311話 シンリー村の行方 五
シンリー村の村長はすぐ近くに暮らしていた。
何らかの理由をつけて会わせてもらえないのではないかと思ったが、会うことができた。
コリンナが妨害してくることもなかった。
村長は家族と暮らしているようで、訪ねた時に応対してくれたのは、見覚えのある女性だった。
確か、村長の孫だったかと思う。
彼女も僕を覚えていて、すぐに家の中に招き入れられた。
コリンナとも、やはり、顔見知りのようだった。
街の中だからか、以前の家より狭い。
来客用の応接室もないようだった。
通されたのは、おそらく家族の食事スペースだ。
「お久しぶりです。フォレストレイ様」
程なく、村長が姿を見せた。
「ここで、問題なく暮らせていますか?」
「ええ、それはもう。約束通り、ご支援をいただき、暮らしていけております。シンリー村がなくなってしまったことは残念ですが、魔王国に移る時に既に覚悟は決めておりました」
「それは何よりです」
「……フォレストレイ様、私達は騙され、利用されていたのでしょうか?」
「どこまで聞いているかはわかりませんが、魔王国には様々な種族がいます。その種族の1つが淡い青髪に金色の瞳のドラゴニュートです。ドラゴニュートも魔王様に仕えております。神の使いと言えば、そうなのかもしれません」
「フォレストレイ様はお優しいのですね。私達が会った神の御使い様はそのドラゴニュートなのでしょう。村が襲われた時にお助けいただいた方もドラゴニュートということですね」
「神の御使い様の顔は覚えておりますか?」
神の使いの話になり、聞いておくべきことが思い浮かんだ。
僕がシンリー村で認識阻害を利用していたように、神の使いがそうしていた可能性がある。
認識阻害を通して見ると、どのように見えるのか、僕自身は経験がない。
「覚えております。会えばすぐにわかりますとも」
村長は自信に満ちた口調で答えた。
「では、僕が2回目に村を訪れた時はどのように見えましたか?」
「すぐに気付くことができず申し訳ございません」
「いえ、それはいいのです。顔を覆っておりましたので。その兜を覚えておりますか?」
「あまりはっきりとはしません。地味なものだったような気がするのですが、申し訳ございません」
「いえ、責めるつもりではありません」
一番初めは、武骨で地味な兜だったが、リビーに渡された兜は一度見れば忘れないようなものだった。
これが魔法の効果なんだろう。
ただ、村長は神の使いについては、はっきりと答えている。
認識阻害を使っていなかったのだろうか?
用意周到そうな宰相が使わないはずがない。
宰相の弟は淡い青髪ではなかったが、それぐらい簡単に変えることができるだろう。
特定には至らない。
このような事に不慣れな僕ではどうにもならない。
有益な情報を引き出すこともできない。
村長からの近況報告を聞くだけだった。
誰が何の仕事に就く事になったとか、初めての乗り物に乗ったとか、今はどうでもいい話だった。
それが、1時間以上。
しびれを切らしたと思われるコリンナが打ち切るまでだった。
すぐに城に戻るが、既に昼前だった。
その後、宰相に会う事になったが、宰相の態度は何ら変わることがなかった。
シンリー村の神の使いは宰相なのか?
これ以上、探る必要があるのか?
何もないのであれば、今のままでいいのではないか?
どこの環境でもこういう事はある。
正しいと思う行いが全てではない。
これが成長でないことはわかっている。
ただ、全て暴く事でメイの不利益となる場合、話は別だ。
何より、メイに危険が及ぶなら……
そもそも、暴く事も簡単ではないのだが。
デリアと村長から聞いた事は、その日の夜に、グレン、イネス、ミアと共有した。
勿論、村長による村人の近況報告は省いた。
「どうして、メイと行かなかったの?」
僕の話を聞いたイネスの第一声がそれだった。
答えにくい質問をしてくる。
「誘わなかったの? あれ程言ったのに?」
「いや……断られた」
「……それなら、仕方ないわ。仕方なく、別の女性と行ってきたのね」
「コリンナは単なる案内役だ」
「そういうことにしておくわ」
「それで、結局、宰相か宰相の弟のどちらかが怪しいという事ぐらいか? 今までと変わらない。いっそのこと、宰相に直接ぶつけてみるか?」
グレンは明らかに面倒臭そうな様子だ。
グレンやイネスにとってはもうどうでもいい問題なのかもしれない。
「私と手合わせするか? 他の仲間と協力してもいい。いくらでも連れてきて構わない。私一人が相手をしよう」
宰相がそのような提案をしてきたのは、デリアと村長に会った翌日のことだった。




