264話 婚約
コーディはルカと王城へ行ってしまった。
さすがにこの王都へ魔獣が向かって来ているということなら、仕方ない。
昨日のような魔獣が百匹もいれば、脅威だ。
ルカからは、今日、屋敷から出ないようにお願いされた。
わたしもそんな状況で、しかも昨日の今日で出るつもりはない。
魔王国に帰るように言われなかっただけいい。
ただ、コーディと結婚することはイネスやミアに言ってしまった。
まだ、正式に婚約者というわけではないと思うけど。
婚約するには、何かサインとかしないといけないんだろうか?
その辺りは全然知らない。
何だか、皆の前でコーディといるのは恥ずかしい気がする。
顔がニマニマしてしまってないか、とか。
こんな魔獣が来ている時に浮かれていて、かなり不謹慎かもしれない。
「問題ないと思うわ。魔王国がついているもの」
わたしが色々な理由で俯いている時、イネスから声が掛かった。
「まあ、そうですよ。全く心配いりません、メイさま」
そうだった。この場にはまだ、メルヴァイナがいた。
「今日は私もメイさまの傍におります」
「わかりました」
わたしは顔を上げて、頷いてみせた。
「メイ……」
ミアがおずおずとわたしを呼ぶ。何か話したいようだ。
「ボクも魔獣は大丈夫だと思うけど。本当の本当にコーディ様と結婚するの?」
ミアが心配するような視線をわたしに向けている。
「メイさま、あの子と結婚するのですか!?」
メルヴァイナが尋ねてくる。さすがに結婚のことは知らないらしい。むしろ、知っていれば、ちょっと怖い。
「そ、そうなんです」
「嫌っていないとはお聞きしましたが……あの子はちゃんとメイさまに伝えたのですね。メイさまは後悔していませんか? 妥協した訳ではないですよね?」
「後悔も妥協もしていません」
「それはおめでとうございます、メイさま。それと、実は私も結婚が決まったのです」
「そうなんですか? まさか、ライナスと?」
「まさか、やめて下さい。ドラゴニュートと結婚する気なんてありませんよ」
メルヴァイナは結婚しないように思っていたから、意外だった。
「アプローチしまくったかいがありました。ようやく、頷いてもらえたのです」
メルヴァイナが弾んだ声で言う。
「メル姉、おめでとうございます。それと、結婚って、どうするのかよくわからないんです。結婚するなんて、思ってなかったので、ずっと遠い事だと思っていましたし、そもそも、わたしは結婚できないんじゃないかって思っていました。それにコーディは貴族の子息で、王子でもありますし」
「メイさまは魔王国の王さまではありませんか。メイさまの方が身分は高いことになりますよ。結婚のことは宰相さまに頼めば大丈夫ですよ」
「……確かにそうですけど。なんだか、相応しくないような気がして」
「ええ、確かに、あの子にはメイさまはもったいないですね。ですが、メイさまがいいのであれば、私はいいと思います」
「そ、そうじゃないです。わ、わたしは……」
コーディが好きです、とは恥ずかしくて言えなかった。
「まあ、あの子はこれから大変でしょう。宰相さまに教育されるでしょうから。この国の次期国王も大変でしょうね」
「あの王太子はかなり楽天的だと思いますけど」
あの王太子は全て周りに押し付けそうだ。
「セルウィンと言う現王太子ですか? 彼は王にはなりませんよ。今は、魔王国にいますから」
「!? 王太子を攫ったんですか!?」
ちょっと驚いた。王太子を傀儡の王にでもするのかと思っていた。魔王国の都合のいいように。
「彼がついて来ただけです。なので、この国の次期国王は第7王子となります」
「ロイが?」
ロイが国王……大丈夫なんだろうか? 国王になるなんて、ロイは思ってもいないだろう。それを言えば、わたしが女王である魔王国もどうかと思うけど。
魔王国には宰相がいるように、この国にも宰相や大臣がいるから、問題ないのかもしれない。
ただ、ロイは緑の瞳じゃない。もしかすると、反発もあるかもしれない。
「何事もどうにかなりますよ。悪いようにはさせないでしょう。メイさまが希望しなければ、この国を亡ぼすつもりはないでしょうから」
「確かに、そうですね」
「では、メイさま、少し体を動かしましょうか」
わたしはメルヴァイナにほぼ無理やり連れていかれた。ちなみに、イネスとミアも一緒に。グレンはいつの間にか、いなかった。




