277話 あの場所へ 三
最初に飛び出したメルヴァイナとリビーにより、すでに二人の元聖騎士が倒されていた。
てっきりかなり苦戦すると思っていた。
逆にこっちが押しているように見える。
元聖騎士達は前に戦った時より明らかに弱くなっている。
それはアーノルドさんがいなくなったから、だろうか。
グレンが一人の元聖騎士の首を斬り落とす。
元聖騎士達の動きは精彩を欠いていた。
わたしから見ても、単純な動きだけだ。
もしかすると、わたしでも倒せるかもしれないと思うほど。
思うだけで、実際には無理だと思うけど。
抜いた短剣を持ったわたしの手は手持無沙汰だ。
メルヴァイナとリビーが二人ずつ、後は一人ずつ、元聖騎士を倒していた。
さすがに一撃とはいかなかったが、決着はあっさりついた。
「これで終わり?」
こんなにあっけない最後でいいんだろうか。
宰相の弟のアーノルドは嘘を吐いていた。
元聖騎士達を操っていたのは、彼だろう。
行方の分からなかったその元聖騎士達も見つかった。
これで解決なんだろうか。
「私達の勝利ですね! これで解決です! ボス、やりましたよ!」
リビーが亡くなったルカに報告するように言う。
「彼らの遺体は私達が後ほど、運びます! 魔王様、戻りましょう!」
やっぱり、決着をつけさせられたようにも思える。
元聖騎士達が気掛かりだったのは本当だ。放っておくことはできなかっただろう。
聖騎士達をあんな姿にしたのが宰相の弟なら、アリシアのことも宰相の弟の仕業なんだろう。
アリシアの遺体が運び込まれたのはセイフォードの大聖堂だった。
引っかかりはあった。
でも、神官長が魔王国の関係者だと聞いて、有耶無耶にして、王都で再会しても、わたしは行動しなかった。
宰相の弟の居場所はわからなかったけど、他に何か方法はあったんじゃないかと思ってしまう。
現に、宰相の弟はわたしには接触してきたから。
もやもやが消えたわけじゃない。
わたし達はリビーの転移魔法でフォレストレイ侯爵邸へと戻った。
「私はもう行きます」
リビーはすぐに転移魔法で姿を消した。
「本当にこれで終わり?」
「おわりでいいではありませんか、メイさま」
メルヴァイナはそう言うけど、アーロやアリシアの父親にはとてもじゃないけど言えない。
それに、セイフォードの神官長がいなくなったけど、どうするつもりなんだろう。
「まだ、気になる事がございますか」
「セイフォードの神官長はどうするんですか?」
「病死とするそうだ。置き換えは行わないと聞いた」
これにはライナスが答えた。
他には……
特に思いつかない……
「あなた達は何かある? ティム~、あなたも言いたいことがあるなら、今の内よ」
「何もない! 何の興味もない!」
ティムはメルヴァイナの言葉に不機嫌になり、そっぽを向いた。
今のティムはどこかわたしに似ている気がした。
結局、わたしは何もしていない。
また、ただ、流されていただけだ。
わたしがいる意味なんてないんだろう。
邪魔しかしてないのかもしれない。
魔王なんて、そんなものだと割り切ってしまえばいいのかもしれない。
わたしは賢くないし、仕方ないと思えばいいのかもしれない。
どこか惨めに思えてくる。
魔王国を利用するとか息巻いていたけど、手のひらの上で踊らされているだけのような気がしてくる。
わたしにどうしろと言うんだろう?
わたしに何かすごい能力があるわけないのに。
現実を思い知らされただけかもしれない。
わたしじゃあ、何もできないって。
「誰も特に言いたいことはないのね」
メルヴァイナにしては落ち着いた口調で言う。
「後は魔王国に帰るだけですね」
皆が黙ったままの中、メルヴァイナの呟くような小さな声だけがはっきりと聞こえた。




