28話 ゲーム開始
夜はぐっすりと眠れ、心地よい目覚めを迎えた。
よし!
と気合を入れる。
今日から対ライナス戦である。負けて死ぬわけでもないゲームだ。
ただ、やるからには、勝ちたい。それに、勝った方がこの先、有利に進みそうだ。
わたしは魔法攻撃はできない。そもそも、攻撃魔法が使えたとしても、建物の中で魔法をぶっ放すなんて度胸はわたしにはないと思う。
豪華な部屋を無茶苦茶にするなんてとてもではないができない。
魔法攻撃ができないなら、利用できるものは何でも利用するしかない。
例えば、ライナスが尊敬しているというドレイトン先生とか。
多少、卑怯でもまともにやって勝てるとは思えない。しかも、ほとんど運動をしてこなかったので、身体能力は平均より下だった。
最近は、剣術もやって、少しましにはなったかもしれないが、急にパワーアップなんてするわけがないし、そんな実感なんてない。
わたしが自分の部屋を出ると、そこには、メルヴァイナとリーナ、それにライナスとティムまでが片膝を着いていた。
「魔王さま、私達四人は誠心誠意、護衛として務めさせていただきます」
メルヴァイナが恭しく言う。
といっても、若干、ティムからは不服だというような雰囲気が漂う。
それに、ライナスも絶対に不服だろう。ティムのように、表には出さないが。
メルヴァイナに無理やりさせられているのだろうことは想像に難くない。
一見すると、忠実な魔王四天王という気はしてくる。
宰相の口ぶりだと、彼らを護衛というよりは忠実な配下にするようにということなのだろう。
宰相から試されている、ともいえると思う。
実際には、ライナスとティムは忠実なふりをしているだけだ。
それは、これまでのことから嫌というほどよくわかる。
今は気にしても仕方がないので、彼らを伴い、魔王城の特別区を出た。
わたしの部屋は、魔王城の中でも最奥と言われる特別区にある。
特別区への出入りは厳重に管理されていて、特定の人物しか出入りすることができない。
勿論、魔王であるわたしは出入り自由である。
向かう先は、これから日課となる剣術の稽古の場だ。
わたしとしては、週に2,3回を考えていたが、いつの間にか毎日することに決まっていた。
魔王城の庭園にはすでにグレンの伯父さん、ドレイトン先生がいた。
ライナスはドレイトン先生を尊敬していると聞いていたが、特に会話も会釈も何もない。
メルヴァイナが勝手にそう思っていただけだろうか。
「ライナス、ドレイトン先生に挨拶とかしなくていいのですか?」
「護衛は出過ぎた真似をするべきではない」
ライナスにぴしゃりと言われた。
本当に尊敬しているのかは不明だった。
とりあえず、剣術の稽古中、よろけたふりをして、ライナスに近づき、ライナスに向かって木剣を振り下ろした。
あっさり避けられ、何事もなかったように振舞われた。
これははっきり言って、想定済みだ。
もし、これで当たるようなら、よほど弱いか、わざとか、のどちらかだ。
どんなものか、一度、試してみたかっただけだ。
ちなみにこの後、ドレイトン先生に、稽古中、勝手なことはしないよう、小言を言われた。
ライナス達四人は、大して面白くもないわたしの稽古をずっと眺めていた。
これでは、ドレイトン先生と内密に話ができない。
対象が傍にいるのはありがたいが、ずっとだと作戦が実行しにくいということに気付いたのだった。
わたしは内心、焦っていた。
わたし、馬鹿だ……
と、打ちひしがれても仕方ない。
剣術の稽古が終わった今も、四人がいる。
もう、嫌がらせじゃないかと思う。
勝つためには、やはりライナスの隙を突くしかない。そのためには、隙を作らないといけない。偶然に頼るわけにはいかない。
わたしから目を逸らさせる、何かに意識を向けさせる、何かに掛かりきりにさせる。それができないといけない。
何か騒ぎを起こす……他の人に迷惑を掛けるのはだめだ。
ゴホールによる勉強の時間、気もそぞろだった。
身が入っておりませんと、またまた小言を言われるのだった。
勉強の時間に何かするのは諦め、まず、今日中にメルヴァイナとリーナに相談しようと決めた。
四人は、護衛としてわたしに張り付いている。昨日言ったように、確かに、仕事はしている。
ただ、これでは、単なる雇われた護衛だ。宰相が求めているのは、こういうことではないはずだ。
何より、わたしとライナス、ティムとの間で信頼関係がないと思う。
まあ、突然できるとも思えない。気長にするしかないかな。
浴室に入るとき、ようやく、ライナスとティムを追い払えた。




