294話 王城にて 二
遠くに見えていた王城まで一瞬で移動だ。
やっぱり転移魔法は便利。わたしも使いたい。
ただ、服はさっきまでと同じで全員黒一色。
ここにいるのは、わたしとコーディ、イネス、ミア、グレン、リーナに、セルウィンだ。
こんな集団が歩いていると不審者でしかない。
幸いにも、この部屋にはわたし達以外に誰もいない。
でも、この部屋を出ると、誰かには遭遇するだろう。
そして、大騒ぎになるに決まってる。
部屋からそのまま出て行こうとするセルウィンを慌ててコーディが止めていた。
「生きていた事にすればいいだろう。駄目なようなら、強行突破できる」
と胸を張るセルウィンに不安しかない。
「認識阻害の魔法を宰相に教わりました。ほとんどの人間には効果があるはずです」
いつの間にコーディはそんな魔法を覚えていたんだろう。
わたしは全く教わっていない。
「この人数を試した事があるのか? いつまでもつ? 見つかれば、本当に強硬手段になる」
グレンの言うことはもっともだ。
「とりあえず、僕とセルウィンお兄様とで様子を見るつもりだ。1時間ほどなら問題ない」
騒ぎになれば、かなり怒られそうだ。それで済めばいいけど。
仕方ないから、王国を滅ぼそうとか言われたら、どうすればいいかわからない。
「あ、あの、それでしたら、私が魔法を掛けます。皆様全員でも大丈夫です」
リーナが提案する。
リーナの魔法なら安心できる。メルヴァイナも妹自慢をしていたぐらいだ。
そういえば、最近、裏リーナには会っていない。
裏リーナがいなくても大丈夫になってきたんだろう。
わたしだけが置いて行かれている気がする。
仲のいい人達を外側から見ているような。
どこか孤独を感じる。
わたしができることって、何もない。
わたしって、ここにいていいんだろうか。
前の魔王もこんな気持ちだったんだろうか。
でも、宰相の弟の話が本当なら、前の魔王は自殺じゃない。元の世界に戻ったんだ。
いや、前の魔王は死んだと聞いた。死体もあったようだ。消えてしまったわけじゃない。
魔王は死なないとも聞いた。
何が本当なのか、わからない……
誰の言葉が信じられるのかも……
「メイ、僕の我儘に付き合わせてしまって申し訳ありません」
コーディが申し訳なさそうにわたしを見ていた。
もしかして、不機嫌なように見えたんだろうか。
「すみません、全然違うんです。ちょっと、色々考えていて」
「そう、ですか。では、この後は、二人で出掛けましょう」
コーディはやっぱり優しい。
宰相とか、宰相の弟とか、とりあえずはいいかと思ってしまう。
「おい、それなら、ここの確認は早くに終わらせる。置いて行くからな」
グレンは本当に不機嫌そうにわたし達にそう言う。
いつもの調子かもしれないけど。
「ロイは無事でしょうか?」
「あの後、すぐに闘技場を出て王城に向かったそうです。ここに到着するまでもうしばらく掛かるでしょうが、何の情報もありませんから、無事でしょう」
「だから、置いて行くからな」
グレンがもう一度、言ってくる。
コーディと二人で苦笑して、グレンの後に続いた。
セルウィンが王城内を案内してくれる。
途中ですれ違う人達は、わたし達に目もくれない。
不思議な気分だ。
まあ、普通の道では他人のことをそこまで見てないだろうから、普通のことかもしれない。
ただ、ここは厳重なはずの王城だ。
しかも、わたし達は不法侵入だ。
悪いことをしている自覚は十分にある。
セルウィンの部屋だったという部屋にも案内された。
セルウィンが言うには、部屋の中は変わっていないらしい。
すごく豪華で広い部屋だ。
広さは魔王城のわたしの部屋の方が広いけど、それより派手な気がする。
こういう部屋にももう慣れた。
他にもいくつかの部屋に行った。
王城の見学ツアーのようだ。
特に何かがあるわけじゃない。
誰もわたし達には気付かない。
いるのにいない。
ただ、実体はあるから、ぶつからないようにしないといけない。
三人が並んで歩いてきたときは一列に並んでやり過ごした。
そんな見学ツアーの途中で、
「あの、レックス様が戻られたようです」
リーナが言う。どうやって知ったのかはわからない。
ヴァンパイアの特殊技能かもしれない。
ロイが戻ってきたようだ。
わたし達は馬車の着く場所の近くに移動した。
馬車は豪華絢爛なものではなく、シンプルだった。
ただ、ちゃんと護衛はいるようだ。王族の護衛には少ない気がするけど。
ロイが無事でよかった。
さっきより、ずっと近いから顔も見える。
またちょっと痩せた気がするけど、元気そうだった。
そのロイがこの国の次期国王だ。
わたしも一応、女王だけど。わたしの用途は魔力供給だけだ。
このまま何もなく、本当に見学ツアーだけで終わりそうだと思ったとき、ロイが消えた。




