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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ⑤
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249話 王都観光 十

「敵、というのは本当ですか? 違っていれば、教会に睨まれますよ」

エヴァーガン団長がウィリアムに向かって、剣のある言い方をする。

「あれらが真面な聖騎士に見えるのか? 残念だが、敵ということは揺るがない。言っておくが、聖騎士団全てが反旗を翻したのではない。彼らは例の聖騎士だ」

ウィリアムの言い方もかなりきつい。

緊張感が漂う。

ウィリアムは十分、聖騎士の強さを知っている。シンリー村で実際に見ている。

「なるほど、あれが。では、あれを討伐するのですね。あの人数で我ら騎士団を前に姿を現すとは大したものだ」

エヴァーガン団長も失踪した聖騎士のことは聞いているようだ。

団長だから、当たり前かもしれない。

どういう聞き方をしているのかまではわからないけど、操られている死体だとかは聞いてないのかと思う。その強さも。

普通に考えれば、たったの9人で大勢の武装した騎士達を相手にするなんて無理だろう。

「いや、第三騎士団は撤退だ」

「それは教会の判断ですか!? 聖騎士団に任せるとしても、この場にいる聖騎士だけで勝てるとは思えません」

当然のようにエヴァーガン団長は納得していない。

「教会はあれらの離反を認め、国に仇なす共通の敵となった。教会は関知していない。これは私の判断だ」

「わかりかねます。貴方の方が立場は上ですが、だからと言って、第三騎士団が貴方の命令に従う謂れはありません」

「あれらはただの聖騎士ではない。魔獣に近いものだ。人とは思えない。ここにいれば、私達が全滅する」

聖堂の前の聖騎士達はまだ動いていない。

すぐに逃げた方がいいんだろう。逃げられるかはわからないけど。

「それは、おめおめと逃げろと? それなら、貴方方が逃げるべきです。我ら第三騎士団が盾でも剣でもなりましょう」

「第一騎士団、民衆を広場から遠ざけろ。私一人はここに残る」

ウィリアムが命令を下す。第一騎士団のリーダーはウィリアムらしい。まあ、先頭にいるからそうだろう。

ウィリアムと一緒にいた第一騎士団の人達は素直に従い、離れていく。

聖堂前の9人の聖騎士達に未だ、動きはない。

ただ、こちらを見ているだけだ。

わたし達の準備が整うのを待ってくれているようだ。

街の破壊や虐殺が目的ではないからだろう。多分、用があるのは、わたしかコーディのような気がする。

「部下達を死なせる訳には行かない。あれらの恐ろしさを私はよく知っている」

そこで、騒々しい足音が割り込んでくる。

「王国騎士殿、お待ち下さい! 私達の団長と仲間に剣を向けるのですか!?」

残っていた4人の聖騎士達だった。もちろん、普通の人間だ。

というより、あの聖騎士の一人は聖騎士団の団長だったのだと、初めて知った。

「話は付いていたはずだが? あれらは既に聖騎士ではない」

ウィリアムは酷く冷たい言い方をする。

「しかし――」

言い募ろうとする聖騎士をジェロームが制止する。

「止めろ。あれは私達の知る彼らではない。彼らの意思はもうない」

「……」

4人の聖騎士達は何かを言いかけ、ぐっと黙った。

「エヴァーガン団長、あれらと戦うなら、貴方一人でも構わないはずだ。他の騎士は民衆の避難を」

「我らのことは我らが決めます。第三騎士団団長は我だ」

ウィリアムの提案をエヴァーガン団長は頑なに拒否する。

「エヴァン・レノルズ、カール・ブラウン、彼らの避難を」

エヴァーガン団長はわたし達に視線を向ける。

わたし達を避難させるように言っているんだ。

でも、あの聖騎士達はわたし達を追いかけてこないだろうか。

どうするのが正解か、わからない。

話が通じるなら、一度、あの聖騎士達と話してみるのがいいかもしれない。話し合いで解決するなら、平和的だ。

現に聖騎士達は襲ってこない。

騎士道精神とか何だろうか?

というよりは、別の目的があるように思う。

「僕はここに残ります」

コーディがそう宣言する。

「相手は魔獣ではなく、人間です。ここは騎士団に任せて下さい」

エヴァンが冷静に言う。

実際にはもう人間とは呼べないかもしれないけど。

「コーディが残るなら、わたしも残ります」

戦えないけど、残ると言ってしまった。エヴァンには悪いと思うけど。

「ボクも戦えます」

「わ、私も頑張ります……」

ミアとリーナも残る気で、それぞれ気合を入れている。

「いえ、貴女方は離れて下さい。私達がお連れ致します」

我儘は許さないとばかりに、エヴァンがぴしゃりと言う。


「さあ、もういいだろうか。さすがに待ちくたびれた。逃げたいのであれば、すぐに逃げるがいい」

9人の仮面を付けた聖騎士の一人が流暢に声を発する。

全員の視線がその聖騎士に向く。

やっぱり、待ってくれていたようだ。結構長い一連のやり取りの間中。

逃げていいと言ってくれたが、誰も逃げなかった。

そう言うわたしも逃げたいとは口に出していない。本当は逃げたいけど。しかも、一度、残ると言ってしまっている。

第三騎士団の人達も全員残ったままだ。

わたしが騎士に対して何か言えることはない。

この状況で言うような度胸はない。

騎士団の人達からすれば、わたしは部外者だ。

その辺りにいる一般市民だ。


9人の聖騎士達が一斉に動き始めた。

攻撃して来ないなんてことはなかった。

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