248話 王都観光 九
「貴方方に感謝を申し上げる」
団長さんも中々いい人だ。団長ともなると、かなり高圧的な怖い人だという印象がある。まあ、身分が高い人っていう感じはする。
というより、もしかして、待たせていたんだろうか。
わたしのせいでは、きっと、ない。
「魔獣退治人と聞いた。あれをたった二人で相手できるとは恐れ入る。我々、第三騎士団に入らないか? 私が推薦する」
団長が勧誘し出す。その第三騎士団は人手不足なんだろうか。
「申し訳ございませんが、お断り致します」
コーディは申し出を即座に断った。コーディは騎士を目指していたのに、何の迷いもないように。
「いくら強いとは言え、大切な女性を悲しませる気か? 魔獣退治人が危険だと言うことは誰でも知っていることだ」
「訂正しますが、僕達は魔獣退治人ではありません。立ち寄った町の近くに魔獣が出たので退治を手伝っていたにすぎません。僕には役目がありますので、騎士になることはできません」
「私も遠慮させていただきます。私のような者に王国騎士など務まりませんので」
ジェロームにしては殊勝な態度だ。
さすがに相手が騎士団の団長だから、だろうな。
同じ侯爵家なら、顔見知りかもしれない。ただ、初対面のような接し方だ。
あのローブのせいかもしれないし、本当に知らないのかもしれない。
王城に行った時もあんな人は見なかった。見れば、さすがに覚えているはずだ。
他にも、騎士達が馬で駆けつけてきた。
その先頭にいるのはまたまた、見知った人だった。
そう、コーディとジェロームのお兄さんのウィリアムだった。
ウィリアムも第三騎士団なんだろうかと思ったけど、服が違う。
第三ということは第一や第二があるんだろう。多分。
物々しい雰囲気に、声を掛ける気はおきない。
後、ジェロームが嫌そうに「げっ」と口から出ていた。
ただ、一瞬、わたしはウィリアムと目が合った。
わたしのことは確実に気付いただろう。リーナやミアのことも気付いたと思う。
もしかすると、既にローブの二人がコーディとジェロームだと推測しているかもしれない。
ウィリアムからは特に声は掛からない。
まあ、全く知らない人のふりをする方がいいだろう。お互い。
「第一騎士団がどうしてここに? 貴方方の出る幕はありませんが。我らの領分の侵害は止めていただきたい」
団長は嫌味を含んだ物言いをしている。
ウィリアムは第一騎士団なんだろう。
第一騎士団と第三騎士団はあまり仲良くなさそうだ。
二つの騎士団は雰囲気もかなり違う。こんな時だけど、第一騎士団はとにかく華やかだ。聖騎士に近い。
「それにしては王都の中央でかなりの被害だな。エヴァーガン団長、貴方が思っているより、事態は深刻だ」
ウィリアムはエヴァーガン団長と渡り合っている。一歩も引く気はなさそうだ。
わたしには関係のないことだ。勝手にやっておいてほしい。
それより、第三弾の魔獣は出てこないようで安心した。
何だか、ゲームのボス戦のようだ。
他の場所で被害が出ている様子もない。
とりあえず、これで終わりのようだ。何がしたかったのか? うん、全くもってわからない。
ただ、やっぱり、わたしかコーディがいたことで起こった気はする。
見張られているんじゃないかと思う。
ある意味では、わたしの行動は正解だったことになる。
セイフォードの神官長の姿を探したけど、もうどこにも見えない。
問い詰めるべきかもしれない。
残念なのは、形だけの魔王のわたしに問い詰められるとは思えないことだ。
言ったとしても、多分、本当のことは言わないんだろう。
また、聖堂の辺りが淡く光った。
もうさすがに何もないだろうと思ったのに。
間延びしている。ありえない。
さらに、魔獣を出してくる気なんだろうか。
何の意味があるのか? 本当にいい加減にしてほしい。
しつこくてうんざりしてくる。
出てきたのは、魔獣じゃなかった。
人だった。
9人の人が崩れた聖堂前に並ぶ。
彼らは聖騎士の恰好をして、白い仮面を付けていた。
どうして、ここで出てくるのか。
彼らとまともに戦えるのは、リーナだけかもしれない。
おそらく、失踪した聖騎士達だ。
でも、失踪したのは全員で10人のはず。1人足りない。
多分、いない1人は、ダレルというジェロームの友人の聖騎士だ。
「聖騎士か。あそこで何をしているのか」
エヴァーガン団長が不思議そうに呟く。
「警戒するように。あれは王都を脅かす敵だ」
ウィリアムが聖騎士を正面から見据える。
現れた聖騎士達との距離は近い。
わたし達は大分、聖堂に近づいていたから。
仮に見張られていて、あの魔獣が送り込まれていたとしても、本気でわたし達を殺そうとしているとは思えない。
それでも、あの聖騎士達は強い。




