246話 王都観光 七
この国の騎士達は立派な人が多いらしい。
自分の命も顧みず、立ち向かっていこうとする。
騎士学校ではそう教育されているのかもしれない。一種の洗脳のような。結構、怖い所という考えが払拭できない。
そんなカールもようやく、参戦を諦めたらしい。
コーディはさすがに大きな魔獣相手に攻めあぐねている。小腸のようなものを斬り落としても、また、生えてくる。
ジェロームは、素早く動きながら、小さな魔獣達を引き付け、確実に一匹ずつ倒していた。
もっと、大規模な魔法を使ってもいいと思う。
顔も見せてないし、今なら、誤魔化せると思うのだ。多分。
身体強化の魔法は掛けているけど、疲れないわけではないだろう。
わたし自身にこの魔法は掛からないので、わからない。どの程度、強化されているのかも。掛けた本人がわからないなんて言う、かなりの欠陥がある。
それに、毎回、微妙に強化内容が異なっている気がする。
掛けられる側もわたしにそんなことを言われれば、不安になりそうだ。
魔法には失敗すると、自滅するような魔法もある。この身体強化もその類の危険な魔法だそうだし。
コーディとジェロームは大丈夫だろうか?
「私は冷静です。その上で、あの小さな方の魔獣ならば、私にも戦えます。あくまで、手伝うだけならばできます。ここは任せます」
カールは全然、諦めてなかった。
わたしが手を伸ばしても、もう、カールには届かず、カールは走って魔獣に向かって行ってしまった。
「おい! 言うことを聞け!」
エヴァンが怒気をはらんだ声で言う。
エヴァンはカールを追いかけようと踏み出すが、ぴたりと止まった。
「お見苦しい所をお見せし、申し訳ありません。私は貴女方と共におります。何かあれば、私が防ぎます。その間に逃げて下さい」
エヴァンはここに残ることを選んだ。わたし達を置いて行けなかったらしい。
実際には、わたし以外のミアとリーナは戦えるけど。更に言えば、多分、カールやエヴァンより強いと思う。
ただ、そんなことは言えないし、信じてくれないかもしれない。
もう遅いけど、ふと思い出した。
カールに身体強化の魔法を掛けていない。
掛けた方がいいのかもわからない。カールが身体強化にすぐに順応できるかわからないから。
もう、連れ戻せない。
せめて、死ななければ治癒魔法で治せる。
リーナは不安そうな表情で、わたしの腕を掴んでいる。
わたしを行かせないためかもしれない。
ちなみに、リーナの力はめちゃくちゃ強いので、振り払うのは不可能だ。
それに、わたしはあそこに行こうとは思っていない。
小さな魔獣は数を減らしている。
カールはそれを行っているジェロームに加勢する。
なんとかうまくやれそうで安心した。
大きい魔獣もコーディの方が攻勢だ。
この分だと勝てるだろう。
「応援が来た」
エヴァンが呟く。
馬の蹄の音が聞こえていた。
広場に姿を見せたのは、馬に乗り、武装した騎士達だった。
誰かが知らせてくれたんだろう。
ただ、コーディとジェロームの邪魔はしないでほしい。
その騎士達はわたし達の方に向かって来る。
「エヴァーガン団長!」
エヴァンが姿勢を正して直立する。
先頭にいたのは、団長らしい。しかも、エヴァーガンということはフィーナやロイの親族かもしれない。
彼らとは体格があまりに違うけど。
団長はボディービルダーのように、ムキムキだ。体がかなり大きく見える。
「エヴァン・レノルズ、状況を説明してほしい」
見た目はあんなだけど、団長の口調は穏やかだ。
「はい。カール・ブラウンと共に、彼女達をこの中央広場まで送り届ける為に参りました所、聖堂が崩れ、魔獣が現れました。彼女達の知り合いだという二人の内の一人が魔獣退治人らしく……その――」
エヴァンが口ごもる。
「それで、その魔獣退治人の彼らが戦っているという訳か」
「申し訳ございません」
「いや、君が間違っているということもない」
見た目は直情的な感じだけど、団長は落ち着いている。
その間にも、小さな魔獣はもう後3匹になっている。
カールが役に立っているのかはわからない。
大きな魔獣の小腸のようなものの本数が増え、その先端が光り出した。
間違いなく、魔法を放とうとしている。何だか、まずそうだ。
コーディが強引に突っ込んで、小腸のようなものを斬り落としていく。
それでも、全ては斬れず、まだ残っている。
残っているものから青い光線が放たれる。何魔法なのか不明だ。
その内の一つが崩れた聖堂に向かい、更に聖堂を破壊した。その周辺の建物にも被害が出ている。
長い時間、魔法を放てるわけではないらしく、青い光線は見えなくなった。
コーディは魔獣本体を斬り付けるが、効いているのかよくわからない。
何だか、弾力があるように見える。
コーディは魔獣の頭にあたる部分に、斬るのではなく、剣を突き刺す。
魔獣は頭を突き上げ、悲鳴のような鳴き声を上げた。
コーディは自身の体が持ち上がる前に剣から手を離した。
魔獣の体から血なのかよくわからないものが飛び散り、魔獣は崩れ落ちた。
コーディは闇魔法を使っていないように見えた。実際に使っていないかはわからないけど、何とか、普通の人間が倒したようには見える。
カールは無事のようだけど、思いっきり、あの大きな魔獣の体液か何かを浴びていた。




