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魔王の裁定  作者: 有野 仁
最終章 ②
291/316

291話 国際親善試合 五

勝利したグレンが戻ってくる。

メルヴァイナが傍に寄り、何かを話しているようだ。

ドレイトン公爵はフィンレー・テレンス・ドレイトンやグレンに気付いたかもしれない。

それとも、それ以前に何か知っていたのかもしれない。

そうでなければ、ドレイトン公爵がこのような試合に出てくるとは思えない。

誰かが止めなかったはずもないように思う。

僕自身、人のことは言えないのだが。

それでも、順調に進んでいる。

これなら、早くこの試合を終われそうだ。

こちらはさして重要ではない。本命は王城の方なのではないか?

これはレックスかメイか僕達を王城から遠ざけておく為だけの試合の可能性があると僕は考えている。

王国側の一人が、怒ったような足取りで前に出てくる。

「姉上を返せ」

彼は怯まず、魔王に剣を向ける。

名乗らず、兜も取らないが、その正体はわかる。

2歳年下のイネスの弟だ。

デリン侯爵家は厳格な貴族だ。騎士団長を輩出し、フォレストレイ侯爵家と並び、武に秀でている。

家族ですら敵と見なしているような冷たい雰囲気がある。

そのデリン侯爵家の中では、このイネスの弟は雰囲気が多少違う。

彼も騎士学校に入学していたので、幾度が会っている。彼はイネスのことを否定したりはしなかった。

「僕は騎士になる。敵とは言え、女性と戦いたくはない。それに、そのような姿をするものではない」

言いたいことはわかる。

イネスの姿は、おそらく、イネスが望んでしている訳ではない。

肌は見えていないし、羽織るものを着ているとはいえ、体の線が出てしまっている。

王国の女性はこのような服を着ることはない。

メルヴァイナがよく露出の高い服装をしているので、慣れてしまっているように思う。

イネスが何か言ったような気がするが、よく聞こえない。

試合が始まると、すぐにイネスは圧勝した。

魔王の眷属となり、力も強くなった。並の騎士ではイネスに勝てないだろう。

ここまでの王国側の二人は知っている人物だった。

宰相やドリエスが王国にいる家族と会わせてくれたようにも思える。

そんな気を利かせてくれる二人なのかは疑問だ。

ただ、魔王国で仕事をしている時も、つらく当たられる事も突き放される事もない。

宰相が善人に思えてくる。

だから、信じられるという訳ではないが。

今、考えてわからないことをこれ以上考える必要はないだろう。

次は、僕の番だ。僕が負ける訳にはいかない。

相手は誰かわからない。

残った一人が家族の誰かではないことはわかるが、急に、兄が出てくるような気さえする。

死んだはずのルカ・メレディスが出てくるような気もする。

体型を見ても第3騎士団のエヴァーガン団長でないのは確かだ。

僕の相手は特に何か言ってくることはなかった。

相手が兜を取る。

やはり、知らない顔だった。

実はかなり強いのではないかと警戒したが、そんなことはなかった。

試合開始後すぐに、僕は相手の剣を弾き落としていた。

後は気を失わせるだけだ。

相手を傷付けずに気を失わせる方が難しく思える。

一瞬で苦痛なくというのは今の僕にはできそうにない。

多少の痛みや苦しさは我慢してもらうしかない。

闇魔法で頭を狙って、気を失わせた。

5戦とも魔王国側の勝利だ。

相手は全く魔法を使ってこなかった。使う暇はなかったと思うし、あくまで補助としか考えていないからだろう。

「余興はここまでです。十分にお楽しみいただけず残念でございます。それではこれにて失礼致します」

ドリエスがそう言うと、淡い光に包まれた。

僕だけでなく、魔王国側の全員だ。

転移させられたのだ。

「お義父さまに挨拶ができてよかったわぁ」

転移直後からメルヴァイナが騒いでいる。

その場で、ドリエスから、緑の瞳を持つ王の隠し子を名乗る者が昨夜から行方不明になっている事を聞いた。

驚く事ではない。

暗殺や誘拐も不思議ではない。

魔王国にとっても、おそらく、邪魔な存在だ。

その姿を見てみたいとは思ったが、もう無理だろう。

それが分かっているにもかかわらず、なぜ、少ない護衛でレックスをここに来させているのか。

レックスまでいなくなれば、王国の跡継ぎはどうするというのか。

ここは割と簡素な部屋で、試合に出た僕達5人とメルヴァイナとドリエスがいる。メイ達はいない。それに、対戦相手の王国側の5人が気を失ったまま、雑に転がされている。

どこか不気味に思える。今回のこの国際親善試合も。

今まで王国の者に姿を見せる事がなかった魔王国。

それが、出てきたのだ。今になって。あれ程の人数の前に。

魔王国が、というより、宰相は何かを隠しているように思う。

何か思惑があるはずだ。

例え善人に見えていても、僕が宰相の傍にいて宰相を見張る。メイは必ず護る。

僕は一人ではない。

同じ目的を持った仲間がいる。

これ以上、心強い事はない。

僕とイネスとグレンは、ドリエスにメイのいる場所に転移させてもらった。


しばらくした後に、もう一度、王国でフィンレー・テレンス・ドレイトンに会った。

「弟に一声だけ掛けておいた。私だとは気付かないだろうが。まあ、王国に来て、悪くはなかった」

フィンレー・テレンス・ドレイトンは満足そうだった。

勿論、王国側の5人は無事に解放されたそうだ。

レックスも無事だと聞いた。

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