298話 誕生祭の広場へ
コーディの王城での目的は、ロイと会うことだったんだろうか?
ロイにはわたし達のことを知られてしまった。
ロイとはもう少し話をしたい。
同じく、王になるんだし。わたしは一応、もう王だけど。
あ、でも、ロイはわたしが魔王だと知らない。と思う。
それに、さっき、別れたところでまた会いづらい。
「時間はあります。とりあえず、何か食べに行きませんか?」
もう12時はとっくに過ぎているから、そう提案した。
お腹がすき過ぎて、というのもなくはない。
全員が賛同してくれたので、転移魔法で街中の建物内に転移して、外に出た。
お祭りだからか、街には活気がある。
活気がなかったのは、魔獣や魔王に怯えていたからかもしれない。
闘技場でのこともあるし、それが解消されたのかは謎だ。
セイフォードの方が魔王国に近いはずだけど、王都の方が危機感があったように思う。
すでに街中の通りを歩いてるけど、そう言えば、服を着替えていないとふと気付いた。
だけど、周りを見てみても、わたし達をあやしい人のように見ている人はいない。
どう考えても、あやしいけど。
わたし達も普通に歩いていた。
そもそも、リーナ以外は死んだことになってる。
王国ではわたし達が幽霊みたいなものだ。
セルウィンは顔も出している。
そう言えば、元王太子の顔って、知られているんだろうか?
あまり知られてない気もする。テレビもネットもないし。
それでも、普通に気兼ねなく歩けるのは久しぶりな気がする。
食事する以外にわたしには特に用はない。
この王都に住んでいたわけじゃないから、ほとんどが魔獣が襲ってきた記憶だ。
後は……アーノルドと会ったことを思い出した。
もう、終わったことだ。
「メイ」
コーディが心配そうにわたしを見ていた。
暗い顔をしていたかもしれない。そのことは、わたしの記憶から消えることはないかもしれない。
「アーノルドさんのことを思い出していて」
「そいつが黒幕なんだろう。それでいい。それ以上、関わるべきじゃない」
わたしの言葉に被せるように、そう言ったのは、グレンだ。
「知らない方がいいこともあるから?」
「そうだ。どうにもできない事は現実にある」
勇者という名の生贄にされたグレンの言葉は、実感がこもっている。
ただ、それって、疑わしいことがあるってことだ。
でも、わたしもグレンの言う通りだと思っている。
「僕も深入りすべきではないと思います。僕達ではドラゴニュートに勝てません。忘れる事はないと思いますが、僕達も共に背負います」
「そうね。ずっと傍にいるし、頼ってくれていいわ」
コーディもイネスもグレンもやっぱり納得しているわけじゃない。
ドラゴニュートに勝てないことはわたしでもわかる。
相手がアーノルドでも宰相でもどちらにしろ、勝てない。
彼らはアリシアとも親しかった。それに、聖騎士達は短い間だけど、一緒に旅をした。
アリシアや聖騎士達がどうなったか、忘れられるわけがない。
それでも、これから魔王国で暮らしていく。
できるだけ考えないようにして、忘れたふりをして。
適当に目についたこじんまりしたレストランに入る。
誰もこの辺りに詳しくないので適当なのは仕方ない。
昼を大分過ぎているからか、7人でも十分座れた。
明らかに高級なレストランじゃないけど、グレンもセルウィンも文句は言わなかった。
料理の味は普通だけど、久しぶりに楽しく食べられた。暗い雰囲気での食事はいやだから。
セルウィンが口にした話題は、国際親善試合のことだった。
セルウィンは、相手を圧倒したと自慢げに事細かに語った。どうでもいいことまで。
社交には慣れているんだろう。わたしとは大違いで、話はうまかった。
セルウィンがいてくれてよかったかもしれない。
その後は特に何かする予定があるわけじゃない。
この王都でわたしが行った場所も限られている。
「メイ、どこか行きたい場所はないの? 通常なら誕生祭では中央広場が賑やかだそうよ」
イネスが聞いてくる。
ちょっと忘れてたけど、誕生祭だった。
お祭りだから、イベントがあったり、屋台が出てたりするんだろう。
国際親善試合もイベントの1つだ。
ただ、中央広場は魔獣が暴れた場所だ。どうなっているかわからない。
あれもアーノルドがしたことだろうか?
ああ、それは考えちゃいけない。
中央広場にはもしかすると、ジェロームがいるかもしれない。
「中央広場に行きたいです」
わたし達は中央広場に行くことになった。




