241話 王都観光 二
「これ以上、来るな! こいつがどうなってもいいのか!?」
ミアにナイフを向ける男はお決まりの台詞を言う。
別で迫っていた足音が止まる。
振り向いて確認すると、立派な装備の男達だった。
王都の警備隊とかだろうか。
わたしが視線をミアに戻した時、ミアがナイフを持つ男の腕を掴んで、投げ飛ばした。
ミアの被っていた帽子が落ちて、犬じゃなくて狼の耳が見える。
「大丈夫。刺されても死なないから」
ミアが笑顔で言う。
確かにわたし達は三人とも刺された程度では死なない。でも、痛い。
ミアにも、リーナにもそんな目に遭ってほしくない。
「行け」
警備隊の一人が掛け声を合図に、警備隊の人達が後の二人も捕らえ、拘束した。
手際が良くて、結構、優秀そうだ。
「怪我はないか?」
掛け声を上げた人がわたし達に話しかけて来た。
わたしは首を横に振る。
「この辺りは残念だが、治安が良くない。女性だけで来るのはおすすめしない」
「すみません。初めて来たので、迷ってしまったんです。あの、大聖堂までどう行けばいいか教えてもらえませんか?」
警備隊なら大聖堂までの行き方を絶対に知っているだろう。
「この辺りは入り組んでいる。レノルズ、ブラウン、彼らが案内する」
「私は第三騎士団所属、エヴァン・レノルズです」
「同じく、カール・ブラウンです」
警備隊じゃなくて、騎士だったらしい。
ウィリアムやアーロと同じく王国騎士だ。
騎士に道を聞いてよかったんだろうか……
「あの、忙しいようでしたら、そこまでしてもらわなくても」
「あの逃げた三人を捕らえれば、私達の役目は終了です。気にされる必要はございません。さあ、早く参りましょう」
カール・ブラウンという騎士が私達を促す。
気にする必要がないという割に急いでいる気がしないでもない。やっぱり忙しいのだろうか。
道がわからないのは事実なので、大人しく二人の騎士の後について行った。
歩幅は合わせてくれているのか、速く感じない。
「メイ、ボク、もっと頼りになるように頑張るよ。今日もちょっと失敗しちゃったんだけど……コーディ様にも頼まれていたのに」
ミアの帽子の中の耳までしゅんとしていそうだ。
「わたしが適当に歩きすぎたから。完全に悪いのはわたしだから」
ここは日本じゃないし、誘拐も起きる。
気を付けないといけない。次こそは絶対に。あらかじめ、予定を立てておくことにしよう。
久しぶりに街を自由に歩けたから、調子に乗ってしまった。
「それより、コーディに会ったの? わたしは何日も会ってないんだけど」
「ボクも何日も会ってないよ。頼まれたのはもっと前だから」
「そうなんだ……ちょっとくらい顔を出してくれてもいいよね。仕事なのはわかるけど」
「ボクもそう思うよ。帰れるはずなのに。コーディ様はメイから逃げてるだけだよ。本当に意気地なし」
「確かに! ヘタレ! 結婚を申し込んでいなくなるってどういうこと?」
答えを言ってないわたしも悪いとは思うけど。
何日も放置って……それはないと思う。
コーディは転移魔法も使える。簡単に転移できるはずだ。
怒りたくもなる。
「え!? コーディ様に結婚を申し込まれたの!?」
「うん。まだ、答えは言えてないけど」
「それでコーディ様は逃げてるの?」
「それは、わからないけど……」
「本当に意気地なし」
ミアに二回も言われている。
「いや、さすがに言い過ぎだろう」
カール・ブラウンという騎士が口を出してきた。
彼らがいるのを忘れていた。しかも、彼らは騎士だ。
「私は平民上がりだから、気を遣うことはない」
「騎士にはどうすればなれるんですか? コーディも目指していましたから」
「知り合いに騎士がいれば、その騎士に付いて見習いになることもできるが、今時、見習いにしてくれるような騎士がいない。今はほとんどが騎士学校に行くことになる。騎士学校に入る為には試験を突破しないといけない。これが難関なんだ。私はぎりぎりで合格した」
「じゃあ、騎士になれるのはすごいんですね。騎士学校は卒業も難しいと聞きました」
「ああ、そうだな。それより、そのコーディとは結婚するのか? どういう男なんだ? 大丈夫なのか?」
「結婚するかはわかりません。コーディはお金持ちのお坊ちゃんで末っ子だけど、すごく優しいです」
「想像できる気がするな。優しいのはいいが、末っ子なら家は継げないな」
「そうですが、それは問題ありません。わたしの所に来ることもできますし」
カールと話していると、もう一人の騎士、エヴァン・レノルズがカールの肩をがしっと掴んだ。
「ブラウン、いつまで学生の気分でいるつもりだ」
「申し訳ありません」
エヴァン・レノルズの方が先輩なんだろう。カールは素直に謝る。
気付けば、大聖堂が見えている。周りに人も歩いている。
「大聖堂はすぐそこです」
エヴァンが言う。
「ただ、今の時間は大聖堂の前には行けませんよ。女神への礼拝の時間が近いですから。中央広場までお送りしましょうか」
カールがそんなことを言うが、わたしには何のことかよくわからない。
通行止めとか立ち入り禁止になるんだろうか。
ミアに視線を送っても、ミアは小首を傾げるだけだ。
リーナに視線を送ると、
「大聖堂から先ほど訪れた聖堂へ神官長様が礼拝に赴かれます。その為、本日のその時間は大聖堂に近づけないのです」
そう答えてくれた。
それって、ロイやフィーナと見た神官や聖騎士の行列のことだろうか?
ジェロームに聞けば詳しそうだ。ジェロームは聖騎士だし。
「あの聖堂に入って大丈夫なの? 入口の辺り、かなり壊れていたけど」
「はい、おそらく」
関係ないことをリーナと話してしまっていた。
「騎士として自覚を持て。清廉の聖騎士を見たいから言っているだけだろう?」
「あ、いえ、そのようなことは……申し訳ありません」
エヴァンがまた、カールを叱っている。
「中央広場までお願いできますか。そこなら、よく知っています」
わたしは忖度することにした。
要はカールはフィーナと同じく聖騎士が見たいということなんだろう。
聖騎士はかなり人気があるらしい。王国騎士にまで。
大聖堂の近くに迎えが来てくれるそうだけど、まだ、時間があるし。
それに中央広場と大聖堂は近い。さすがに数分では着かないけど。




