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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ⑤
247/316

247話 王都観光 八

小さな魔獣の最後の一匹をジェロームが倒した。

「無事でよかった」

エヴァンが呟いた。

本当に、カールが無事でよかった。死んでしまうんじゃないかと思ってしまったから。

幸いに、浴びた魔獣の体液も毒とか酸ではなさそうだ。

わたしも無茶なことはしないようにしよう。反面教師というやつだ。

コーディとジェロームも大きな怪我はないようだ。

魔獣はいなくなった。後の問題は、すぐ近くにいる騎士団の団長さんだ。

証言を求められたりするんだろうか。

「怪我があれば、手当をしないといけませんので」

わたしは何か言われる前にコーディとジェロームの元に向かった。

リーナにも特に止められなかった。

リーナとミアもわたしについて来る。

「まだ、危険かもしれません」

振り向くと、エヴァンもわたし達を追いかけてきた。

その時、ふと、知っている人と目が合った。

正確には人じゃないけど。

真っ白の髪が印象的だ。

神官長の装いじゃないし、若い姿だ。

どうしても名前が思い出せないけど。

わたしから隠れるというわけじゃなく、むしろ、認識させたい感じだ。

間違いなく、セイフォードの神官長だ。

今は構っているほど、暇じゃない。いや、あやしいけど。何かありそうだけど。

今は無理だ。

というわけで、コーディとジェロームの元へ駆けつける。

大きな魔獣は骨も見えて、ぐちゅぐちゅになっている。

近くで見ると、かなりグロテスクだ。

普通の人間にはかなりの脅威だけど、失敗作のような気がしてならない。

誰かが作ったのは間違いない。

もしかして、作ったのは神官長だったりする?

「あまり見ない方が」

コーディが魔獣の死体を遮るようにわたしの前に立つ。

「大丈夫です。コーディの方が大変だったと思いますし。あんなものを相手にするのは……」

いつも思う。わたしも本当はカールのように駆け付けたい。わたしも強ければ、一緒に戦うのに。

確かに、魔獣の死体は気持ち悪いけど、そんなことじゃない。

「怪我はないか、ブラウン」

エヴァンがカールに声を掛けている。

近くで見ると、カールはかなりひどいことになっていた。

気持ち悪いものがカールに付着して、全身、びっしょり濡れている。

「はい、ありません……私は役に立てませんでした……」

カールは気落ちしていた。エヴァンに励ましてほしいかのように、エヴァンに近づこうとする。

「いや、来ないでくれ。汚れる」

エヴァンは清々しいほど、全力でカールを拒否していた。

「体を洗うまで、絶対に誰にも近づくな」

エヴァンがカールに言い含めている。

「そ、そんなぁ」

「自己責任だ」

エヴァンに嫌がられているが、カールは特に痛がるそぶりはないし、怪我も本当にないんだろう。

うん、無事でよかった。

「すみません。わたし、余計なことをしたかもしれません。こんなことになるなんて……壊れた建物に誰かいたかもしれません……」

「メイのせいではありません」

コーディがわたしを抱き締めてくれた。

「僕はどんなことがあっても、あなたを愛しています」

届くなら、すぐにでもコーディにキスしていたかもしれない。身長差で届かないけど。

わたしはコーディの胸に顔を埋めた。

今は泣いてないから、涙も鼻水も付かないと思う。

それでも、今のわたしの顔は見せられないかもしれない。

「カール・ブラウン」

さっきも聞いた団長の声が割と近くから聞こえた。

あの場に留まっているか、帰るかしてほしかった。

団長はカールのフルネームも知っているなんて。団員が何人くらいいるのか知らないけど。何かしでかして覚えられているだけかもしれない。

というか、今は、コーディと二人きりではない。

周りに騎士達がいる。それに、その騎士達の団長までいる。

なんだか、まずい気がしてきた。

処罰でもされないだろうか。

まあ、この場で一番身分が高いのは、コーディのような気はする。だから、大丈夫だとは思う。

「コーディ、あのなあ」

ジェロームが呆れた声を上げた。

「コーディ様、ダメです! メイを放してください!」

ミアの怒ったような声もすぐ近くで聞こえる。

さすがに兄とミアに言われたからか、それとも、周りに人がいることに気付いたからか、コーディはわたしを放した。

ちなみに、カールの側にいたはずのジェロームは魔獣の体液を全く浴びていないようだ。一番魔獣の近くにいたコーディも。

二人が着ているローブはただのローブではないかもしれない。出処は魔王国かもしれない。

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