275話 あの場所へ
早くに寝たので、ちゃんと朝は起きられた。
ここにも目覚まし時計がほしい。
今日もちょっと緊張している。
すでに調査済みとのことだけど。
あの場所へ行くのだ。
ルカと宰相の弟が亡くなった場所だ。
何となく忌避感がある。
わたしの部屋に迎えに来てくれたメルヴァイナとリーナと共に、集合場所の部屋に着くと、すでに全員が揃っていた。
「魔王様! お待ちしておりました!」
リビーが明るい声と笑顔で迎えてくれる。
無理してるとは思う。でも、わざわざ指摘することでもない。
「では! この10名で参りましょう!」
リビーが言い終わると同時に転移した。
転移先は暗くてよく見えない。
前に来た時はここまで暗くなかった気がする。
前はどこか作り出された空間のような気がした。
「ここはどこなんですか?」
わたしはリビーに聞いてみた。
「ここは山の中腹にある元修道院の廃墟のようです」
「暗すぎないですか」
まだ午前中だし、今日は晴れていた。急に夜になったような感じだ。
「今いる場所は地下なんです」
リビーは息を潜めているかのように小さな声だ。
確かにこんな所では何となく大きな声で話そうとは思わない。
リビーが放った魔法の光が辺りを照らす。
わたし達が誰も話さなければ、しんと静まり返っている。
汚れた石壁が返り血を浴びたかのようで不気味だ。
本当に同じ場所なのか、わたしにははっきりしない。
同じ場所と言われて、別の場所に連れていかれても気付かないだろう。
それほど、前来た時のこの場所の記憶はあいまいだ。
見た光景が衝撃的すぎたからかもしれない。
「こちらです」
リビーがわたし達を先導する。
地下にしては広い空間だ。
秘密結社の集会場みたいな雰囲気がある。
「ここが、そうです」
リビーが言う。
やっぱり、ここがあの時の場所だと言われても、本当かどうかわからない。
そこには当然、何もない。
すでに片付けられている。
見る限り、あの時の痕跡もなさそうだ。
「あの、魔王様。他の場所も見て来てよろしいでしょうか?」
リビーがおずおずと提案してくる。
「はい」
ルカが殺された場面を誰も見ていない。
経緯も何もわからない。想像だけだ。
リビーも納得いかないだろう。
「メイさま、わたし達も他の所も見て回りましょうか?」
何か手掛かりが残っているとは思えないけど、せっかく来たなら、そうした方がいい。
リビーとは別れ、わたし達は地下を見て回った。
幽霊でも出そうな不気味さだったけど、幽霊なんて出なかった。
物や家具すら何もない。
わたし達が出す音以外に何の音もしない。
やっぱり、何もなかった。
不気味なだけの単なる廃墟だ。
地下は広いことは広いけど、そうは言っても、すべて見て回るのにそこまで時間は掛からない。
隠し部屋とかがないとは言えないけど。
「上も見てみますか?」
メルヴァイナが声を掛けてくる。
「あ、はい。念のため」
たぶん、ここに着いてからそんなに時間は経っていない。
どうしても、暗くて夜のような気がしてしまう。
少人数なら、怖くて帰りたくなっているだろう。
リビーと合流してから、わたし達は上に向かった。
階段を上がった先も薄暗い。
窓がないからだろう。
壊れてないし、頑丈そうな建物だから、隠れ住むにはいいのかもしれない。
ただ、何かがあるとは思えない。
むだじゃないかとも思う。
通路を進んでいくと、外からの光が入ってくるのか明るくなってきた。
それまでにいくつか部屋があったが、部屋の中は空だった。しかも、部屋にも窓はない。
更に先へ進むと、大きなホールのような場所に出た。
地下は隠されているわけではないようだ。
そこには日の光が差し込んでくる。
やっと今がまだ昼だとわかる。
「ここは礼拝の為の場所でしょうか?」
今まで黙っていたコーディがリビーに尋ねている。
小さめの声でも結構響いて聞こえる。
ここにも像とかは何もない。
「そうだと思います」
「僕の知る修道院とは異なります」
「あの村と同じなんです。私達もここの事はこれまで知りませんでした。かつての魔王様と関係しているようです。詳しくはわからないのですが」
「魔王信仰ですか。そんな場所をどう見つけたのですか?」
「……わかりません。見つけたのはボスなので」
「僕もそこまではルカ・メレディスに聞いておりませんでした。もっと聞いておくべきでした」
「……仕方ありませんよ」
リビーはホールの中央まで歩いていく。
ここに怪しい場所は特に見つからない。地下が広すぎるのが怪しい気はするけど、何もなかった。
このホールにも何かあるようには思えない。
そもそも、一昨日来た場所が本当にここなのかもわからないぐらいだ。
だから、別の場所に案内されていてもわからない。
それがずっと頭にある。
「一昨日来た場所は本当にここなんですか?」
抑えるのを忘れたわたしの声がホールに響く。




