306話 僕のすべき事 三
夜は考える事が多すぎて、中々寝付けない。
メイにも嫌われていないだろうか?
イネスやミアの言う通りだ。
メイを誘うべきだろう。
でも、どこへ行けばいいのか?
魔王国には詳しくない。
グレンに聞いておけばよかったかもしれない。
シンリー村へ行くのに、メイを誘う訳にはいかない。
何があるか、何が起こるかわからない。
少しでも危険な場所にメイを連れて行く訳にいかない。
知ってはいけない事を知ってしまえば、どうなるのか?
考えればきりがない。
今の体はそれほど眠らなくてもどうということはない。
魔王の眷属となったからだろう。
この魔王の眷属というのもよくわからない。
メイも知らないという。
ただ、確実に力は強くなり、魔力も高くなり、怪我もすぐに治る。
それは実感する。
明らかに思い込みではない。
魔力は魔王から供給されているようだが、それについては実感がない。
魔法を使う時、感覚としては今までと全く変わらない。
魔王の眷属になって使用できるようになった闇魔法。
何かわからないかと、闇魔法で作った球を出現させる。
深夜の微かな明かりの中、黒い球が確かにある。
どこか異質だ。
火や水のような身近なものではない。
存在してはいけないもののような気さえする。
何も考えず、多用していたが、問題はないのか?
魔王を殺す為――
本当にそうだとしたら……
魔王の眷属は何なのか?
魔獣と似たもの……
いや、人の姿をした魔獣なのかもしれない。
考えても答えは出ない。
魔王が死ねば、僕達も死ぬらしい。
それは構わない。
僕達と魔王であるメイは運命共同体だ。
翌朝、これから向かう剣術の鍛錬では、メイに会う。
騎士にはならないが、鍛錬は続けるつもりだ。
昨日の事をメイは怒っているだろうか?
メイに何を言えば……
どこかへ誘うべきだ。
だから、どこへ?
それは調べておこう。
それしかない。
そもそも、僕の予定がいつ空くのか、確認しておかないといけない。
しばらく、空く事がない可能性もある。
今からの時間はメイと二人きりという訳ではない。
実際に会ったメイはいつもと変わらない。
いつものように挨拶を交わす。
婚約者になる前と同じだ。
このままではいけないとは思う。
いきなり抱き締める訳にもいかない。
……
「何をしている!」とフィンレー・テレンス・ドレイトンに打ち込まれる。
彼に勝てないにもかかわらず、集中できていなかった。
ここには、メイに会いに来た訳ではない。
強くなる為に、剣術の鍛錬に来ている。
鍛錬の後、すぐにティムに接触できた。
というより、鍛錬の場にいた。
参加はしておらず、見ていただけだ。
ティムを連れて、その場を離れた。
ティムはダークフェアリーという最上位に位置する種族で、下位種であるフェアリーとは完全に別の種族であるらしい。
ただ、ダークフェアリーは自領に籠り、表には出てこない。政治にもほとんど関わっていないと聞いた。
ダークフェアリーは凶暴だと言う噂があるが、ティムを見ていると、そうは思えない。
ティムについては、魔力は高いが、時折、魔法を失敗する。
主に、張り切り過ぎた時など。
その為、周りを巻き込む事はある。
そうならなければ、失敗する事はない。
そのティムもシンリー村へはついて来る事になった。
出発はすぐだ。
この日も宰相の元に行く事になっている為、いつ時間を取ることができるかわからない。
なので、今しかない。
ティムに転移魔法の使える部屋へと案内してもらい、すぐにシンリー村へと転移した。
転移先はシンリー村のすぐ近くだ。
そこからなら、村も見える。
村が見えるはずの場所にシンリー村はなかった。
何もない。
家も畑も、そして、人も、そこには何もなかった。
確かにこの場所のはずだ。
なのに、何の痕跡もない。
元々、何もなかったかのようだ。
あの村は何かおかしかった。違和感があった。
シンリー村に住んでいたのは、本当に王国の人間だったのか?
それに関して、今まで僕は全く疑っていなかった。




