274話 ミアの家族 二
しっかり、昼食はとった。
9人もの人数で。大勢で食べるのは久しぶりな気がする。
外食することもこの頃、全然ない。偶にはどこかに食べに行きたい。
ただ、今日はかなり凝った料理の他、ピザまであった。
ちょっとごちゃまぜな気がするけど、すごくおいしかった。大満足だ。
昼食後は、わたしもミアについていくことになった。
ミア一人の方がいいんじゃないかと思っていたが、ミアが来てほしそうにしていた。
というより、ミアが放してくれなかった。
ミアの家族がいる場所へは、転移魔法で一瞬だ。
実際には王都から3日は掛かる場所らしい。結構、遠い。
どうやって見つけたのかが気になる。色々な人に聞いたとか?
ミアは嬉しそうな反面、不安そうにも見えた。
ミアの家族はミアが死んでしまったと思っていただろう。
もしかすると、まだミアが生きていることを知らされていないのかもしれない。
ミアと一緒に来ているのは、わたしの他、案内役のアーリン、それに護衛として、コーディとメルヴァイナとリーナだ。
そんなに大きな町ではなさそうだ。
その端の方の大きめの家にミアの家族が住んでいるらしい。
古そうだけど、頑丈そうではある。
わたし達はその家が見える位置にいた。
わたしも緊張してくる。
ミアの家族がミアを受け入れるのかということもあるし、わたし達が思いっきり怪しい人だと思われていないかということだ。
認識阻害のローブを被っているけど……
わたしの目にはそれがどうしたって怪しい。
肝心のミアの家族は、ここからではいるのかすらわからない。
「在宅のようだから、行きましょうか?」
メルヴァイナが言うには、ミアの家族は家の中にいるらしい。
「ミア?」
「は、はい。ボク、行きます」
ミアは笑顔だけど、ちょっとぎこちない。
更に緊張が伝わってくる。
「私達もついて行く予定でしたが、お一人で行かれる事を希望されるのでしたら、そちらでも差し支えありません」
アーリンはミアに目線を合わせ、丁寧に言う。
「ボクと一緒に来てほしいです」
ミアの希望でわたし達全員で向かう。わたしとミアは手を繋いで。
ミアが家族の元に残りたいと言えば……
ミアはもう、この姿のまま変わらない。他の家族のように年を取らない。
それでも、できる限り、ミアの願いは叶えたいと思う。
それか、考えたくはないけど、ミアの両親がミアをお金の為に……売ったんじゃないか……
ミアは一番最初に会った時より、大人びた気がする。わたしよりずっと。
ミアの歩調は速い。
緊張はするけど、早く家族に会いたいんだろう。
ミアの両親は悪い人ではないと信じたい。
家のすぐ前まで来ると、家の中から子供の声が聞こえてくる。
繋いでいた手を離し、ミアはローブを脱いで、家のドアの前に立つ。
わたし達もローブを脱いだ。
ミアをドアを強めにノックする。
何度か繰り返すと、中から足音がして、
「どなたですか?」
と女性の声がする。
ミアは黙ったままだ。
ドアがゆっくりと開く。
見えたのは小柄な若い女性だった。わたしと同じくらいの年齢に見える。
「お母さんっ!」
その女性に向って、ミアが声を震わせて、今にも泣きそうな声を上げる。
女性は驚いたように目を見開く。
やがて、嬉しそうな、泣きそうな、そんな表情を浮かべる。
「ミア……」
「お母さん」と、ミアが母親に抱き着く。
ミアしか見えていなかったようなミアの母親がわたし達に気付くと、ミアを家の中に入れ、立ちはだかった。
「あなた方は?」
ミアの母親は訝し気にわたし達を見ている。
「ボクの仲間と、えーと、同じお仕事の人だよ。ボクはもう大人だから、働いているの。それで、ボクの家族が見つかったって、連れて来てくれたの」
ミアがわたし達をそう紹介する。
「そうですか……どうぞ……」
ミアの母親が家の中へ招き入れてくれる。
大きなテーブルがあり、そこで座って待つように言われた。
ミアの母親は人間だと聞いている。父親が獣人だそうだ。
ミアの母親はどこか上品で、庶民という気がしない。
父親は大怪我を負ったらしい。わたしになら、治せるかもしれない。ただ、怪我をしてから時間が経っていて、本当に治るかはわからない。
ミアの母親は戻ってくると、お茶を出してくれる。
「娘がお世話になり、ありがとうございます」
ミアの母親からお礼を言われる。
「私はミアさんと同じ仕事をしているの。これからも任せて。私の妹と年が同じだし、仲良くやっているわ」
メルヴァイナが言う。
「……お願い致します」
「ええ。任せて」
相変わらず、メルヴァイナは自信満々だ。
それから、ミアの母親はミアを連れて、二階へと向かって行った。
やがて、わたし達は家を出た。ミアも一緒だ。
見送るのはミアの母親だけ。
ミアが家族とどう過ごしたかはわからない。
でも、ミアは笑顔だ。家族と会えて、よかったと思う。
わたしは治癒魔法を使った。治るかどうかは本当にわからない。
だから、ミアの家族には何も言ってない。
ミアにも、他の皆にも治癒魔法を使うことは言ってない。けど、気付いているはずだ。
余計なお世話だったかもしれない。
でも、治癒魔法を使えて、何もしないなんて、できなかった。
むやみに使ってはいけないと言われていたから、後で怒られるかもしれない。
「ボクはもう大人の獣人だから。独り立ちしないと。これからは魔王国で生きるって、もう決めているから」
堂々として、決意に満ちた表情のミア。
わたしが言えることなんてない。
わたし達はミアと共に王都に戻った。




