305話 僕のすべき事 二
「それはわかった。だが、今はそうしている場合なのか?」
グレンに詰め寄られる。
「そうよ。メイに嫌われるのでは意味がないわ」
「コーディ様、メイと一緒にいないとだめです」
イネスとミアからも一方的に責められる。
夜、食事を取った後、僕は彼らを呼び止めた。
メイを除くと、今、魔王国内で僕にとって、一番信用できるのは彼らだ。
共に仕事をし始めたライナスも宰相の身内で信用できるかわからない。
ただ、僕は彼らが今後、どうするつもりなのか、現在、どうしているのか、聞いていなかった。
僕は宰相の元で仕事を覚えると共に、宰相と宰相の周辺を探るという話を彼らにしたのだった。
その話をすると、それより先にする事があると責められた。
僕は無意味に焦っているだけなのだろうか。
今の状態が続くならかまわない。
勿論、焦ってはいけない。だが、呑気にしてもいられないのではないかと思う。
「今日明日で何かが変わるのか? 変に行動すると逆効果にならないか? 性急すぎる。より危険に晒すという事だ。敵の可能性があるのは宰相やその弟だけとは限らない」
グレンの口調は怒っているという訳ではなく、落ち着いた印象だ。
以前のドリエスの話から宰相とその弟は繋がっていると思った。
「それは……わかっている」
「現時点で結論は出ない」
僕は頷いた。
「ただ、魔王はどのような存在なのか。メイが言っていたんだ。殺せない魔王を殺す為ではないかと。説明できないが、嫌な予感がする」
極力、落ち着いた声で話す。
「魔獣を創り出したのは魔王、魔獣には魔王の魔力が供給されている。魔王国には魔獣はいないらしいから、魔王国にとっては脅威でもなんでもない。一方で、魔王国にも魔王の魔力が供給されている。それは副次的なもので、魔王から魔力を奪って、弱体化させているとも考えられる」
これらの魔力の供給にメイの意思はない。
「俺には魔王が脅威になるとは思えないがな」
グレンの言うように、僕にもメイが脅威になるとは思えない。
だが、魔王の事はほとんどわからない。メイですらわからないらしい。
「僕もそう思うが、魔王は誰かに狙われている可能性がある。本当にここは安全なのか……」
「魔王も何百年かは生きる。前回は例外らしいしな」
「それはそう聞いただけだ。何百年も生きる種族は限られている。力があり、尚且つ、一番長寿なのが、ドラゴニュートだろう。全てのドラゴニュートを警戒する必要がある」
そう、ライナスも疑うべきだ。
「ヴァンパイアも考えたが、ドラゴニュートほど長寿ではないし、権力がほしいようにも思えない。僕の主観だが、味方となる可能性があるのはヴァンパイアだと思う」
「俺も同意見だ」
グレンはヴァンパイアのメルヴァイナと婚約しているから、そう思って当然だろう。
ヴァンパイアは国の運営よりも、技術など能力を活かした仕事を好むように感じる。
しかも、ドラゴニュートには対抗意識がある。
「かまわないわ。ただ、明日から魔王国の騎士団に所属することになるわ。まだ見習いだけれど。知識を得る為に魔王国の学校に行くことも考えたのだけれど、それはミアが行くことになったわ」
「はい。任せてください」
イネスとミアもそれぞれ動いているようだ。
イネスの夢も叶う。ミアも学校には行っていなかったそうだから、ちょうどいい。
「わかった。何かわかれば、知らせてほしい」
「勿論よ。そう言えば、グレンは騎士団には来ないのね」
「ああ、今の俺は騎士になりたい訳ではない。俺は魔王国で魔法の研究を行う」
確かに色々な所から情報を得る方がいい。
それに、グレンは案外、研究に向いている気がする。
「メイはこれまでの魔王の事を調べてみると。それに、王国の王族の殺害は宰相の指示とライナスが言っていたのだとメイから聞いた」
「俺にとってはどうでもいいがな。宰相が指示していようが関係ない」
僕にもはっきり言って、思うところはない。殺された王族とは関わりがなかった。
ただ、宰相はこれまで王国とは関わらないようにしていたように思う。
なぜ、今になってと言う疑問はある。
「とりあえず、次の休みにメイと出掛けるといいわ。悩んでばかりじゃあ、抜け出せないわよ」
「コーディ様、メイを誘ってください」
イネスとミアが話題を打ち切るように言う。
グレンは僕をじっと見るだけだ。
「わかった。そうする」
それしか回答がなかった。
ただ、他にもしなければならない事がある。
すぐに王国には行きづらいが、魔王国内で行っておきたい場所がある。
シンリー村だ。
シンリー村は魔王信仰の村だ。今の住民はわからないが、魔王国との関わりが深かったのだろう。その下には魔王国の研究施設。
魔王国がこの施設を知らなかったとは思えない。
宰相の弟が主導していたかもしれないが、以前の魔王が関わっている。
シンリー村は今では、魔王国の中だ。他の魔王信仰の村や施設は全滅した。
おそらく、王国にはもう残っていないのだろう。
魔王国という国が知られるのと同時に邪魔なものを消したとも考えられる。
アリシア嬢の件は、仕組まれていた可能性がある。
暴走して村を滅ぼしたのではなく、元々、滅ぼす予定だったのではないか。
アリシア嬢を匿っていたのは大聖堂内だ。宰相の弟はその大聖堂の神官長だった。
シンリー村は無事にあるのだろうか。
一度、見に行ってもいい。僕一人で。
おそらく、隠れていく事はできないだろう。
転移できるが、転移が禁止されている場所もある。
ティムにどこなら転移魔法を使用できるのか確認しておこう。




