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魔王の裁定  作者: 有野 仁
最終章 ③
295/316

295話 王城にて 三

ロイが消えたのは、転移魔法のせいだ。

ロイの護衛の人達が慌てて捜している。見つかるとは思えないけど。

ロイ自身が転移魔法を使ったということはないだろう。

「リーナ、ロイがどこに行ったか、わからない?」

魔法なら、リーナが一番詳しいと思う。

「今でしたら、追えると思います。追いますか?」

「お願い、リーナ」

「わかりました」

そう言えば、皆に許可を取ってない。

勝手にロイを追うことにしてしまった。

ロイが消えたところまで移動しないといけないかと思ったけど、そんなことはなかった。

もう遅くて、リーナが転移魔法をこの場で使用する。

急に攻撃を受けたらどうしようと思ったが、それはなかった。

転移先もおそらく王城の中だ。

窓からたぶん王都と思われる街が見えている。

結構高いところだから、塔の上の方とかかもしれない。

広くはないけど、この人数がいてもぎゅうぎゅうということはない。

それよりもそこにいたのは、ロイとドリーだった。

ドリーはわたし達を迎えるように笑顔でわたし達の方を向いていた。

「こちらにいらっしゃると思っておりました。傍にいらっしゃることは存じておりましたから」

ドリーがわたし達に声を掛けてくる。

ロイもわたし達を見ている。その状態で声を出すことは躊躇う。

声でわかってしまいそうだ。

ここに来るのはまずかったかもしれない。

「もしかすると、そこにいるのは、私の弟か!?」

セルウィンが突然、大きな声を出すから、びっくりしてしまう。

しかも、その内容はまずい気がする。

今すぐ、セルウィンの口を塞ぐべきなんだろうか。

「レックスだったな。お前も魔王国に来るのか? それなら、このお兄様に頼って構わない」

セルウィンも魔王国に来てそれほど、日は経ってないと思う。

セルウィンの言うように、ドリーはロイを魔王国に勧誘するつもりなんだろうか。

セルウィン達のように、すでにそういうことになってるのかもしれない。

でも、ロイを見ると、そんなことはないと思えた。

ロイも驚いたような顔をしていた。

「あなた方は先程、闘技場にいらした方々ですね」

それでも、ロイは落ち着いた口調だった。

まあ、ドリーと会っている時点で、すでに関わりはあるんだろう。

「私に、あなたのような兄はおりませんが」

ロイにぴしゃりと言われ、若干、セルウィンがショックを受けてそうだ。

「彼とは大事な話があります。静かにしていてくださいますか」

ドリーは穏やかな口調だけど、逆に怖い。

セルウィンも何も言わなくなった。

「失礼致しました。話を戻しましょう」

「その前によろしいでしょうか。あなた方は、この国に対して不可侵という話では?」

ロイはわたし達に目を向ける。

そう言えば、認識阻害の魔法が効いてない。

でも、わたしやコーディのことは気付いてないようだ。たぶん、セルウィンのことも。

「ええ、その通りです。まだ若い彼らはあなたの事が気になるようなので、同席を許可したのです。彼らが手出しする事はございません。いないものと思って下されば幸いです」

わたし達には口も手も出すなということだ。元々、手は出さないけど。

「この方々はあなたの国の中でも強い戦士なのですか?」

「まだ未熟な者達です。これから、より強くなるでしょう」

「そう、ですか……」

「それよりも、私としてはあなたにこの国の王となっていただきたいのです。現在の王は話し合いすらできませんから。とても対等な関係は築けません」

そもそも対等な関係なんてなれるんだろうか。

絶対、むりだと思う。

ドリーの言葉ははっきり言って、脅しに聞こえる。

「私はこの国の第7王子です。私が王となります」

ロイが力強く言う。

「期待しております。それと、もう生贄の勇者を送ってくる必要はございません。不要ですから。基本的には私達はこの国に不干渉です。今回は、私達の国の者が迷惑をお掛けしましたので、出て来たまでの事です」

「不要だと言うのなら、どうして、今回の勇者達は返せないのですか? もう返せない状態だから、ですか?」

「ええ、返せない状態です」

「どうしてそのような酷い事ができるのですか?」

「酷いのは生贄としたこの王国の方々でしょう? ですから、誰もこの国に戻りたいと言わないのです。皆、魔王国の民に望んでなりましたよ。あなたが王となり、この国を変えればいいのです」

「魔王国の民に、ですか?」

「ええ、あなたの兄や姉も」

「ですが、食べられたと……」

「私達は人間など食しません。魔王国には人間も多くおります。その者達も、魔王国の大切な民ですから」

「それでは、先程の――」

ロイがセルウィンに視線を向ける。

「ええ、あなたの兄、元王太子の、セルウィンです」

セルウィンのことは誤魔化せたと思うけど、ドリーは本当のことを言った。

そんなことを話してしまっていいのだろうか。

後で、宰相に怒られないんだろうか。

というより、宰相は知っているのか?

それとも、宰相の指示?

「王族の兄達は全員亡くなったはずです。セルウィンは魔獣から王都を護って亡くなったと聞きました」

「亡くなった王子もいますが、セルウィン王子、エリオット王子、フィニアス王子、それに、マデレーン王女は、魔王国に亡命しました。彼らは王国に戻る事を拒否したのですから、返す事はできません」

これでは、ロイに次期国王を押し付けたようだ。

わたしのせいでもある。

「ロイ……」

わたしはほとんど無意識に呟いていた。

本当に小さな声だったはずだ。

「メイさん! メイさんなのですか!?」

名前を呼ばれて、体がビクッとする。

わたしの声が聞こえていたんだろう。

名前を呼ばれた時点で、もうバレている。今更、どうにもできない。

さっきのセルウィンに何も言えない。

わたしは、観念した。

もう、仕方ない。

「ロイ」

ドリーもわたしを止めない。

「メイさん、本当に、ご自分の意思で魔王国にいるのですか?」

「はい。他に行くところもないので」

「他の方々も無事なのですか?」

「はい、無事です」

わたしはそう言うと、コーディを見る。

「レックス王子、僕達は既に魔王国の民となりました。僕達は死んだものと思ってください」

コーディが顔を見せる。

「……わかりました。無事が確認できてよかったです」

ロイは優しい笑顔を向けてくれていた。

ロイはわたし達に怒っても当然だと思う。

「元の場所にお戻し致します。国王となられることをお待ちしております」

ロイがドリーに転移させられ、わたし達とドリーだけになった。

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