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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ⑦
279/316

279話 魔王国への生贄

わたし達5人が魔王国へと引き渡される日。

空はどんより曇っている。

天気は何でもいいけど。

それまではよくコーディかイネスかミアか、ごく偶にグレンがわたしの傍にいた。

訳を聞くと、

「聖女の引き渡しに反対している者がいます。貴重な治癒魔法の使い手を渡す訳にはいかないと。その為に、メイを誘拐しようと企んでいる者がいないとは限りません」

コーディが説明してくれた。

王国の人間を警戒してのことだったらしい。

それに、本当の本当に、黒幕はいなくなったのか、はっきりしないからというのもあるだろう。

魔王国に行けば、王国からの手出しはできなくなるはずだ。

引き渡しを行う場所は王城だから、わたし達は王城へ来ていた。

もちろん、王城に行くにあたって、服装もちゃんとしたものだ。

わたしとイネスとミアはドレスを着ている。

イネスやミアのドレス姿は初めて見る。

イネスは濃い青の大人っぽいドレスで、ミアは黄色の可愛いドレスだ。とてもよく似合っている。

わたしは水色のドレスだ。

ドレスアップすると、ちょっと嬉しくなる。

わたしもイネスみたいなのがよかったけど、あまり似合いそうではない。

でも、わたしのエスコートはコーディがしてくれている。

コーディにはドレス姿を褒めてもらえた。

ただ、わたし達は生贄だ。

やっぱり、悲壮感のある表情をした方がいいんだろうか。

さすがににまにましてしまわないのは、フォレストレイ侯爵も一緒だからだ。

監督責任ということでわたし達を引き渡すまで、フォレストレイ侯爵には責任があるらしい。

わたし達が逃げたり襲われたりすれば、フォレストレイ侯爵が処罰を受けるということだ。

顔や雰囲気は怖いけど、冷たい人ではない。

ジェロームとはフォレストレイ侯爵邸で別れた。

すぐまた会えるぐらいの雰囲気で。

聖騎士であるジェロームは王城へは行かないそうだ。

逆にウィリアムは先に王城へと行っている。

今歩いている場所が王城のどこかはわからない。

そう言えば、どうやって引き渡されるんだろう?

わたしは何も聞いていない。

簡単には死なないとはいえ、さすがに前みたいに体を突き刺されて連れ去られはしないだろう。

でも、そう考えてると、ちょっと不安になってくる。

王国に恐怖を与えるためにそれくらいしかねないように思える。

同時にわたしにも恐怖を与えるけど。

内心びくびくしながら、わたしは大きめの扉の前までやってきた。

「大丈夫です。誰もメイに危害を加えません」

コーディがわたしに囁く。

扉が開かれ、わたし達の到着が知らせられる。

「フィニアス・セス・オリファス・モンジュイン殿下、聖女メイ・コームラ様、グレン・ヴィンス・ドレイトン公爵子息、イネス・バーサ・デリン侯爵令嬢、ミア・グラフ様」

名前を紹介される。わたしの名前もちゃんと紹介された。

聖女は止めてほしいけど。

それより、王族のファミリーネームを初めて知った。

モンジュインって、漢字を想像してしまう。

この世界でもないわけではないかもしれない。わたしが発音を正しく聞けてなかったのかもしれない。

でも、本当に日本語だったら……王国の王族は魔王と関係していた?

宰相に聞けば何かわかるかもしれない。

今すぐ、誰かに聞くわけにもいかない。

前には国王がいるのだ。

国王はいたが、王妃の姿はない。

騎士が多く物々しい空気だ。ウィリアムもいた。

ここは大聖堂を小さくしたような造りだ。

謁見の間ではない。

女神の像があることから、ここは王城にある聖堂なんだろう。

やっぱり、中央には像がない。

この場所を指定したのは魔王国かもしれない。

その聖堂内を進む。

今は恐怖より緊張の方が大きい。

ふと、ロイもいることに気付いた。

ロイと目が合ったのだ。

ロイの顔色が悪い気がした。

ロイはわたしから目を逸らした。

ロイとはもう会うことがないかもしれない。

これでお別れは寂しい気がした。

その時、聖堂内が薄暗くなる。元々、曇りだからかそこまでの光量はなかったけど、それでも明らかに暗くなった。

雨が降り出して空がもっと暗くなったというわけではなくて、黒い霧が薄く立ち込めたような。

周りが見えないわけではないけど。

こつこつと響く靴音に振り返る。

黒い仮面に黒いマントを羽織った男か女かわからない全身真っ黒の人?がいた。

「引き渡してもらえるようでなりよりだ。この国を滅ぼさずに済む」

単調で冷たい声がした。

やっぱり魔王国側の使いのようだ。誰か知らないけど。

「本当に我が国に手は出さないのだろうな」

力強さを感じない声で国王が言う。

「勿論。約束は守る」

わたし達5人の周りが濃い黒い霧で包まれた。

その外の様子がわからなくなる。声も聞こえない。

黒い霧が晴れると、眩しさに目を細めた。

青空が見える。

すでに王国の王城じゃない。

黒い霧に気を取られている内に転移していたようだ。

正面には、宰相とドリーがいた。

死んだと思っていたエリオットとマデレーンがいる。

それに、王太子セルウィンとシャーロットもいる。

これから、魔王国でずっと暮らしていく。

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