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魔王の裁定  作者: 有野 仁
最終章 ③
303/316

303話 魔王とは…… 三

「メルヴァイナ」

先導するメルヴァイナの前にライナスが立ちはだかった。

確か、メルヴァイナとライナスは喧嘩していたはずだ。

「何かしら?」

メルヴァイナはライナスに目を合わせず、そっけない。

無視はしてないから、ちょっとましだけど。

やっぱり、喧嘩と言ってもいつものことだったんだろう。

要は、普段通りだ。

ただ、ライナスから話し掛けてきたのに、ライナスは黙った。

「長く生きたとしても時間は貴重なのよ。私達には大事な用があるんだから」

「くだらない用だろう」

二人はやっぱり目を合わせない。

「私は私の信念に従って行動するわ。あなたもそうすれば?」

「魔王国は基本的には王国にこれまで干渉しなかった。そうあるべきだった。魔王国と人間の国は違う。相容れない。あの裏切り者のせいではあるのだろう。王国の王族の殺害は、伯父の指示だ」

「そう」

ライナスの言葉にメルヴァイナはたった一言返すだけだ。

わたしは、一瞬だけライナスと目が合った。

メルヴァイナはライナスを避けて歩き出す。

わたしとリーナはメルヴァイナの後に続いた。

えっと、これでいいの!? 詳しく聞かなくていいの!?

わたしは心の中で叫んでいた。

まあ、聞いてもどうしようもないとは思う。

これは、知らなくていいことなんだと思う。

メルヴァイナは無言で歩いていく。

メルヴァイナも同じように思っているんじゃないかと感じた。

空気が重い。

初めて魔王国に来た時に戻ったみたいに。

わたしも引きこもりそうだ。

メルヴァイナが口を開いたのは、コーディの部屋の前だった。

「ここからはお部屋に戻る事ができると思いますが、私達も残りましょうか?」

メルヴァイナがわたしを連れて来たのはやっぱり、コーディの部屋だった。

まあ、来たことがあるからすでにわかっていたけど。

「わたし一人で大丈夫です。ありがとうございます」

わたしがそう言うと、メルヴァイナとリーナは歩いて行ってしまった。

そう言えば、コーディはもう部屋に戻ってるんだろうか?

部屋にいないかもしれない。

しかも、さっきまで一緒にいたのに。

すぐに部屋に訪ねて行くって……

わたしはコーディの部屋をノックしようとしたまま、固まっていた。

すると、部屋のドアが開いた。

さすがに倒れこんだりはしなかったけど、心臓が止まりそうなほど驚いた。

出て来たのは、コーディじゃなくて、イネスだった。

コーディと婚約したのって、わたしの妄想だった?

コーディに抱き着く妄想なら、してるけど。

いやいや、そんなはずない。確かに、コーディと、その、キスした。

恥ずかしすぎて、あまり覚えてないけど。

「メイ、少しだけコーディと話があったのよ」

イネスはわたしをコーディの部屋に押し込むと、外からドアを閉めてしまった。

えぇぇ……行かないでよ、イネス。

わたしは勝手に入ってきた感じになっている。

「メイ」

コーディが部屋にいるわたしに気付かないはずがない。

コーディの表情はどことなく険しい気がする。

やっぱり、婚約したのは、わたしの妄想かもしれない……

「すみません。すぐ、出ていきます」

わたしはドアを開けようとするけど、こんな時に限って、滑ってうまく開けられない。

「待って下さい!」

コーディの声がすぐ傍で聞こえた。

わたしはドアとコーディに挟まれた。

「何度も誤解させてしまい、申し訳ございません。イネスから宰相の動向を注視するように言われていただけです。僕としてもそのつもりです」

コーディの必死さが伝わってくる。

「いえ、わかっています」

コーディと距離がすごく近い。

抱き着いてもいいかな?

いや、だめだ。鬱陶しいとか思われたら……

「その、やはり、異性と二人きりというのは……」

至近距離でそんなこと、言わないでほしい。

「でも、イネスとは一緒でした」

「……イネスとは違います」

「わたし、イネスの言うことはわかります。宰相は信じていいのかわかりません。最初からそう思っていました。いきなり、魔王だと言われて」

「魔王国はわからない事だらけです。僕達自身で情報を集めていくしかありません」

「魔王は何なのでしょうか? 王? 神? 単なる魔力供給源でしょうか? それとも、何かよくないもの? それもよくわかりません」

「魔王国の国民は、少なくとも、魔王は王で神だという認識だと思います。現に、国民は魔王の再来を望んでいました」

「そうかもしれません。ただ、宰相は何か隠していると思います。殺せないわたしを殺すため、かもしれません。わたしに長く生きてほしいようですが、本当は逆じゃないのかって、思うんです」

「メイ、僕がずっと傍にいます。メイを必ず、護ります。だから、一人で悩まないで下さい。宰相の考えはまだわかりません。ですが、僕達もいます。一人より多くの情報を得られると思います」

「わかりました。確かに何もしないで悩んでいても仕方ないですね。わたしも、これまでの魔王のこととか、もっと調べてみます。ドリーさんも知っていると思いますし、聞いてみます」

「はい、ただ、宰相に直接、聞きに行ったりはしないで下さい。心配なので」

「さすがにそれは大丈夫です」

わたしのとりあえずの目標は魔王国と魔王について、知ることだ。

そう言えば、トレントのゴホールとは全然会っていない。ということは全然、授業を受けられていないということだ。

わたしの勉強は全く進んでない。

「あの、それと、さっき、ライナスが言っていたんですが、王国の王族の殺害は宰相の指示だと。確証はないですけど」

コーディも元王族だけど、他の王族とはほとんど交流がなかったらしいから、言っても問題はないと思う。

コーディが殺された王族と仲が良かったら躊躇っただろう。

「そうですか。一部の王族を殺されなかった理由はわかりませんが。御しやすいと思われたのかもしれません」

口には出さなかったけど、そんな気がする。

それは、わたしもそう思われているんだろう。

「王国から戻ったところですし、休んで下さい。あまりここにいるのは……」

わたしはやんわりコーディに追い出されて、コーディの部屋の外だ。

あれ? せっかく二人きりだったのに、相談で終わってしまった気がする。

婚約者という気が全然しない。恋人という気も全然しない。

わたしは仕方なく、そのまま自分の部屋へと戻った。

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