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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第2章 ①
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27話 魔王国での日々 二

剣術の稽古の後は、勉強の時間だ。くたくたになった後の勉強は辛かった。

今日の勉強は、簡単な魔王国の歴史と世界情勢についてだった。

今日はまだ、導入部だけで、明日から本格的に学んでもらうということをゴホールは言っていた。

わたしがいた王国は、オリファルト王国というらしい。今頃になって初めて知った。特に知る必要もなかったし、しょうがない。

魔王国は何も前に付かず、ただ、魔王国と言われている。

この世界の世界地図も初めて見た。わたしのいた世界とは大陸の配置が全然違う。

なにより、閉鎖されたこの魔王国にしては、外部の情報が多い。

「どうして、こんな外の情報がわかるんですか?」

「それはですな、ほとんどの国に諜報員を送り込んでいる為でございます」

てっきり、魔王国国民はこの国に閉じこもっていると思っていたが、外に出ているケースもあるらしい。

ただ、正式に国交を結んでいるようには思えない。

それにしても、諜報員とは……そんなことまでしているんだ……

「そ、そうなんですね……それなら、オリファルト王国の王家のこともわかるんですか?」

「ある程度は掴んでおります。王家は現在、国王、王妃に側妃が三人、王弟が一人、王子が七人、王女が三人おります」

「七人も王子がいるなら、やっぱり、後継争いとかあったりするんですか?」

「その通りでございます。基本的には長子相続ですが、第2王子と第4王子も王位を狙っているようですな。家族同士で嘆かわしいことでございます」

「その他の王子は?」

「第3王子は王太子を、第5王子は第2王子を支援しており、第6王子と第7王子は、すでに後継争いからは外れております」

「どうして外れているんですか?」

「すでに母親が亡くなっており、後ろ盾もないからですな。王城からも退いております」

「へー。他には?」

「そうですな。代々国王は人間には珍しい緑の瞳ですな。わしは歴代の国王を確認しておりますので、確かです。緑の瞳を持っているのはほぼ王族か貴族のごく一部の者のみなのです。ただ、王族でも全てがそうではないようですな」

「ああ、第3王子と第5王子は違うんですね」

ゴホールは口と思われる部分の端を上げた。

「その通りでございます。第7王子も違うようです」

緑の瞳ーー

わたしは見たことがある。きれいなエメラルドのような瞳だ。

コーディ……

コーディは身分が高いとイネスが言っていた。

話を総合すると、コーディは第6王子なのではないか。

それなら、当然、公爵家次男より身分は高いだろう。

今頃、どうしているんだろう……

ふいに思い出してしまう。


勉強の時間が終わり、部屋を出た。

今日の勉強は中々興味深かった。

廊下を進んだところで、メルヴァイナに呼び止められた。セットで、リーナもいる。

「待っていました、メイさま。一緒に来てください」

メルヴァイナは有無を言わせず、わたしの手を引く。

メルヴァイナはやけにご機嫌だ。

わたしはある部屋まで連れてこられた。この部屋は見覚えがある。

メルヴァイナと初めて会った部屋だ。

中に入ると、そこにはライナスとティムがいる。

「ライナス、ティム、あなたたちもちゃんと仕事しなさいよ。メイさまの護衛なんだから。”嫌だからしない”は、通用しないわよ」

「私は、その者が魔王だということ自体が信用できない」

ライナスは腑に落ちない様子だ。

「あら、ライナス、あなたでは魔王さまの護衛は荷が重いのね。だから、やらなくていいようにその理由を言い張るのね。それなら、仕方ないわね。怖いんじゃあ。子供の頃のようにこわいぃーって泣き喚くとカッコ悪いものねぇ」

「……いつの話だ」

「あらあら、ピーピー泣いて、私の後ろに隠れていたのは誰だったかしらぁ? 無理なら、私から宰相さまに言っておいてあげるわ。ライナスは恐怖のあまり、仕事を投げ出したって」

ライナスは俯いてしまった。怒りを堪えるように、手を握りしめている。

本当のことなのだろう。

子供の頃のおねしょをばらされたような、ちょっと可哀そうな気がする。

「……魔王とは認めないが、仕事はする」

ライナスは激昂したりはせず、努めて落ち着いた調子で言う。

「本当ね? ただ、メイ様もあなたがそんなに臆病で護衛なんてできるのかって、疑っているのよねぇ」

というより、ライナスが協力してくれるなら、もう屈服させる必要なんてないんじゃないかと思う。

が、メルヴァイナは止める気はこれっぽっちもないらしい。

しかも、わたしを出しにしないでほしい。

「わかった。力を示そう」

意外とライナスは素直だ。

「そこで、提案なんだけど、明日から一週間以内にメイ様があなたに一撃を入れられたら、メイ様の勝ち。あなたはそれを阻止するべく、攻撃なしでひたすら防御よ。護衛なんだから、攻撃なしは当たり前よね」

「……メルヴァイナ……それは、君が楽しみたいだけじゃないのか……」

ライナスは呆れたような目をメルヴァイナに向けている。

「やっぱり、負けるのが怖くて逃げるの?」

「……わかった。ただし、私の部屋には入ってくるな」

「ええ。さすがに寝込みを襲うのはどうかと思うわ。見られたくないものもあるでしょうし。でも、部屋から出てこないっていうのはだめよ」

「昼は護衛として仕事はする」

ライナスは一応、納得したらしい。何を言っても無駄だと悟っているだけかもしれない。

「ティ~ム~、あなたもいつまで幼い子供のようにしている気なの? もぉう、そんなにかまってほしいなら、私がいくらでもかまってあげるわよぉ」

ティムとはある程度距離が離れていたはずのメルヴァイナが瞬時にがばっとティムに抱き着いた。

回避できなかったティムがメルヴァイナの胸で窒息しそうになっている。

メルヴァイナの矛先は完全にティムに向いていた。ライナスは何も言わず、顔も背け、佇んでいる。

そういえば、ヴァンパイアは身体能力が高いと言っていたなあ。屋根から屋根に飛び移るとか普通にできそうだなあ。

なんて思いながら、わたしもリーナの横で高みの見物を決め込んでいた。

最初は、人間ではないし、もっと冷酷で恐ろしい種族なのかと思っていたので、警戒していたのは事実だ。それこそ、人間を食べてしまうように思っていたが、全然そんな風には見えない。

勿論、魔王国には人間を捕食するような国民は猟奇殺人犯を除いていないとゴホールから聞いていた。

彼らは、幼馴染のようなものだろう。

魔力が特に高い為、城に集められたエリートだと聞いていた。

わたしが部屋を出た後、ティムはメルヴァイナにかなり叱られていたのだと、夕食後に、なんと、リーナがこっそり教えてくれた。

その時のふんわり微笑んだリーナの顔がめちゃくちゃ可愛かった。

何より、四人全員が護衛としてちゃんと仕事はしてくれるらしい。

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