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魔王の裁定  作者: 有野 仁
第5章 ⑤
238/316

238話 国王と会う 二

「国王の元に生き残った王子達がいます。私達も行きましょう。準備はよろしいですね」

「ちょ、ちょっと待ってください」

わたしは大きく息を吸って、吐く。

覚悟を決めるのよ! わたし!

わたし達は完全に悪役だ。

どうせ、この国では魔王は怖がられている存在だ。

国王によく思われたいなんてことは全くない。顔も知らない相手だ。

わたしは魔王だ。

今は何と言われようと、わたしは魔王だ。

最高の魔王を演じてみせる!

最高の魔王って、よくわからないけど、わたしの思う魔王に。

メルヴァイナ達は魔王四天王だ。

フォレストレイ侯爵に会う時の方がもっと緊張したように思う。

仮面で見えないけれど、顔を引き締める。

「準備できました」

「では、参りましょう」

メルヴァイナの言葉を合図に、ライナスが転移魔法を使う。

転移先は豪華な部屋を想像したが、真っ暗だった。

ただ、人の姿が浮かび上がっている。

真正面には一際、上等な服装の男女が立っている。

おそらく、国王と王妃なんだろう。

国王はコーディの実の父だから、どことなくコーディに似ている気がする。髪の色とか。

彼らとわたし達の間に、3人の王子がいる。偽コーディとロイと王太子だ。

3人の王子もまた、わたし達を見て、立っている。

それだけでなく、両側に貴族や騎士だと思われる男達がいる。

その中にフォレストレイ侯爵も見つけてしまった。

ちなみに女性は王妃だけのようだ。

多分、権力者が集っているんじゃないかと思う。

こんなに大勢いるとは思っていなかった。

そんな彼らがこんな真っ暗なところにいるのはおかしい。

だから、誰かが空間魔法を使っているんじゃないかなぁ。

こんな魔法、わたしも使ってみたいなぁ。

現実逃避している場合じゃなかった。

しんと静まり返った異様な雰囲気だ。

それに、気になるのはやけに彼らが小さく見えることだ。

遠くの方にいるというわけではなく、近くにはいる。

そう、わたし達が大きくなったようなのだ。

いや、わたし達以外が小さくなった?

メルヴァイナが数歩前に出る。ヒールの音がコツコツと響く。

「魔王様の御前、ひれ伏すがよろしい」

メルヴァイナが底冷えのするような、ひどく不安にさせるような声を発する。

「首が失くす方がいいか」

わたしは微動だにせず立っている、つもりだ。

わたしも怖いんだけど……

本気でしないよね?

念でも飛ばすように、メルヴァイナに心の中で投げかける。

「早くしないか。いつまで待たせる気だ」

ライナスが低い声で淡々と言う。

わたしが思う悪役なら、既に何人かの首が飛んでいる。

いや、そんなこと、されても困るんだけど。

実際に殺す気はないんじゃないかと思う。

ライナスが国王を指差す。その指を横に少しだけ動かした。

すると、カランと音がして、国王の冠の下の部分は国王の頭に残し、上の部分が転がり落ちた。

怖すぎる……

わたしがあの国王の立場なら、どうなっているかわからない。

国王は強張った表情だけど、威厳は保っている。

王妃は恐怖で固まっている。

「陛下、私達では魔王に太刀打ちできません。ここは従うべきです」

意外にも、冷静に王太子が言う。

王太子はわたし達に向かって片膝を突き、頭を垂れた。

以前に会った王太子と何だか同じ人だとは思えない。

偽コーディがそれに倣い、ロイは両膝を突いて頭を下げた。

両側にいる人達も同じように膝を突く。

わたしはかなり居心地が悪い。

最後に国王も頭を下げた。

帰りたい。ここにいたくない。

でも、わたしが頼んだことだ。

「既に伝えていた通り、指定した人間をもらう。その代わり、交渉に応じよう。そうすれば、この国は存続する」

一転して、メルヴァイナは優しさを含んだ様な穏やかな口調で言う。

「勇者はあなた方の意思でこの国に返されたはずです。それなのに、どうしてなのですか!?」

ロイが頭を下げたまま、訴えてくる。ロイの体も声も震えている気がする。

ロイも急に呼ばれて、呼ばれたらこんなことになってしまって、災難だと思う。

「魔王様の気が変わられただけ」

それにメルヴァイナが答える。

わたしが我儘みたいに言わないでほしい。けど、よく考えれば、事実だった。わたしの気が変わったようなものだった。

「真に魔王様の言葉だと理解したか? よい返答を期待している」

メルヴァイナが踵を返す。

「待ってくれ。癒しの聖女とは誰のことだ? どこにいる?」

国王がそう言った直後、周りの景色が変わった。

真っ暗闇から普通の部屋に戻った。

転移したのだ。

国王に返事しなくてよかったんだろうか?

それに、癒しの聖女……

「どうでしたか、メイさま。メイさまの期待に応えられましたか?」

いつもの口調でメルヴァイナが声を掛けてくる。

わたしはそんな期待はしていない。応える応えないの話じゃない。

わたしはそもそも、コーディが心配だっただけだ。

メルヴァイナの言う通り、国王、コーディの実の父親がコーディを捕らえようとするかもしれないから。

でも、そのコーディも偽物だった。

国王に会うということは、脅すということだ。

それはわかっていた。

それが今回の目的で、わたしがお願いしたことだ。

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