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魔王の裁定  作者: 有野 仁
最終章 ④
315/317

315話 宰相との手合わせ 四

「魔王様の事を聞きたいのだな」

宰相は余裕の表情で僕に話しかけてきた。

セルウィンとマデレーンとエリオットもなぜか、そのような表情だ。

「僕達は傷一つ付けられませんでした」

「特に条件は指定していなかったはずだ。まだまだ未熟なのは確かだ。励むように」

宰相は僕の他、ライナス達にも視線を向ける。

「ここで話してもいいのですか?」

「隠している事でもないと言ったはずだ」

その時、メイが僕の傍に来た。

「魔王様、本日はお休みになられてはいかがでしょうか」

「いえ、大丈夫です。それより、わたしも聞いていてかまいませんか?」

「勿論でございます、魔王様」

メイの腕と僕の腕が当たった。

メイを護る為に僕はどうすればいいのか?

宰相には勝てない。

このまま、魔王国にいるしかない。

そんな中で……

僕達に再生能力があるのはわかる。

魔力や身体能力も向上している。

年を取らないというのは今、実感はないが。

僕達は形はそのままだが、もう人間ではないのだろう。

「早速ですが、魔王は魔王国に魔力を供給しているだけなのですか?」

僕は改めて宰相に尋ねた。

「基本的にはその通りです。これまでの魔王様の中には、自ら統治に関わりたいとおっしゃる方もいらっしゃいましたし、研究開発を行いたいとおっしゃる方もいらっしゃいました。私達は出来得る限り、魔王様のご要望に応えたいと考えております。魔王様が望まれるのであれば、何でもなさっていただいて差し支えございません」

宰相の答えは僕が既に知っているものだ。

メイの言う事が本当なのだとしても、この場でそんなことは言えないだろう。

殺せない魔王を殺す。

本当だとしても、すぐに殺せる訳ではない。

魔王の魔力を吸収して徐々に弱らせるとしても、数百年掛かるという事なのかもしれない。

それがわかったとして、どうするのか?

「これまでの魔王について教えていただけますか?」

「私の知るこれまでの魔王様は5名です。魔王様は必ず、異世界からいらっしゃいます。魔王様ご自身にはご自覚はないようでしたが、いずれも、膨大な魔力を持っていらっしゃいました。どうしていらっしゃるのかはわかりかねます」

「元の世界に戻った魔王はいたのですか?」

「いいえ。それだけはできません」

宰相の口調は変わらないが、それだけは強く聞こえた気がした。

魔王を元の世界に戻すつもりはないと。

殺せない魔王にいなくなってほしいなら、元の世界に戻した方がいい。

元の世界に戻す方法がわからないならどうしようもないが、どちらかと言えば、方法がわかっていたとしても、魔王を元の世界に戻す気はなさそうだ。

宰相が魔王を殺したいと思っているとは僕には思えない。

僕の考えが甘いだけなのかもしれないが。

ただ、メイは元の世界に戻りたいのかもしれない。

すぐに触れ合える距離にいるメイを抱き寄せようとして、止めた。

宰相の弟は対照的に元の世界に戻れるのだとメイに言ったらしい。

まだ、時間はある。

焦って、不利な状況になってはいけない。

「承知致しました。ありがとうございました」

僕は話を打ち切った。

「あの、あと一つだけ、聞いてもいいですか?」

メイが宰相に話しかける。

「どうぞ」

「今回の王国での魔獣騒ぎを起こしたのは、あなたですか?」

メイはそんな事を宰相に直接、尋ねた。

「いいえ、誓って、私ではございません。命じてもおりません」

宰相は否定する。

こういう場で、「私です」とは中々言わないだろう。

ただ、宰相の場合は、僕達より圧倒的に強い。それを見せつけられたばかりだ。

肯定したとしても、僕達に何かできる訳ではない。

この宰相の場合、ここで嘘は吐かないのではないかと思う。

「わかりました。それと、次の機会でいいので、これまでの魔王がどんな方だったのか、教えてもらえませんか? どういう風に過ごしていたかとか」

メイもいつもと調子は変わらない。

宰相に気軽に尋ねている。

「それは勿論でございます、魔王様。必ず、お時間を取りましょう」

一見、和やかな宰相とメイの会話の後、メルヴァイナが口を開いた。

「宰相さま、私達がここにいる意味はあるのですか? 私達は出来損ないで、疎まれていましたから」

明るい口調のメルヴァイナだが、その目は真剣そのものだ。

「少なくとも、お前達をここに置いているのは私の判断だ。ここにいる自信がないなら、出て行っても構わない。私の見込み違いだっただけの事だ。そもそも、ヴァンパイアは100歳以上で漸く成熟とされるはずだろう」

「聞いてみただけです。出て行ったりしません。私は魔王さまの傍におります。それでは、魔王さま、参りましょう」

メルヴァイナは、メイと、それに、リーナとティムも連れて、城の中に戻って行った。

僕は一度、部屋に戻った後、仕事の為、再度、宰相とライナスに会うことになった。

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