313話 宰相との手合わせ 二
「メイ、ボクも頑張るよ」
「わたしも少しでも支援できるように」
メイとミアの気軽な様子のやり取りが聞こえている。
そこは、僕に譲ってほしかった。
メイとは最近、あまり話せていない気がする。
いや、僕が恐れていただけだ。
ちなみに戦術など何の打ち合わせもしていない。
少しくらいしてもいいのではないかと思ったが、結局することはなく今に至る。
以前もそうだった。
それに、手合わせなので、気楽な雰囲気だ。
割と観客もいる。
ドリエスも見に来ていた。その隣にはコリンナもいる。
宰相が手合わせを持ちかけた場にいた者達もいるので、そこから伝わったのだろう。
隠していたいなら、そもそも、こんな城内の者なら誰でも見える場所を指定しないだろう。
相変わらず、宰相がどういうつもりかわからない。
少なくとも、僕達を殺したいという訳ではなさそうだ。
僕の前に宰相が立った。
宰相の雰囲気はいつもと変わらない。
これから戦うという雰囲気ではない。
ただ、服装だけはいつもよりほんの少し動きやすそうな服装だ。
「こういう機会もありませんでしたので、遠慮なくどうぞ」
こちらにはメイがいるからか、宰相は丁寧な口調で言う。
「よろしくお願いします」
メイとミアが口をそろえる。
後方支援のメイのみ、後ろに下がる。
後は全員が攻撃だ。
多すぎて、やりづらい。
下手をすれば、味方を攻撃する。本当に味方なのかはわからないが。
甥であるライナスもこちら側で宰相と相対する。
もしかすると、ライナスは宰相側になるのではないかとも思ったが、それはなかった。
宰相は本当に1人だ。
宰相1人だけという事に、罪悪感がある。
「私が開始の合図を致しましょう」
ドリエスが前に出る。
「では、始めてください」
柔らかいドリエスの声で手合わせは開始された。
「身体強化の魔法を掛けます」
メイが僕達に魔法を掛ける。
宰相は動かない。
何なら、軽く笑みを浮かべて、佇んでいる。
そこにセルウィンとマデレーンが初めに宰相に持っていた武器で攻撃する。
二人の攻撃は全く当たらず、地面を叩いた。
二人が的外れな攻撃をした訳ではない。
宰相が動かなければ、確実に当たっていただろう。
それに懲りず、二人は再度、攻撃に移る。
身体強化をしてもしっかり動けてはいる。
ただ、何度か繰り返しても全く当たらない。
「エリオットお兄様、何をなさっておりますの?」
「マデレーン、勝てそうにないよ」
「そ、それはやってみないとわかりませんわ!」
「今のやり取りを見ていれば、わかるよ」
「それは……確かに、全く当たりませんわ」
「私の弟と妹、そろそろ、休憩にするか。確かにいい運動だった」
「ええ、お兄様、そう致しましょう」
「エリオットお兄様は何もしておりません」
セルウィン、エリオット、マデレーンの会話が続く。
肝心の攻撃の手は止まっている。
ちなみに、宰相は全く攻撃して来ない。
そこへ、急速に迫ったイネスとミアが左右から宰相に向かって、矢のような形の闇魔法を放つ。
それには気付いていた。
畳み掛けるつもりで僕も既に動いている。
それは、グレンも同様だった。




