304話 僕のすべき事
先程までイネスと入れ違いでメイが僕の部屋にいた。
メイは僕の婚約者なのに、不快な思いをさせてしまった。
いくら、イネスとはいえ、部屋で二人だけで話すべきではなかった。
僕の言葉は言い訳だ。
それは僕の思う騎士の姿ではない。
僕は騎士ではないのだが。
僕は相変わらず、中途半端なままだ。
騎士にはなれず、弟レックスのように王族として義務を果たすこともせず、魔王国でも立場も曖昧だ。
何も変わっていない。
メイに情報を集めると言ったが、あの宰相相手では厳しいだろう。とりあえずは役に立つと示すしかない。
メイには嫌われるかもしれない。
婚約者になって、僕にはどうすればいいのかわからない。
イネスはメイと二人で出掛けて来ればいいと言う。グレンは既に婚約者と夜も共に過ごしていて参考にならない。
メイが僕の部屋にいた時、僕は戸惑っていた。
メイに不用意に触れてしまいそうで。
メイに近づいたのは間違いだった。
すぐ傍にメイがいて。
メイは真面目に話しているのに、僕は何を考えているんだ。
しかも、いつもメイを追い出すようになってしまう。
メイは魔王だ。メイが一番、不安に思っているはずだ。
魔王とは?
単に絶大な魔力を持った人が魔王という訳ではないのだろう。
メイは別の世界から来たと言っていた。
別の世界から来た人が持つ特別な力があるのか?
それが、死なないということか?
宰相は死なない訳ではないと言っていた上に、先代魔王は自殺したと聞いている。
これまでの魔王は既にいない。
亡くなったか、元の世界に戻ったのだろう。
殺せない魔王を殺す……
メイがそう言っていた。
確かに首を斬られても死なない。だが、それは、僕達やドラゴニュートやヴァンパイアも同様だ。
簡単には死なない。
では、逆にどうすれば死ねるのか?
すり潰すか、焼き尽くせば、さすがに死ぬらしい。
だが、宰相の弟はそうではなかった。
それで言えば、確かに根底が間違っているのかもしれない。
簡単に死なないと思い込まされているだけの可能性もある。
さすがに確認はできない。
メイも悩んでいた。
そんなメイを追い出すような事をしてしまった。
変わらない自分が嫌になってくる。
情けない。
魔王国での地位を得ようと焦っていた。
こういう時こそ、焦ってはいけないにもかかわらず。
常に冷静に。
そう騎士学校では教えられていた。
宰相の元にはこれからも僕がいた方がいい。
それは変わらないが、単に仕事をすればいいという訳ではない。
宰相の弟が全てを行なったという事はないだろう。
これまでの事を考えると矛盾がある。
少なくとも、2つの思惑があるように感じる。
少なくとも、二人以上が別々の意図で動いている。
魔王を利用したい者と殺したい者がいた場合、一人の行動と見れば、その行動は矛盾しているように見える。
それは間違いなく、魔王国の関係者だ。
宰相の弟はどちらだったのか?
僕はメイを護る。それだけだ。
だが、ドラゴニュートやヴァンパイアなどの強さは、覆らない事実だ。
見極めないといけない。
誰が味方なのか。
ただ、僕一人で決めてはいけない事だ。




