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魔王の裁定  作者: 有野 仁
最終章 ②
286/318

286話 王国からの要求

明日は王国で誕生祭が行われる。

国王は姿を見せるのか、レックスが引っ張り出されるのか。

それとも、緑の瞳の隠し子を公表するつもりなのか。

気にはなるが、既に僕の国は魔王国だ。

魔王国を第一に考えなければならない。

宰相の元で早く役立てるように。

朝の剣術の鍛錬の前、グレンが僕の部屋へ訪ねてきた。

まだ外は薄暗い。

ただ、火とは違う魔法で灯された明かりで部屋の中は明るい。

「これから聞かされるか知らないが、言っておこうかと思ってな」

グレンが不機嫌そうな表情を浮かべている。

「なんだ? 嫌な話か?」

「どうだか。メルヴァイナから聞いた事だ。王国は死体でいいから俺達5人を返すように求めたらしい」

「王国が? 何か益があるのか……」

僕達は死んでいる前提であるらしい。

僕も歴代勇者は死んでいると思っていたから、当然かもしれない。

「さあな。聖女の死体を薬にするとか」

「……」

僕には絶対にそんなことはないと否定はできなかった。

レックスが僕達を弔う為に、という事もない訳ではないが、現状のレックスにそんな権力があるかは疑問だ。

国王がいる以上、勝手な事はできないはずだ。

「それより、魔王国は拒否したのか?」

「それが、王国の提案を条件付きで吞んだらしい。とは言え、実質拒否したようなものかもしれないがな」

「かなり厳しい条件か」

「ああ。魔王国が用意した相手に勝てれば返却するそうだ。はっきり言って、普通の人間は上位種には勝てない。人間でも魔王国の人間は王国の人間より魔力が高いらしいしな」

人間同士でも攻撃主体の魔法相手では開始直後に決着がつくだろう。

「どうしてそんな面倒な事をするんだろうな」

「王国も魔王国も理解不能だ。友好的に接する訳でもないだろうからな」

「確か、メイがライナスに挑んだと話を聞いたが、魔王国にはそういうマナーでもあるのかもしれないな」

「ハハハ、そうだな」

「ああ、メルヴァイナはそれをどこから聞いたんだ?」

「ライナスからだ。それ以上はわからないな」

王国は魔王国にどのようにそれを伝えたのか?

おそらく、連絡役がいるはずだ。

その辺りの情報は、僕達には回って来ない。

それは自分で得るか、得られる立場になるしかない。

「それはそうか……そろそろ行くか。遅れると何を言われるか」

「ああ」


その日の剣術の鍛錬の後も宰相の元へ向かった。

勿論、僕一人ではまだ何もさせてもらえない。必ず、誰かがついている。

それはライナスも同様だった。

ライナスもこのような事はこれまでした事がないらしい。

僕はライナスが次期宰相候補として教育されているのかと思っていたが、これから、という事らしい。

僕は更に、魔王国について学ぶ事も必要となる。

王国よりも発達したこの国に学ぶ事は多岐に亘る。

王国の事は気になるが、それどころではないのが、僕の現状だ。

その日の夕刻、グレンとイネスとメルヴァイナ、それに、なぜか、セルウィンとフィンレー・テレンス・ドレイトンが宰相の執務室へとやって来た。

その様子からなぜ呼ばれたのか、彼らもわかっていないようだった。

僕も何も聞いておらず、用件はわからない。

僕とライナスも宰相から呼ばれ、僕達は宰相の机の前に居並ぶ。

宰相の隣にはいつの間にか、ドリエスという女性のドラゴニュートがいる。

「メルヴァイナ、あなたを呼んだ覚えはありませんが、まあ、いいでしょう。明日、王国へ行ってもらいます」

「伯父上、今更、王国ですか? 無意味では?」

ライナスが宰相に食って掛かる。

「無意味な事はしない。必要があるからだ。私は行かないが、代わりにドリエスが指示を出す」

宰相は先程までとは打って変わって、冷たく言い放った。

メルヴァイナですら、黙っている。

セルウィンも空気を読んだのだろう。大人しくしている。

「緊張しなくて大丈夫です。ここからは私が説明しますね」

微笑みを浮かべた優しい雰囲気のドリエスが話を始める。

「一部の方は既にご存じかと思いますが、王国は先日、引き渡された5名の返還を求めてまいりました。他国からの要求など、魔王国にとって、初めての事です」

誰かが息をのむ。

ドリエスの言い方はまるで報復するかのような言い方だ。

「こちらの用意する5名と対戦して王国のどなたか一人でも勝つ事ができれば、返還することとなりました。ええ、こちらとしてもかなり譲歩したと思います。こちらの5名は、コーディ、グレン、イネス、セルウィン、フィンレーとします。勝敗にはこだわりません。せっかくの故郷の王国国王の誕生祭なのですから、楽しんできてください」

なぜ、僕達なのか?

まるで試されているようだ。

僕達が故意に負ければ王国に帰ることができる。王国に帰る気はないが。

ただ、セルウィンとフィンレー・テレンス・ドレイトンの考えはわからない。

それに、セルウィンは攻撃魔法が使えるとは言えないし、剣術もそこそこだ。

ある程度の王国騎士相手では勝つつもりでも負ける可能性がある。

「お聞きしてもよろしいでしょうか?」

これ以上、宰相やドリエスの機嫌を損ねないように気を遣う。

「何でしょう?」

「仮に王国に負け、魔王様を王国に渡してしまう事になっても差し支えないのでしょうか?」

「問題ありません。方法はいくらでもありますから」

ドリエスはにこやかな表情のままだ。

5人の人選の理由はわからない。

単に誰でもいいのかもしれない。

勝つつもりなら、ライナスやメルヴァイナが戦う方が確実だ。

今の時点で悩んでも意味がない。

明日は王国に行くしかない。

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