250話 王都観光 十一
9人の聖騎士達の動きは速い。見ている間に距離を詰められる。
仮面を付けれいるだけで、普通の人間に見えるけど、動きが人間ではない。
わたし達の元には5人の元聖騎士が襲ってきた。後の4人は第三騎士団を襲う。
でも、突如できた黒い壁に阻まれる。
多分、リーナの魔法だ。
わたしはその間に身体強化の魔法をコーディとジェロームに掛け直す。更に、ウィリアムに目で合図を送り、ウィリアムにも同じように身体強化の魔法を掛ける。
他の人達にはどうしようかと思う。
身体強化は、慣れないとうまく動けない。すぐに適応できる人もいるけど、慣れないと逆効果になる。最悪、自滅するらしい。
エヴァーガン団長なら大丈夫な気がするけど、カールには絶対に止めた方がいい。
こちらは戦闘態勢を整える。
「申し訳ありません……長くは持ちません」
リーナが目を伏せながら言う。
「ジェローム、コーディ、あれらに勝てる見込みはあるか?」
馬から降りているウィリアムが声を掛ける。
「ある訳ないだろ。それでも、勝つか追い返さないといけない」
ジェロームは軽口を叩いているように聞こえる。
「エヴァーガン団長、既に退避は不可能だ。ここで押し留める」
「あれは魔王に操られているという噂もある。噂ではなく、真なのか?」
「それはわからない」
ウィリアムはそう言うと、わたしに目を向ける。
「メイ、騎士全員に身体強化ができるか? その方が生き残る可能性が高いだろう」
また、何か言われそうだけど、ここで全滅なんて、いやだ。
「これだけの人数を行ったことはありませんが、やってみます」
リーナも闇魔法を使っている。誰にも指摘されていないけど。
リーナ自身も戦う気だ。それだけ、相手が強いのだ。わかってるけど。
リーナは黒い大剣を持っている。リーナが持つにしてはかなりの大きさだ。
ミアもいつの間にか黒い剣を両手で握っている。ミアの剣もかなり大きい。
ミアは最近、剣術を習っているが、リーナもミアもいつも素手で戦っているイメージなのに。
わたしは言われた通り、身体強化の魔法を全員に掛けないといけない。
第三騎士団全員にも。
だから、全体を見回す。
結構な人数がいる。30人ぐらいだろうか。
全員に身体強化を。
治癒魔法もできるから、身体強化もできるはずだ。
わたしはイメージして魔法を発動させる。
多分、できたはずだ。全員、確かめてられないんだけど。
闇魔法で作られた剣はさっきと同じように、光る。いや、最初、さっきよりも強く輝いた。
「私達には神より遣わされた聖女がついている」
ジェロームがそんなことを言っている。
それに味方の聖騎士4人が応えた。彼らにしてみれば、かつての仲間と戦わないといけない。
中々割り切れないとは思う。
「聖女の力で身体が強化されている。すぐに慣れろ」
ウィリアムは無茶を言う。
魔王や女神と呼ばれるよりは、聖女の方が少しましだと思っておく。
わたしは残念ながら、魔法で剣を作り出すことはできない。
素手でも戦える気がしない。
やっぱり、わたしって、役立たず。
「メイ、怪我をした者がいれば、治癒をお願いできませんか?」
コーディがわたしを見つめてくる。わたしの方を向いているだけだけど。
「もちろんです」
わたしができることは治癒魔法だ。わたしが戦うより、今はそれに集中する方がいい。
「結界を解除します」
リーナがはっきりとした声で言った。
黒い壁が砕け散る。
それと同時に、リーナとミアが誰よりも速く飛び出し、元聖騎士に向けて、大剣を振るった。力任せな一撃だ。
さすがにそれで終わりではなかった。
大剣は確かに元聖騎士二人に当たったように思ったけど、後ろに下がったぐらいでダメージはなさそうだ。
他の元聖騎士が突撃してくる。
身体強化について、説明している時間もない。
シンリー村の時と同じように、めちゃくちゃ攻撃的だ。
害意がある気がする。
攻撃してきた元聖騎士の一人をわたしの前のコーディが迎え撃つ。
ただ、コーディでも押されている。
他は、総崩れだった。
圧倒的に差があり過ぎた。
善戦しているのはリーナくらいだ。
わたしの目に元聖騎士から剣を突き立てられたカールの姿が目に入った。
第三騎士団の惨状が目に映る。
ウィリアムもジェロームもエヴァーガン団長も怪我を負っている。
わたしだけ、時が止まったように感じる。
「メイ、治癒魔法を!」
コーディの言葉に意識が覚醒する。
あまりの状況に呆然としていただけだ。
治癒魔法を発動する。
死んでいないなら、治るはずだ。
治癒魔法の光が広がる。
それは元聖騎士達にも届く。一応、9人の元聖騎士は治癒魔法の対象外にするようにイメージはした。
元聖騎士達の攻撃の手が止まった。
ただ、わたしの治癒魔法で動けなくなったとか、そういうことではないようだ。
現に動きはしている。
元聖騎士達は一ヵ所に集まると、転送魔法で姿を消した。
わたし達を殺そうと思えば、できたはずだ。
そうしないのは、何か別の目的がある。
条件を突きつけてくるわけでもないから、その目的がわからない。
それでも、ほっとする。
もう、9人の元聖騎士はいない。
とりあえず、わたしの周りにいた人達は、カールも含めて、無事だ。
後は、第三騎士団の人達だ。
倒れている人が何人も見える。
間に合わなかったかもしれない。
「あれは何だ! 本当に人間なのか!?」
剣を握りしめたままのエヴァーガン団長が声を荒げた。何だか、既視感がある。
「人間とは思えないと言ったはずだ」
対照的にウィリアムは冷静な口調で答える。
「知っていたのですか? だから、第一騎士団が出てきたのですか?」
「王太子殿下の指示だ」
「それでは、彼女達はどうなのです? 聖女とか? 我らは何も聞いておりません」
エヴァーガン団長が文句を言いたい気持ちはわかる。
わたしだけ知らないって、結構つらい。知らない方がいいことも確かにあるけど。
そう言えば、ウィリアムに指示した王太子って、やっぱり、偽物の王太子なんだろうか?
それに、わたしは治癒魔法や身体強化なんかの魔法を大勢の前で使ってしまった。
わたしが魔王国の要求した癒しの聖女だと認識されてしまう。
ウィリアムやジェロームは元々知っているから問題ないけど、エヴァーガン団長達に知られてしまった。
仕方ないと思う。
そうしないと、カールも死んでいただろう。一刻を争うような状況だった。
後悔はしない。
「彼女達のことは私が預かる。彼女達はフォレストレイ侯爵家の客人だ」
ウィリアムは一呼吸置いて、そう答えた。
ウィリアムがうまくやってくれるかなと期待する。




