243話 王都観光 四
わたし達が中央広場に着いた頃、ちょうど、神官や聖騎士が広場に入ってくる所だった。
やっぱり多くの見物人が集まっている。
大勢の人達が静かに神官や聖騎士を見守っている。
信仰目的なのか、ただの神官や聖騎士のファンなのかはよくわからない。
フィーナは特定の聖騎士のファンだったけど。
両方なのかもしれない。
本日、ここに来るのは二度目だ。
午前中に来た時はこんなに人はいなかった。
神官や聖騎士の行列に近づく。
というより、カールがエヴァンを抜き、前に行こうとするからだ。
わたしは、遠くから見ているだけでもいいように思う。
わたしはつい、きょろきょろと今日もいるんじゃないかと、フィーナを探してしまう。
さすがにフィーナはいないようだ。
まあ、ジェロームもあの行列の中にはいない。わたし達の側にいるから当然だけど。
人を押し分けて前に行く訳にはいかないのか、他の見物人よりは少し後ろから眺めていた。
まるで、テーマパークのパレードを見ているようだ。娯楽の一種なのかもしれない。
今のわたしは聖騎士とかより、この後の事の方が重要だ。
コーディにどう話せばいいのか。
返事は決まっている。でも、どう伝えればいいんだろう。
どうしよう……
ただ、絶対に今日、コーディと話をする。そうしないと、ズルズルと時間が過ぎて、言えなくなりそうだ。明日でいいかと考えてしまう。
頑張れ、わたし!
やればできる!
自分を鼓舞している間に、神官や聖騎士の行列はわたし達の前を通り過ぎていた。
全然、見ていなかった。
まあ、わたしにはどうでもいいから、いいか。
そう考えていると、大きな音がした。何かが崩れるような。
音が反響してどこから聞こえたのかよくわからなかったけど、わたしは何となく聖堂の方を見る。
聖堂の残っていた壁が完全に倒壊していた。
修復中だったようだから、脆くなっていたのかもしれない。
巻き込まれた人がいるのかはここからではわからない。
神官や聖騎士の行列も止まっている。
ただの事故だろうか。そうであってほしい。
何だか、わたしのせいみたいに思えてくる。
何か起こるかもしれないとは思ったけど、本当に起こることを期待していたわけじゃない。
獣のような鳴き声が広場に響き渡った。
風の音というにはちょっと無理がある。
さすがに気のせいとは思えない。
やっぱり獣の声だ。
街の真ん中で。
動物園から逃げたということは、やっぱり、ないんだろう。
セイフォードでの魔獣の事件を思い出す。
そう言えば、少し前に魔獣が増えてることを聞いたところだ。
周りも少しざわざわとし出している。
転移魔法を使えば、魔獣を街の中に出現させることもできる。
聖堂倒壊がただの事故という可能性はかなり低くなった。
「これって……」
「おそらく魔獣でしょう。ここ最近、僕は魔獣退治を行っておりましたから」
コーディはそう言うと、黒い剣を2本、どこからともなく取り出した。闇魔法で作り出されたものだと思う。
「兄様」
コーディは黒い剣の1本をジェロームに渡す。
「魔獣退治なんて、していたのか」
ジェロームは剣を受け取る。
「はい。魔獣は僕が食い止めます。兄様は他の方々をあの聖堂から遠ざけて下さい。ただ、他にも魔獣がいないとは限りません」
「聖騎士に協力させる。コーディ、後で加勢にいく。持ちこたえてくれ」
「わかりました。メイ、僕は魔獣の対処に行きます。ミア、リーナ、メイを頼む」
「いや、私達が行く。国民を護るのも、王国騎士の仕事だ」
エヴァンがコーディに詰め寄る。
「最近の魔獣と戦ったことはないでしょう。これまでのものとは違います。はっきり言って、邪魔です。彼女達の側にいて下さい」
コーディはエヴァンに本当にはっきりと言い放った。
「……わかった。魔獣退治は頼む」
「ですが……私達も戦った方が」
カールはエヴァンに意見する。
「止めておけ。魔獣退治を仕事にしている者の意見が正しいだろう。私はもう何年も魔獣退治はしていない」
「承知致しました」
カールが渋々納得したのを見届け、コーディとジェロームは顔を見合わせ、目的の場所へ向かおうとする。
「コーディ、ジェローム、待って」
わたしは二人を引き留め、身体強化の魔法を掛けた。
すると、二人の持つ黒い剣が光に包まれた。
確かに真っ黒の剣って、どうなんだろうとは思ったけど。
どうしてそうなったかは、わたしにはわからない。
「さすがは聖女様だ」
ジェロームが光に包まれた剣を掲げた。
聖騎士というからには、黒い剣よりは似合うだろう。
「ありがとうございます、メイ」
コーディとジェロームは駆け出した。
今まで、声だけで、姿が見えていなかった魔獣がはっきりと見えた。
見えたと思った矢先、魔獣が魔法を放ってきた。
そう認識したが、何もできない。
魔獣の放った魔法は何かにぶつかり、わたしや周りの人達まで届かなかった。
魔獣はすぐに魔法を使わないんじゃなかったんだろうか。
広場はもちろん騒然となった。




