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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ⑤
245/316

245話 王都観光 六

崩れた聖堂付近が淡く光った。わたしには確かに見えた。

気のせい――ならよかったけど、絶対、気のせいじゃない。

「コーディ、ジェローム、何かが来ます!」

聖堂に背を向けている二人には見えていない。

何かが転移してくるのだ。

コーディとジェロームも聖堂の方を向く。

転移してきたものの姿を見て、恐怖する。

さっきの魔獣より悍ましい。

魔獣と呼べるのかもわからない。これまでの魔獣はまだ、普通の獣とそこまで見た目が変わるわけではなかった。

ゾンビみたいに体が腐っているわけではないようだけど、内臓が剥き出しになっているようなそんな感じだ。体表が波打っているようにも見える。

一際大きく、ここからでもよく見えてしまう。

魔獣の実験体か何かを次々に出しているようだ。

わたし達を殺すためだったら、一度に出して来ればいいと思う。

本当に実験の為だったりするんだろうか?

「何なんだ? あれ。コーディ、見たことあるか?」

「いいえ、僕も初めて見ました」

「だよな」

二人は強気に言う。

でも、あれと戦うのは、やっぱり怖いと思う。

「コーディ……」

皆で逃げる方がいい。転移魔法を使ってもらえば、逃げられる。

でも、そんなことが言えるわけない。

わたしより年下のリーナに戦ってほしいとも言えない。

コーディやジェロームはそんなことしない。

「大丈夫です、メイ。再度、魔法を放たれる恐れもあります。リーナやミアと共に離れていて下さい」

「今度は私も戦う。せっかくのこの剣も使ってないしな。あの数を一人では辛いだろう」

ジェロームが言うように、あの気味の悪い魔獣一匹だけじゃない。

大きいのはあの魔獣だけだけど、小さな魔獣がその周りに10匹以上いる。

「コーディ、わたしも戦えれば……」

わたしはコーディとジェロームにもう一度、身体強化の魔法を掛けた。

「メイ、絶対に来てはなりません」

コーディが真剣な目で見つめてくる。

わたしが行っても邪魔にしかならないことはよくわかってる。

「わかりました。でも、魔法ももっと使ってください」

あの魔獣がどれだけ強いのか?

一切わからない。

あの聖騎士並みに強いかもしれない。しかも、言葉も通じない。

見られていることを気にしている余裕はないと思う。

「はい。任せてください」

余裕があるように言うコーディとジェロームは魔獣に向かって行った。

広場からはほとんどの人が既に避難した。残っているのは、わたし達以外に聖騎士四人と転んだのか避難が遅れている人が何人かいる。

彼らは静かだった。

静かに魔獣のいる方を向いている。

あの魔獣に気付いてはいる。

固まっていると言った方がいいかもしれない。

それに、動いたり、物音を立てれば、あの魔獣が襲い掛かって来るんじゃないか、そんな風に思える。

ただ、広場の外の道には人が増えているように思う。野次馬だろうか。

早く逃げた方がいいように思う。

エヴァンとカールはさっきと違い、一言も発しない。

正直言って、あの魔獣を人間が倒せるとは思えない。

もちろん、攻撃魔法の使えないわたしにも倒せない。魔王なのに。

ジェロームは人間だけど、コーディが拒否しなかったし、身体強化の魔法を掛けても、問題なく動けている。

「私の敬愛する聖騎士であれば、立ち向かうはず。騎士である私が臆病になるなんて、どうかしている」

カールは自分を奮い立たせるように突然、言葉を発する。

魔獣の元へ駆け出そうとしそうなカールの腕を両手で掴んだ。

「ダメです。死んでしまうかもしれません」

死ねば、生き返らせることはできない。

行かせてしまえば、カールが死んでしまう気がすごくする。

「それは、彼らも同じでしょう。私よりは確かに強いと思います。ですが、あのような得体の知れない魔獣が相手ではいくら彼らでも。それなら、人数が多い方が」

「その敬愛する聖騎士も無謀に突っ込めとは言わないと思います」

カールを見ていると、以前の自分がかなり愚かだったとよくわかる。本当に無謀だった。

無謀に突っ込んで痛い目を見ている。

「ブラウン、彼女の言う通りだ。無謀なことは止めろ。冷静になれ。彼女達を置いていくのか?」

エヴァンがカールを説得する。

カールのことはエヴァンに任せ、魔獣に目を向ける。

大きな魔獣はコーディが、小さな魔獣はジェロームが担当するらしい。

大きな魔獣はいきなり魔法を放っては来なかったけど、その代わり、体表から長いものが生えてきた。小腸が飛び出てきたように思えてしまう。中々、気持ち悪い。

「私は冷静です。この危機に何もしないで見ているだけなのですか!? 私達は騎士のはず。騎士に相応しくありません。私の目指す騎士ではありません」

カールはまだ、説得できないらしい。カールの声は先ほどより大きくなっている。

あの魔獣に立ち向かうのはかなりの勇気がいると思う。

コーディとジェロームはすごいし、戦いに行こうとするカールもすごいと思う。

でも、今は行くべきじゃない。

わたしもエヴァンもカールも。

「無駄死にするだけだ。初めて見るあのような魔獣相手に勝算があるのか? 応援を待つべきだ」

エヴァンの言うことが全面的に正しいと思う。

コーディとジェロームにも戦ってほしくないけど……

誰も傷ついてほしくない。

カールは一転して黙っていた。

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