29話 リーナと
「ドレイトン先生に協力を頼もうと思ったのに……」
浴室に引っ張り込んだメルヴァイナとリーナに愚痴った。
「確かにそうねぇ。困ったわねぇ」
そう言いながら、メルヴァイナはあんまり困っているようには見えない。
剣術の稽古以外で、ドレイトン先生に接触するのは難しい。いろいろな意味で。
あ~~もっと色々と罠を仕掛けるつもりだったのに……結局、何もできていない。
古典的な罠も考えていたが、よく考えれば、無意味だと思い知った……
落とし穴……掘れない……
くくり罠……誰が引っかかるのか……
「あの、こちらをどうぞ。その……役に立つかはわかりませんが……」
リーナが静静と何かを差し出してきた。
それは、飴玉ぐらいのツルツルできれいな球体の石だった。石は、赤、青、黄の三色のものがそれぞれ1つずつ。
「ああ、これはいいわね。メイさま、こちらには魔法が込められているのです。使用しましても危険はありません。赤は、火の幻を見せ、体を温めます。青は、水の幻を見せ、涼しくさせます。黄は、激しく発光します。それぞれ3回ほど使えます。うまく使えば、役に立ちますよ」
赤は冬に使えば、青は夏に使えば快適そうである。黄は何に使うんだろう……
ただ、今回の用途で言えば、相手を快適にしても意味はないので、黄が一番役立ちそうだ。
「ドラゴニュートは感覚が鋭く、身体能力も高いので、不意打ちでも、中々、厳しいですが、頑張ってくださいね」
じゃあ、どうして、こんな勝負にしたんだろう……
特にデメリットはないからかまわないけれど……
「逆にもっと攻めてもかまわないのですよ。ちょっとやそっとの攻撃で怪我なんてしませんので。むしろ、それくらいで怪我をするようなら、護衛なんて辞めさせるように宰相さまに進言します」
メルヴァイナが笑顔で言う。
自分の部屋で一人になる。わたしは手のひらの上に赤い石を載せ、くるくる回していた。
これ、どうやって使うんだろう。聞き忘れた……
石を持ち、出ろと唱えても、何も起こらなかった。
使えれば、きっと、焚き火のような炎が見えるのだろう。
じゃあ、投げればいいのかな。
赤い石を爪でコンコンと叩いてみる。薄いガラス玉のようには見えないので、強度はありそうだ。
わたしは軽く下投げで投げた。
カーペットの上に落ちた瞬間、僅かに赤く光りーー
業火が見えた……
本気で恐怖を感じた……
便利グッズか子供のいたずらグッズのようなものかと思っていたが、とんでもなかった。
全然快適ではない。冷や汗が出た。温かくなるはずが、むしろ、寒くなった気がする。
これを使うと、自分も驚きそうだ。確かに、炎は熱くないし、実際に燃えているわけでもない。だが、確実に、他に人がいるところだと、かなりの迷惑になる。
この分だと、後の二つも似たようなものだろう。
寝る前にこれ以上、試したいと思わない。寝られなくなりそうだ。
後は、うっかり落としたり、ぶつけたりしないように気を付けないといけない。おそらく、衝撃に反応するのだろう。
不意打ちでそうなれば、わたしの方が被害がありそうだ。
あっ、嫌なことを思い出した……
あれは忘れ去りたい過去だ。
それは忘れて、明日は、がんがん攻めよう。
下手な鉄砲も数を打てば当たるのだ。
明日の方針が決まったところで、わたしはすぐに寝た。




