302話 魔王とは…… 二
優雅とは言えなかったティータイムを切り上げて、部屋へと案内してもらう。
ランチも遅かったのでお腹いっぱいだ。
案内してもらわないと、わたしは自分の部屋に辿り着くのに、どれくらい時間が掛かるかわからない。
案内はメルヴァイナとリーナがしてくれている。
でも、このまま部屋に戻っていいの?
よくない気がする。
コーディにわたしと婚約した事、忘れられそう。
コーディに会いに行くとかじゃなくて。
ほら、もっと大事なことが!
今後の方針とか。
それは大事だ。わたし達の命にかかわるから。
「あの! メル姉、リーナ。その、まだ、部屋に戻りたくないです」
「ふふ。気が利かなくて、申し訳ありません、メイさま」
絶対、メルヴァイナは誤解している。
でも、その方がいいんだろうか? メルヴァイナは味方?
黒幕だという宰相の弟アーノルドは死んだけれど、余計に疑問も疑惑も増えた。
魔王国で誰を信じていいかわからない。
前にも考えていた。
もう終わったことだと。何も知らないままで、何も気づかないままでいた方がいい。
でも、それだと、わたしも前の魔王のように閉じ籠ることになるかもしれない。
「魔王は本当に魔力を供給してる?」
誰に言うともなく、そう口にした。
「ええ、勿論です。それはこの魔王国に生れた者なら誰でも知っております」
「供給してるとわかるんですか? そういうことを感じるとか」
「いいえ。私の能力では何も。私の理解を遥かに超えているのでしょう。ですが、現に眷属には供給されておりますし、この魔王国を支えられる程の魔力がございます。メイさまの光魔法は魔王国の誰よりも優れております」
確かにそう言われると、そうだと思ってしまう。
「本当は、魔王は疎まれているんじゃないですか? だって、突然現れた知りもしないのを王になんて」
「それはあり得ません。ライナスとティムはまだ子供なだけです」
「メル姉は……疑っていますか?」
何を、とは言わなかった。
「魔王さまを利用しようとしている者はいるでしょう」
「メル姉も?」
「利用していないと言えば、嘘になります。私の願いは既にお伝えしていますでしょう? ずっとつまらなかったのです。この城に閉じ込められて。急にここに連れて来られました。魔王国の為に学び、魔王国を支えていくのだと。選ばれ、名誉なことだと。ただ、一族の中で、私はできがよくありませんでした。王国の勇者と同じ、体のいい厄介払いだと思います。だから、さぼっても何も言われませんでした」
「私達は問題のある落ちこぼれ。いくら本筋とはいえ、私達を選ぶとは思えません。私達は何の為に連れて来られたのでしょう?」
はっきりした口調に妖しい笑みを浮かべ、リーナが言う。リーナらしくない言い方。
裏リーナだ。久しぶりに会った気がする。
「わたしは落ちこぼれなんて思わない。全部完璧になんて、できるわけない。向き不向きは絶対ある」
「ええ、その通りですね。ですが、私も厄介払いだと思いますよ。邪魔な私達の隔離。そして、都合よく、魔王様に押し付けたのでしょう」
裏リーナの言葉は、宰相への批判に聞こえる。
確かに、最初、わたしも押し付けられたと思ってしまった。
「こんな話をしてもいいんですか?」
「聞かれているなら、どこにいてもそうです。気にされることはございません。メイさまは、この魔王国の王で、神なのですから。望むようにされればいいのです」
メルヴァイナは堂々と言い放つ。
メルヴァイナもリーナも宰相を疑っているということだろう。
「どうするんですか?」
「どうもしません。メイさまもそれがいいと思っていらっしゃるでしょう」
その通りだ。
何か行動を起こす気はない。
それが一番安全だと思ってる。
言われた通りの魔王として、魔王国で暮らしていけばいい。
でも、魔王って?
王国の国王とは違う。
単なる魔力供給源だと割り切る?
「私達の時間はまだまだ長いのです。とりあえず、行きましょうか?」
メルヴァイナはくるりと回って引き返す。
今いる場所は見覚えがある。
メルヴァイナについて行く。わたしの部屋からは遠ざかる。




