292話 観戦
ドリーは魔王国から出るつもりがないと思っていた。
事実、そんな口ぶりだった。
「魔王様の安全は私が保証致します。他の者に任せておけませんから」
そう言って、ドリーはわたしの手をとって、微笑む。
もしかすると、わたしが行きたいと言ったから、出て来てくれたのかもしれない。
でも、ドリーは、嬉々として?観客を脅していた。
魔王が嘗められてはいけないというのもあるだろう。
国際親善試合はわたしが勝手に言っているだけで、今の雰囲気にあまりそぐわない気はする。
スポーツとかの試合を見るというような雰囲気ではない。
楽しむなんて無理だろう。観客達は恐怖で顔が引き攣っているだろう。
巻き込まれた人達が不憫すぎる。
そう、雰囲気は最悪だ。
これで楽しめるとは思えない。
それに、実際に試合に出ないといけないコーディ達は大丈夫だろうか。
ドレイトン先生まで駆り出された。
ムチャぶりされてないといいけど……
試合を盛り上げるようにとか。
王国側、対戦相手は、普通の人間なんだろうか?
盛り上げるために、魔王国が対戦相手を用意していたりとか。
それとも、残酷に相手を殺すようにコーディ達に言っていたりとか。
なんだか、不安になってきた。
王国に行きたいなんて、気軽に言うんじゃなかった。
もし、今から、ひどい状況になれば、わたしのせいだ。
責任。その言葉が重く感じる。
ただ、向かいに、ロイがいる。
ちょっと遠いからよくは見えないけど、出て来られるくらいだから、元気そうだ。
わたしにできることは何もない。
ただ、試合を見るだけだ。
本当に何もかも中途半端だ。
これでいいのかなって思う。
黒幕は宰相の弟で、宰相が処刑した。
簡単な話だけど、しっくりこない。
あっさりしすぎているから、かもしれない。
宰相にとっては、弟だった。
殺したふりをしているだけかもしれない。
まだ、そう考える方が理解できる。
宰相の弟は、魔王信仰の狂信者かもしれないけど、やっぱり神官長のイメージが強くて、黒幕だとは思えない。
疑ってたのは事実だけど。
単にわたしが騙されているだけの可能性もすごくある。
宰相の弟に、それと、宰相にも。
一時、いなくなっていたドリーがコーディ達を連れて戻ってくる。
皆、顔を隠していて、黒一色だ。
わたしがあの場にいれば、緊張ですぐにトイレに籠りたくなりそうだ。
それに比べて、彼らは堂々としている。
魔王の配下に見える。
わたしじゃなくて、あの魔王っぽい偽魔王の。
試合は基本的には正々堂々とした試合だった。
血しぶきがあがるような試合ではない。
試合以外ではあったけど。
首を斬り落とされたぐらいでメルヴァイナは死なない。
それ以外に白熱した試合もなく、盛り上がらない。
一瞬で決着がついてしまう。一方的過ぎる。
観客も王国側を応援できない。
ドリーががっかりしているように見える。
本当に楽しんでほしかったのかもしれない。
わたしとしては、これでよかったと思う。
王国側の人達は無事だろう。
ちょっとコーディのカッコイイ姿が見れるとわくわくしたのは口が裂けても誰にも言えない。
これに何の意味があったのかわからないけど。
本当に国際交流のつもりだったのかもしれない。
後、わたしを混乱させるためだったりしたら、正解だった。
国際親善試合の後、ドリーには街の中にある魔王国の拠点に連れてきてもらった。
ドリーはさっきの試合を特に気にしているようには見えない。
街の中はあの闘技場と違い、賑わっていた。
あの場にいて、忘れかけていたけど、今日はお祭りだ。
毎年、国王も国民の前に姿を見せるそうだ。
そうだった。わたしは国王の誕生日のお祝いという名目で来たんだった。
国際親善試合のためじゃない。
あれ? その試合がお祝いだったんだろうか?
誕生祭を盛り上げるためとか?
魔王国はまともに外交をしてなかったから、ちょっと間違ってることもあるかもしれない。
たぶん、対等な関係は無理だと思う。
魔王国は対等にする気がないと思う。
でも、これでいいんだろうか?
わたしは何もしてない。
何の役にも立ってない。
何もかも中途半端で、解決したとは到底思えない。
闘技場にいた人達と試合に熱狂できれば、少しは気が晴れたかもしれない。
まあ、わたしは騒ぐような性格じゃないけど。
やっぱり、このままじゃあ、だめだと思う。
むしろ、魔王国はもう、王国には関わらない方がいいのかもしれない。




