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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ⑦
276/316

276話 あの場所へ 二

「はい、魔王様! 間違いなくこちらです! 間違いなく私が設定したポイントに転移しましたので!」

リビーの声が盛大に響いた。

「このホールにも来たことがあるんですか?」

「いえ、ありませんね! 地下の一部のみです!」

わたしにはそれだけだと、同じ場所の証明にはならないように思う。

わたしは転移魔法が使えないから、そう思うのかもしれないけど。

「その地下の一部は今日来た時と全く同じだったんですか?」

「ええっと……おそらく!」

「はっきりしないの?」

メルヴァイナが口を挟んでくる。

「……実は、この場所の様子をあまり覚えていないのです……申し訳ございません、魔王様!」

要は、リビーもわたし達と変わらないということだ。

「基本的には転移魔法では妨害を受けない限りは別のポイントに転移することはありません。あの時、特に妨害を受けた印象はありませんでした」

メルヴァイナがわたしに向かって説明してくれる。

わたし以外のここにいる全員は転移魔法が使えるからだろう。わたしだけが使えない。ちょっと悲しくなる。

でも、例外があるかもしれないし、長く生きたドラゴニュートならできるのかもしれない。

別の場所だったとしても、それがどこかわからない。

結局、行き詰っている。

「もう少し、この階も見て行きましょうか、魔王さま」

メルヴァイナの提案にわたしは頷いた。

見ていないところに手掛かりが実際にはあった、ということもないとは限らない。

さっそく、見て行こう。

日の光が入ってくるからか、地下よりは不気味ということはない。

地下じゃないというだけで全然ましだ。

一人でもさほど怖くない……一人はいやだけど。

「あれは」

初めにライナスが声を上げた。

「魔王さま!」

メルヴァイナが警戒するようにわたしの前に立つ。

ホールの奥に淡い光がメルヴァイナの背中越しに見えた。

誰かが転移してくる。

宰相が様子を見に来たのかもしれないと思ったけど、現れたのは、10人の元聖騎士達だった。

そう、10人。

顔には白い仮面がついている。

あの中にダレルという元聖騎士もいるということだ。

宰相の弟のアーノルドさんはわたしに嘘を吐いていたことになる。

ダレルという元聖騎士だけを操っていると彼は言っていた。

実際にはそうじゃない。この場に10人揃っている。

元聖騎士達の足が動き、前に出る。

操っていたとされているアーノルドさんはもういない……はず。

もう動かないはずではないのか。

誰かが操っているのか、勝手に動いているのか?

手掛かりというなら、元聖騎士達が手掛かりかもしれない。

何はともあれ、友好的に挨拶に来たわけではないだろう。

元聖騎士が現れたということは場所はここで合ってた。

対するこちらも10人だけど、わたしは戦力外だ。

それでも、わたしは用意してきた短剣を抜いた。もちろん、戦闘の準備はしてきているのだ。

わたしだけが護られているのはいやだ。

痛いのは怖いけど、わたしも再生能力がある。死にはしないだろう。

ただ、全く勝てる気はしない。

元聖騎士達は何も言ってこない。黙ったままだ。

異空間の屋敷や広場では話していたのに。

単に言うことがないだけ? わたしが話し掛ければ、話すんだろうか?

「アーノルドさんの命令なんですか?」

わたしが問いかけても、元聖騎士達は何も言わなかった。

わたしの声が空しく響いただけだ。

そこへ、ティムが魔法を放った。

黒い闇魔法の矢が元聖騎士達に降り注ぐ。

それを合図するように、メルヴァイナとリビーが駆け出し、殴りかかる。

いきなり戦闘が始まってしまった。

会話は望めなかったと思うけど。

「何を考えているんだ、あのヴァンパイアは」

ライナスが渋々というのが伝わる口調で言いながら、わたしの傍に来る。

一応、わたしの護衛をしてくれるつもりなんだろう。

「メイ」

コーディもわたしの傍に来てくれる。その後ろには、イネスとミアもいる。

「護衛は私一人で充分だ。向こうへ行け。経験になるだろう」

ライナスは元聖騎士達の方を指し示す。

「わかりました」

コーディは素直に従う。

わたしはコーディ達に身体強化の魔法を掛ける。

グレンは一足先にメルヴァイナの加勢に向かった。

コーディはイネスやミアと共に、元聖騎士達へと向かって行く。

「私も行ってまいります」

リーナの声がはっきりと聞こえた。

「ああ、気を付けろ」

ライナスはリーナには優しく言う。

リーナとティムもまた、元聖騎士達の元へ向かった。

「わたしは一人で大丈夫です」

本当は大丈夫じゃないけど、ライナスは十分な戦力だ。

「伯父上から頼まれている事だ」

ライナスはわたしから離れようとしない。

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