる手合わせだ。特に危険もないだろう。たぶん。宰相が裏切らなければ。
いいのかなぁと思いながら、行動を起こすこともなく、時間が過ぎていく。




