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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ⑤
252/316

252話 宰相の弟

わたし一人だけ。不安は不安だけど、どうしようもない。

壁を壊す手段がない。

助けも来るかわからない。

閉じ込められた。

それでも、割と落ち着いていると思う。

きっと、色々と慣れたからだ。

痛い思いはしたくないけど。

何もない部屋の中央ですることもなく、座り込んだ。

慌てても仕方ない。こういう時は、悠然と構えておくべきだ。

すると、何もなかった部屋にドアが現れた。

わたしが何か考える間もなく、ドアが勝手に開いた。

そこから現れたのは、さっき見かけたセイフォードの神官長だった。

「ご無礼を致しました、魔王様」

神官長がわたしの前に跪く。

真っ白の髪だけど、若い姿の神官長だ。

「私はアーノルド・セシル・デル・フィーレスでございます。魔王国宰相の弟です。偽名を申しましたこと、深くお詫び申し上げます」

神官長は確かに宰相の弟の名前を名乗った。

でも、ドラゴニュートの特徴がない。

何が本当なのか、判断ができない。

「元々、私の髪も他のドラゴニュートと同様の色でした。現在はこのように白くなってしまいましたが。瞳の色は隠しているだけです」

神官長の瞳が金色になる。

わたしが神官長の髪や目を見ている事をわかっていたんだろう。

怒ってはいないようだ。

「どうして、わたしをここに?」

「魔王様と二人だけでお会いしたかったのです。これまでその機会を得られませんでしたから。こちらへどうぞ」

神官長に促され、ドアを通り、その先の部屋へ移動した。

シンプルな部屋だった。窓があって、青空が見える。部屋の中央には座り心地の良さそうなソファとテーブルがあり、更に、お茶とお菓子が用意されている。

ソファに座ると、わたしは早速、聞きたいことを神官長に投げかけた。

「あなたが、アリシアさんをあんな姿にしたんですか? 聖騎士も」

「証明はできませんが、私ではありません」

「じゃあ、誰があんなことを?」

「まだ、分かっておりません。私と同じドラゴニュートだとは思われます」

「シンリー村を襲ったのも、魔獣を作っていたのも、さっきの魔獣も、あなたじゃないんですか?」

「シンリー村の地下の施設は元々、何代か前の魔王様の研究施設でした。その方が魔獣を作り出したのです。ただ、昨今の魔獣はその魔獣とは明らかに変わっております。何者かが手を加えているのです」

神官長は衝撃的なことを言ってきた。

魔獣の元凶、やっぱり、魔王!?

そんな魔王、放置していいの!?

そう言えば、宰相は最初に会った時、好きにしていいとか言っていたっけ。王国を滅ぼしてもいいとか。

……

王国が滅びていないのは、そういう魔王が現れなくて、運がよかったからなんだろうか?

「そんな研究をさせていいんですか?」

「魔王様の望まれた事ですから」

神官長は全く悪びれることなくそう言った。

「私は魔王国を出ておりますが、今も魔王国を大切に思っております。魔王様は無くてはならない御方なのです。現在の魔王様でありますあなた様は大事な御方なのです。それは今も変わることはございません。私の王であり、神なのです。私にできることがございましたら、何でも致します」

彼は狂信的過ぎると思う。敵なのか、そうでないのか、よくわからない。

「わたしをここから出してくれますか」

「これだけはどうしても、魔王様にお伝えしなければならないのです。お越しいただいたのも、これをお伝えする為です」

神官長はそう前置きし、

「魔王様、決して、魔力を使い果たしてはなりません。寿命を迎えてはならないのです。200年程は問題ございません。それを過ぎれば、どうか、自ら命を絶って下さいませ」

真剣な目つきでわたしを見つめる。

「どうして、ですか? わたしに死ねと?」

「私の言い方が悪いのですね。魔王様はこことは違う別の世界の御方でしょう。魔力が残っていれば、あなた様の世界に戻ることができます」

「じゃあ、前の魔王は、元の世界に戻ったんですか?」

「ええ、戻りました。魔王様の意志で。きっと、宰相である兄はこのようなことは言わないでしょう。出来る限り、魔王様に留まっていただきたいと考えておりますから」

元の世界に戻れる。

ただ、本当のことなんだろうか?

失敗すれば、本当に死んでしまうかもしれない。

「……どうすれば、元の世界に戻れるんですか? 心臓を止めればいいんですか?」

「身体をいくら破壊されようと、魔王様が亡くなることはございません。方法は御自身で、この世界での御自身の存在を消す事でございます」

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