282話 国王の誕生日お祝い計画
昼食は部屋まで運ばれてきて、部屋で食べたし、わたしは部屋に閉じ籠っていた。
というより、特に行くところはない。
誰も訪ねて来ない。
何もすることがない。
はっきり言って退屈だ。
これからずっとここで過ごさないといけない。
前の魔王は何をして過ごしていたんだろう。
そう言えば、研究していた魔王もいたって聞いた。
わたしも何かしないといけない。
部屋でごろごろしているのは、いくら長生きでも時間の無駄な気がする。
わたしも転移魔法が使いたい。
それに、全部、宰相に任せてしまうのもどうかと思う。
少しでもできることをすべきだと思う。
メルヴァイナとの約束もあるし、アーノルドのこともわかるかもしれない。
部屋を出るなとは言われていないのだ。
ごろごろしている内にもう、夕方近くになっている。
よし、部屋を出よう!
思い立って立ち上がった正にその時、ドアがノックされた。
「メイさま、入ってもよろしいでしょうか」
メルヴァイナの声が聞こえた。
ドアを開けると、いたのはメルヴァイナ一人だ。
「メル姉、どうかしたんですか?」
「大した用事ではないんです」
わたしはとりあえず、メルヴァイナを部屋に入れ、ソファに座った。
「まだ、王国の事が気になっていらっしゃいますよね?」
メルヴァイナはそう切り出してきた。
それはそうだ。気になっている。でも、わたし一人では簡単に王国に行けない。
そもそも、王国ではもうわたし達は死んだように思われているだろう。
だから、フォレストレイ侯爵家の人達以外には会えない。
メルヴァイナは今回のことをどこまで知っているのか?
「もう一度、王国へ行けるかもしれません」
わたしが行って、何かができるとは思えないけど。
ただ、ロイの様子はわかるかもしれない。
ロイは王太子になった。急にそんなことになって、たぶん、大変だろう。
「本当ですか」
期待はあまりしない。
「ええ、魔王国は王国と関わってしまいました。多少なりとも、外交が必要になるという事です。ただ、魔王さまとして、ですが」
確かにこれまで魔王国の存在は王国の人達には知られていなかった。
ロイが国王になれば、わたしは魔王として対峙するってことだ。
向こうからすれば、わたしは敵ということになる。
それは、さみしい。
「3日後、王国は国王の誕生祭ですね。王子が残り一人になりましたのに呑気なものですが」
「それは、魔王として、国王の誕生日のお祝いに行くということですか」
「平たく言えば、そうですね」
まあ、普通に考えて、魔王に誕生日に来られたくないような気がする。
ほとんど、嫌がらせだ。
実際には魔王に力はないけど。
いや、むしろ、治癒魔法が一番得意というのも……
未だに戦える魔法が一つもない。
「どうされますか?」
メルヴァイナがちょっと怖い笑顔で聞いてくる。
「あの、王国を襲撃するとかではないですよね?」
「したいのでしたら、構わないと思います」
「いえ! したくないです!」
「わかりました。誕生日のお祝いに行くのですね」
「そ、そうです。といっても、ちょっと様子を見るくらいでいいんです」
絶対、向こうはお祝いに来たとは思わないだろう。
実際にはお祝いに行くことが目的じゃないから、いいのかもしれない。
でも、メルヴァイナにはちゃんと言っておかないと、とんでもないことになりそうだ。
「お任せください、魔王さま」
自信たっぷりにメルヴァイナが言う。
その自信に、早まったかもしれないと思った。
わたしの部屋を出て行こうとするメルヴァイナは一旦立ち止まり、振り向いた。
「あの、魔王さま、あの子と婚約されましたが、本当に魔王さまはそれを望まれているのでしょうか? あまり一緒にいらっしゃらないようですが。私は私の婚約者と昨晩はずっと一緒でしたよ」
後半はちょっと、聞きたくない。前半も耳が痛すぎるから、やっぱり聞きたくない。
望んではいるけど、答えにくい。
「えーっと、それは……」
でも、変な誤解ももうされたくない。
「望んでいます。わたし達はわたし達なりに」
「それならいいのですが。いつでも相談に乗りますよ」
メルヴァイナは次こそ、部屋を出て行った。




