255話 メイと
あの元聖騎士達が現れた時、不安だった。
僕達だけでメイを護れるのか。
以前の戦いでは手も足も出なかった。
聖騎士達が去った時、どんなに安堵したか。
人間ではないとはいえ、年下のリーナに頼って……
僕は、勝てないと諦めてしまいそうになった……
少しは変わったと思う。それはミアも。あの場にはいなかったグレンも、イネスも。
それでも、実力差は、まだまだある。
できれば、メイにはライナスやメルヴァイナと共にいてほしいと思う。
漸く、屋敷に戻ることになり、僕が転移魔法を使う。
その転移魔法に介入される、そんなことは思いもしなかった。
屋敷に着いたのは、僕とミアとリーナだけだった。
どこにもメイの姿がない。
一瞬前まで確かに傍にいた。
今、この部屋にいるのは、どう見ても三人だけだ。
僕はリーナに視線を送る。
「どなたかの介入を受けました」
辛そうなリーナ、彼女が必死にメイを護っていたことは知っている。
「相手の魔法の技術は私より勝っております。相手に辿り着くことができません」
リーナの声がはっきりと聞こえた。
メイの居場所がわからないということだ。
僕は無力なままだ。
結局、メイを護れない。
ただ、ここでへこたれていてはいけない。
利用価値のあるメイが殺される可能性は低いと思われる。
だからこそ、攫ったのだろう。
「メイは必ず取り戻す」
自分自身と、呆然とするミアへ向けて言う。
そこへ、部屋のドアが開き、グレンとイネスの二人が入ってきた。
「どうかした?」
イネスは僕達のいつもとは違う雰囲気を感じたのか、そう問いかけてきた。
「街中で元聖騎士九人の襲撃を受けた。その九人は立ち去ったが、ここへ戻る転移中にメイが攫われた」
僕は端的に二人に説明した。
「何をしているのよ!?」
表情はほぼ変わらないが、僅かに怒っているような口調でイネスが言う。
当然のことだ。
「取り乱していないだけましね」
イネスが付け加える。
「ただ、転移魔法を辿る事はできないそうだ。居場所がわからない」
「ルカ・メレディスか誰かに頼るしかないだろう。魔王が殺されるとは思えない」
グレンは泰然として構えている。
安心できる訳ではないが、落ち着いてくる。
それと同時に、頭上が淡く光るのを感じた。
瞬時に転移魔法だとわかる。
わかるが、対処する間もなく、人の姿が現れ、落下してきた。
それが誰かはわかった。
受け止めることができるはずもなく、下敷きになるしかなかった。
メイは軽いが、さすがに背中に痛みはあった。骨は折れていないと思う。
メイに気を遣わせないように、後は見栄で、できるだけ、声は噛み殺した。
いや、メイに怪我がなくてよかった。
そこへ、今まで暗い顔をしていたミアがメイに飛びついた。
僕の上では飛びつくのは止めてもらいたい。
僕への罰のつもりなのか、誰も咎めない。
確かに、僕の失態だ。
転移魔法をリーナに任せていれば、もしかすると、防げたのかもしれない。
今回、偶々、メイは無事だった。
そのままの状態で、セイフォードのケスティー神官長がメイを攫ったのだと言うことを聞いた。
また、彼がドラゴニュートで、彼とは話をしただけだとメイは言ったが、彼をどう判断していいのか、迷うところだ。
まあ、元から信用していないが。
漸く、立ち上がれてから、メイから更に話を聞いた。
少しでも、情報を集め、危険を失くさないといけない。メイを護る為に。
魔王国宰相の弟だったと聞くと、益々、信用できないように思える。
聖騎士の遺体を無断で操っていることも。
そんなことはすべきではない。
それに、ダレルという聖騎士は兄の友人だった聖騎士だ。
許せるはずがない。
「コーディ、怖い顔をしているわよ。今日はもう休みましょう」
イネスにそのような指摘をされる。
「コーディ、その、さっきのこと、怒っていますか? 本当に、ごめんなさい。かなり痛かったと思います」
メイは申し訳なさそうにしているが、メイに対して、怒っていることなんて、ない。
メイに傷ついてほしくない。それだけだ。
「僕の方こそ、申し訳ありません。僕が転移魔法を使うべきではありませんでした」
「本当に、わたしは無事で、何ともありません。だから大丈夫です。それより、コーディ、少し話したいんです。わたしの部屋に来てもらえませんか」
メイに、彼女の部屋に誘われ、内心、かなり狼狽えていた。




