239話 国王と会う 三
仮面は外し、息を吐く。
「あの、癒しの聖女って?」
「勿論、メイさまのことでしょう」
予想通りの答えがメルヴァイナから返って来る。
セイフォードでは癒しの聖女の噂は広まっていた。
ただ、王都ではそんな噂は一切、聞かない。
国王も知らないみたいだった。
セイフォードはここからかなり遠いらしいし、電話もないからそんなものなのかもしれない。
わたしには遠い実感はないけど。転移魔法なら、一瞬だから。
「気になるのは、国王が癒しの聖女を知らないことか? それとも、誰かを特定させない言い方をしたことか?」
ライナスがわたしに質問してくる。
「両方です」
「国王、それに王都の者が知らないのは、魔王国が止めているからだ。あの言い方も伯父上の判断だ」
「嫌がらせ、ですか?」
前にメルヴァイナがシンリー村跡地の大穴は嫌がらせだと言っていた。
「そんなはずがないだろう」
「あら、そう? 宰相さまから理由を聞いた訳じゃないんでしょう? それなら、そういうこともあるかもしれないじゃない。理由の1つかもしれないじゃない?」
「そうだな、理由の1つかもしれない。国王はこちらの要求通りに引き渡す考えだそうだ。ただ、すぐには引き渡せない」
ライナスはメルヴァイナに反論はしなかった。
「癒しの聖女が誰かわからないから」
まあ、誰が考えてもそう考えるだろうということを口にした。
「ああ。それに、二人の公爵が渋っている。ウォストデール公爵とドレイトン公爵だ」
ウォストデール公爵って、どこかで聞いた気がする。
どこで誰に聞いたのかは思い出せない。多分、魔王国関係だ。
「ウォストデール公爵は魔王国の関係者ですか?」
「魔王国の者ではない。ただ、協力者のようなものだ。私と面識はない」
ライナスにしては親切に教えてくれる。
これもわたしが知っておく必要があるということなんだろう。
「わかっていると思うが、王国の者の前で治癒魔法はみだりに使うな」
まあ、知っているのは、フォレストレイ侯爵家の人達とロイとフィーナと王太子ぐらいだ。
……王子は皆、わたしが治癒魔法使えるって知ってるけど……大丈夫だろうか……特に、王太子……
「王太子は知ってますけど、大丈夫でしょうか」
「あそこにいた王太子は偽物だ」
偽物……確かにやけに立派に見えた。
もしかして、偽物が国王になるのだろうか。
「あの偽王太子にはしっかりと王子としての役目を果たしてもらう」
やっぱり、そうなのか。
じゃあ、本物の王太子は、一体どうしているんだろう?
も、もしかして……消された?
「本物の王太子はいないので、ご安心ください、メイさま」
メルヴァイナがわたしに微笑みかける。
え? 王太子はもういないから安心ってこと?
微笑みが怖い。怖くて聞けない。
「そ、そう言えば、どうして、ドレイトン公爵も渋ってるんですか?」
「それは、よくわからないんですよ。特に協力者でもありませんし。想定外の行動を取られると困りますよね」
「そうですね、メル姉」
「もう俺は戻っていいか。こんな茶番に付き合わされた俺の気にもなれよ。これだけの為に呼び出されて。俺がいなくてもよかったしな」
不機嫌な顔のティムが不機嫌そうな口調で言う。
「ティ~ム~、これも仕事でしょう? いつまでも子供なんだからぁ」
メルヴァイナががばっとティムを抱き込んだ。
ティムはしっかりホールドされて逃れられないでいる。
いつかも見た光景だ。
わたしはちょっと後ろに下がった。巻き込まれないように。
「メイさま、メイさまには本当に申し訳ございませんが、ライナスと馬車でお戻り下さい」
「メイ様、お気をつけて。フォレストレイ侯爵家でお待ちしております」
リーナが可愛く微笑んでくれる。
姉のメルヴァイナの微笑みとは全然違う。
何だか頑張れそうだ。
わたしは馬車で来たから馬車で帰らないといけない。
あの悪い意味での静寂の馬車で。




