289話 国際親善試合 三
かなり傲慢に聞こえるドリエスの挨拶により、更に居心地が悪い。
平民は音を立てただけで殺されるとでも考えていそうだ。
僕は騎士として一戦交えるつもりでも、観客を楽しませるつもりでもなく、確かに一種の外交なのかもしれない。
ただ、そう、今の僕の立場は非常に曖昧だ。
レックスや王国民から浴びるのは敵意だろう。
彼らから見れば、僕達は人間ではない。フィンレー・テレンス・ドレイトン以外は、事実その通りだが。
幸いにも、フォレストレイ侯爵家は誰もいない。
それに、メイや親しい友人達は味方だ。
相手を殺す必要もない。粛々と勝てばいいだけだ。
相手が誰かわからない為、対策も何もない。
魔王国の代表であるように堂々としているだけだ。
他の4人も動じていない。
僕の左隣からイネス、メルヴァイナ、セルウィン、フィンレー・テレンス・ドレイトンが並んでいる。
偶々そのような並びになっていただけだが、戦う順もこのままになりそうだ。
一番手だと言ったフィンレー・テレンス・ドレイトンが前に出る。
「誰が私の相手をするんだ?」
彼は悪役を演じるかのように威圧的な低い声を出す。
彼の言う通り、対戦相手がまだ出てこない。
それに、この場の進行や審判は誰がするのか。
漸く、僕達のいる場所の反対側から5人が歩いて出てくる。
彼らが対戦相手だ。
魔王国を相手にして、怯える素振りはない。
4人は僕達と同様、顔を見せていない。
ただ、僕の父や兄ではない事は確かだ。
短時間でよく5人集めたと思う。
中央付近が淡く光り、一人の男が現れた。会ったことのない男だ。
その男は審判役なのか、一応、この試合の経緯とルールの説明をする。
なんでもありなので、ルールはないようなものだ。
戦闘継続不能となれば負けとなる。
僕達が今立っている場所は全体的に平らで、特に試合の行われる範囲は指定されていない。
戦っている二人以外が巻き込まれる恐れもある。
審判役は1対1だと説明していたが、偶々、他の者に攻撃が当たってしまっても失格にはならないだろう。
騎士同士の手合わせではないのだ。そもそも、失格という概念がないかもしれない。
相手の一番手は顔を見せている。
その対戦相手の顔には見覚えがない。
対戦相手が名乗るが、その名を聞いても覚えがない。
フィンレー・テレンス・ドレイトンは黙ったまま、名乗りはしない。
試合が始まり、決着は直ぐについた。
フィンレー・テレンス・ドレイトンが相手の剣を弾き飛ばし、相手の喉元に自分の剣を突きつける。
相手はほんの少しの間放心した後、降参した。
ただ、審判役は判定しない。試合の継続を合図する。
フィンレー・テレンス・ドレイトンが即座に動き、相手の頭部を剣で打ちつける。
対戦相手が倒れる。
気絶しただけのようだ。
そこで漸く審判役はフィンレー・テレンス・ドレイトンの勝ちを告げた。
降参では戦闘継続不能とみなされないようだ。
倒れた対戦相手は審判役によって消されたように見えた。
おそらく、どこかに転移させたものと思う。
第二戦、セルウィンが前に出る。堂々と、足音を大きく響かせて。
だが、その後、向きを変え、僕に近づく。
「フィニアス、緊張しているのか。私は兄だ。しっかり、手本を見せてやろう。王国の者など、あっさりと倒してやろう。今の私は魔王国の代表だからな」
多少、小さめの声でセルウィンが僕に言う。
僕は王国民に聞こえていないか、気が気じゃない。
セルウィンの声はよく響くのだ。
少なくとも勝つつもりではあるらしい。
セルウィンの対戦相手も知らない男だった。
名乗りはしたが、家名は言わなかった。
エヴァーガン侯爵家の私兵なのかもしれない。
セルウィンは大剣を構えるが、闇魔法も使用した。
セルウィンの周りに6個ほどの小さな黒い何かが作られた。
形はどれも歪で、何かはわからないが、それでも、以前より闇魔法が上達している。
その何かを相手へ6方向からぶつけ、その間に大剣を相手に叩きつけた。
相手には何もさせず、本当にあっさり終わった。
相手は昏倒している。おそらく、昏倒しているだけだと思われる。
昏倒した相手はまた、審判役によって、どこかに転移させられた。




