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魔王の裁定  作者: 有野 仁
最終章 ④
308/316

308話 シンリー村の行方 二

僕を消すつもりなのだろうか?

宰相の顔を直視する。

宰相は何を言うつもりなのか。

その宰相から出たのはため息だった。

まるで呆れるかのようだ。

「禁止事項以外は自由にしていい」

宰相からは怒っているような雰囲気はない。

「シンリー村へ行ったそうだな。あの村の事はまだ魔王様には言っていない。失敗だったのは確かだ。既にシンリー村はない」

宰相ははっきりと村はないと言った。

「村人はどうしたのですか?」

「それぐらいの事はわかるだろう」

いや、わからない。

亡命させたのが、失敗だったという事だろうか。

それなら、村人は……

「彼らは近くの町に移らせた。村ごと移動させても、やはり環境が違う。あのままでは暮らしていけなかった」

実際に確認していないから嘘かはわからないが、理屈はわかる。

「そうですか。あの村人の祖先は元々は魔王国の住人だったのですか?」

「その通りだ。魔王様が研究の助手として連れて行かれた人間とその家族だ。魔王国の事は子孫には伝わっていなかったようだが、魔王様への信仰は残ったのだろう。私は直接、関わっていなかった。関わっていたのは私の弟だ」

「どうして話して下さるのですか?」

「私達を疑っている事ぐらいわかっている。疑っていても構わない」

「デリアという女性に会いに行ってもよろしいのですか?」

「構わない。魔王様をお連れしてもいいだろう。案内させる」

宰相の言葉を安易に信じるのは問題だろう。

「わかりました。案内をお願い致します」

話は終わったと思ったが、宰相はまだ僕の前にいて、僕達は隔絶された空間の中のままだ。

「元の場所に戻していただけませんか」

「魔王様は……いや」

元の廊下に戻った。宰相は歩き去った。


翌朝の剣術の鍛錬の後で、メイを誘った。

シンリー村の村人に会いに行くからだ。

「わたしはいいです。行きません」

メイからはきっぱり断られた。

ほんの少しの間、頭が真っ白になった。

その後、よく考えれば、僕の行動は迂闊だったかもしれないとわかった。

僕は宰相に誘導された恐れがある。

メイを誘い出す為に。

メイは警戒していた。

僕自ら危険に晒してどうするのか。

「すみません……」

メイは走って行ってしまった。

「メイ」

メイを呼ぶが、空しく響くだけだった。

メイと婚約したにもかかわらず、逆に遠くなってしまった気がする。

僕だけが置いていかれている気がする。

イネスは騎士、グレンは研究、ミアは勉強、それぞれやりたい事がある。

それに比べて、僕は騎士を諦め、何がしたいのかわからない。

僕は魔王国の事を全然わかっていない。

王代理となれるようにと、宰相は言うが、このままだとお飾りにしかならない。

今のままでは……言われた事をしているだけだ。


「お待ちしておりました」

一旦、部屋に戻る途中、ドリエス・ラーナ・デル・フィーレスがいた。

その隣には初対面の女性がいる。

「シンリー村の村人の行方が知りたいのだと聞きました。このコリンナに案内させましょう」

隣の女性はコリンナというらしい。

「コリンナです。私が案内させていただきます、魔王様のご婚約者様。では、すぐに参りましょうか」

「いえ、この後、宰相の元に――」

宰相の元に行かなければならないと僕が言い終わらない内に、

「宰相から頼まれたのです。気になる事はすぐに確認された方がよいでしょう? いってらっしゃいませ」

穏やかな微笑のドリエスだが、有無を言わせず、既に僕を送り出す姿勢だ。

宰相から頼まれていたのなら、行かなければならない。

厄介払いの口実でないことを祈る。

昨日と同じ、城の中の転移専用の部屋へとほとんど強制的に連れて来られた。

コリンナは一見、人間だが、おそらく違う。ドラゴニュートでもない。

僕よりも身体能力が高い事を直感的に感じる。

転移魔法の起動はコリンナが行った。

転移先は町の中の立派な建物の一室だった。

どちらかと言うと、公共の建物のようだ。

「この町にシンリー村の村人がいるのですか?」

「その通りです。ただ、一ヵ所で全ての村人を住まわせる場所がありませんでしたので、多少、分散しております。まずは、関心を示されていたデリアという女性のいる場所に参りましょう」

僕とコリンナは建物を出て、歩いた。

僕の隣には、メイではなく、違う女性だ。

メイに見られると、また、誤解を与えてしまいそうだ。

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