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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ⑥
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256話 メイと 二

「だめですか?」

メイが、何も答えることができないでいる僕を見つめてくる。

彼女に目が釘付けになる。

異性を部屋に誘ってはいけないと言わなければならない。

僕はメイに何かするつもりは――

ないと言い切れない……

メイにキスしたことを思い出してしまう。

僕はなんてことを……

思い出す度に罪悪感が湧く。

余計に駄目だ。

僕と二人きりになるのは、止めた方がいい。

いや、メイは二人きりで話したいとは言っていない。

イネスやミアも共に来るのかもしれない。

グレンにもいてもらえばいい。

「わかりました」

努めて冷静に言ったはずだ。

「俺は用がある」

グレンは即座に部屋を出て行ってしまう。僕が声を掛ける隙もなかった。

「わたし達も行きましょう」

メイにそう言われ、メイに続いて、部屋を出る。

グレンの姿は既に見えない。

振り返っても、イネスやミアが部屋から出てくる様子はない。


僕がいるのは、メイの部屋だ。

メイが部屋のドアを閉めてしまう。

ここには、僕とメイしかいない。

いつもは散々言うにも関わらず、イネスとミアは来ない。

「言っておきたいことがあるんです」

メイは真剣な眼差しを向けてくる。

余計なことを考えそうになる自分を殴りたくなってくる。

「わたしは遠い国から来たと言いましたが、別の世界から来たと言った方がいいかもしれません。わたしは魔法のない世界から来たんです。こことは全然違う世界です。突然、転移魔法のように、この世界に連れて来られたんです。これまで、元のわたしの世界に戻る方法は見つかりませんでした」

メイが早口で言う。

別の世界……

それがどういうものか、想像できない。

メイの言い方だと、その世界に戻る方法が見つかったかのようだ。

メイがいなくなってしまう……

「戻るのですか……? その世界へ」

僕にメイを止める権利はない。

それでも、戻るという答えは聞きたくない。

「この世界に来たばかりの頃は戻りたいと思っていました……でも、ここに残ります。それに、猶予はまだ、200年ぐらいあるみたいです。200年、人間の寿命より遥かに長いですね。かなり長い猶予です」

200年……確かに長い。本当に、200年も生きられるのかとも思うほどだ。

顔には出さないが、安堵していた。

「ただ……」

メイが口ごもる。

続きが言い難いのか。

良くない事なのだろう。

「メイ、話してもらえませんか」

何か悪い事だとしても、だからこそ、知っておくべきだ。

「わたしが元の世界に戻れば、わたしの眷属は生きていられなくなります……」

僕達が死ぬということだろう。

「200年も先の話です。それだけ生きれば十分すぎる程です」

「死ぬのは、怖いと思います……200年生きたとしても、その時になれば……」

「それは、ないとは言い切れません。ですが、僕だけ生き残る方が辛い事です。これから先、後悔のないように生きていきましょう」

メイが頷く。晴れやかという表情ではないが、少なくても沈痛な面持ちでもない。

メイが望むなら、叶えたい。

「その時になれば、ずっと、この世界にいることを選んでるかもしれません」

メイが言う。

「メイがそれを望むなら。どんな選択をしても、協力します」

「ありがとうございます……それに、やっぱり、いつも迷惑掛けることになってしまって、すみません」

「迷惑だと思っておりません。疲れたでしょうから、ゆっくり休んでください。それでは、僕は自分の部屋に戻ります」

僕は一刻も早く、メイの部屋から出るべきだ。

メイは言い難いことも誠実に伝えてくれたのだ。

抱き締めたいとか、考えてはいけない。

「待ってください。まだ、話があるんです」

部屋を出ようとする僕に追いついてきたメイが僕の腕を掴んだ。

そう言われては、そのまま部屋を出て行く訳にもいかない。

僕は再度、メイに向き合った。

今度は何を言われるのか、気が気でない。

嫌いだと言われれば、さすがに落ち込む。

「コーディ、結婚して下さい」

結婚!?

聞き間違いじゃないかと思った。

「はい、結婚します」

それでも、反射的に僕は答えた。僕には、それしか答えがない。

答えてから、もしかすると、偽装結婚ということだろうかとも考える。

まだ、僕の兄である王太子がメイに結婚を迫っているのか?

それとも、弟のレックスだろうか?

「本当にいいんですか? わたしと結婚しても」

メイが僕に問いかけてくる。

「勿論です」

そもそも、僕が言うはずだった。僕がメイに結婚を申し込むはずだった。

いや、一度、既にしている。

あの時は、有耶無耶になってしまったが。

いや、どうなのだろう?

そんなことより、僕はメイと結婚する。

メイを抱き締めていいのだろうか?

僕はメイと見つめ合っていた。

鼓動が速くなっている。

「コーディ、その、す、すきです」

メイが僕に抱き着いてきた。

「僕も、すきです」

何も考えず、メイを抱き締めた。

メイに一度だけ、キスをした。

まだ、夜ではないが、部屋には暗い陰ができている。

まだ、メイとは、正式に婚約はしていない。

無性にいけないことをしている気になってくる。

イネスやミアに知られれば、責められそうだ。

問い掛けられると、何も答えられない。

さすがにこれ以上、ここにいる訳にいかない。

「直に、晩餐です。僕は一旦、部屋に戻ります」

「そうですね。あの、結婚のことは宰相に話しておきます。それと、その、コーディの家族にもちゃんと言っておかないといけないと思います」

「家族には、僕から話します」

僕はメイの部屋を出た。

まだ、鼓動が速い気がする。

その日、食事は取らず、ずっと自分の部屋にいた。

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