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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ⑦
264/320

264話 婚約

コーディはルカと王城へ行ってしまった。

さすがにこの王都へ魔獣が向かって来ているということなら、仕方ない。

昨日のような魔獣が百匹もいれば、脅威だ。

ルカからは、今日、屋敷から出ないようにお願いされた。

わたしもそんな状況で、しかも昨日の今日で出るつもりはない。

魔王国に帰るように言われなかっただけいい。

ただ、コーディと結婚することはイネスやミアに言ってしまった。

まだ、正式に婚約者というわけではないと思うけど。

婚約するには、何かサインとかしないといけないんだろうか?

その辺りは全然知らない。

何だか、皆の前でコーディといるのは恥ずかしい気がする。

顔がニマニマしてしまってないか、とか。

こんな魔獣が来ている時に浮かれていて、かなり不謹慎かもしれない。

「問題ないと思うわ。魔王国がついているもの」

わたしが色々な理由で俯いている時、イネスから声が掛かった。

「まあ、そうですよ。全く心配いりません、メイさま」

そうだった。この場にはまだ、メルヴァイナがいた。

「今日は私もメイさまの傍におります」

「わかりました」

わたしは顔を上げて、頷いてみせた。

「メイ……」

ミアがおずおずとわたしを呼ぶ。何か話したいようだ。

「ボクも魔獣は大丈夫だと思うけど。本当の本当にコーディ様と結婚するの?」

ミアが心配するような視線をわたしに向けている。

「メイさま、あの子と結婚するのですか!?」

メルヴァイナが尋ねてくる。さすがに結婚のことは知らないらしい。むしろ、知っていれば、ちょっと怖い。

「そ、そうなんです」

「嫌っていないとはお聞きしましたが……あの子はちゃんとメイさまに伝えたのですね。メイさまは後悔していませんか? 妥協した訳ではないですよね?」

「後悔も妥協もしていません」

「それはおめでとうございます、メイさま。それと、実は私も結婚が決まったのです」

「そうなんですか? まさか、ライナスと?」

「まさか、やめて下さい。ドラゴニュートと結婚する気なんてありませんよ」

メルヴァイナは結婚しないように思っていたから、意外だった。

「アプローチしまくったかいがありました。ようやく、頷いてもらえたのです」

メルヴァイナが弾んだ声で言う。

「メル姉、おめでとうございます。それと、結婚って、どうするのかよくわからないんです。結婚するなんて、思ってなかったので、ずっと遠い事だと思っていましたし、そもそも、わたしは結婚できないんじゃないかって思っていました。それにコーディは貴族の子息で、王子でもありますし」

「メイさまは魔王国の王さまではありませんか。メイさまの方が身分は高いことになりますよ。結婚のことは宰相さまに頼めば大丈夫ですよ」

「……確かにそうですけど。なんだか、相応しくないような気がして」

「ええ、確かに、あの子にはメイさまはもったいないですね。ですが、メイさまがいいのであれば、私はいいと思います」

「そ、そうじゃないです。わ、わたしは……」

コーディが好きです、とは恥ずかしくて言えなかった。

「まあ、あの子はこれから大変でしょう。宰相さまに教育されるでしょうから。この国の次期国王も大変でしょうね」

「あの王太子はかなり楽天的だと思いますけど」

あの王太子は全て周りに押し付けそうだ。

「セルウィンと言う現王太子ですか? 彼は王にはなりませんよ。今は、魔王国にいますから」

「!? 王太子を攫ったんですか!?」

ちょっと驚いた。王太子を傀儡の王にでもするのかと思っていた。魔王国の都合のいいように。

「彼がついて来ただけです。なので、この国の次期国王は第7王子となります」

「ロイが?」

ロイが国王……大丈夫なんだろうか? 国王になるなんて、ロイは思ってもいないだろう。それを言えば、わたしが女王である魔王国もどうかと思うけど。

魔王国には宰相がいるように、この国にも宰相や大臣がいるから、問題ないのかもしれない。

ただ、ロイは緑の瞳じゃない。もしかすると、反発もあるかもしれない。

「何事もどうにかなりますよ。悪いようにはさせないでしょう。メイさまが希望しなければ、この国を亡ぼすつもりはないでしょうから」

「確かに、そうですね」

「では、メイさま、少し体を動かしましょうか」

わたしはメルヴァイナにほぼ無理やり連れていかれた。ちなみに、イネスとミアも一緒に。グレンはいつの間にか、いなかった。

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