238話 国王と会う 二
「国王の元に生き残った王子達がいます。私達も行きましょう。準備はよろしいですね」
「ちょ、ちょっと待ってください」
わたしは大きく息を吸って、吐く。
覚悟を決めるのよ! わたし!
わたし達は完全に悪役だ。
どうせ、この国では魔王は怖がられている存在だ。
国王によく思われたいなんてことは全くない。顔も知らない相手だ。
わたしは魔王だ。
今は何と言われようと、わたしは魔王だ。
最高の魔王を演じてみせる!
最高の魔王って、よくわからないけど、わたしの思う魔王に。
メルヴァイナ達は魔王四天王だ。
フォレストレイ侯爵に会う時の方がもっと緊張したように思う。
仮面で見えないけれど、顔を引き締める。
「準備できました」
「では、参りましょう」
メルヴァイナの言葉を合図に、ライナスが転移魔法を使う。
転移先は豪華な部屋を想像したが、真っ暗だった。
ただ、人の姿が浮かび上がっている。
真正面には一際、上等な服装の男女が立っている。
おそらく、国王と王妃なんだろう。
国王はコーディの実の父だから、どことなくコーディに似ている気がする。髪の色とか。
彼らとわたし達の間に、3人の王子がいる。偽コーディとロイと王太子だ。
3人の王子もまた、わたし達を見て、立っている。
それだけでなく、両側に貴族や騎士だと思われる男達がいる。
その中にフォレストレイ侯爵も見つけてしまった。
ちなみに女性は王妃だけのようだ。
多分、権力者が集っているんじゃないかと思う。
こんなに大勢いるとは思っていなかった。
そんな彼らがこんな真っ暗なところにいるのはおかしい。
だから、誰かが空間魔法を使っているんじゃないかなぁ。
こんな魔法、わたしも使ってみたいなぁ。
現実逃避している場合じゃなかった。
しんと静まり返った異様な雰囲気だ。
それに、気になるのはやけに彼らが小さく見えることだ。
遠くの方にいるというわけではなく、近くにはいる。
そう、わたし達が大きくなったようなのだ。
いや、わたし達以外が小さくなった?
メルヴァイナが数歩前に出る。ヒールの音がコツコツと響く。
「魔王様の御前、ひれ伏すがよろしい」
メルヴァイナが底冷えのするような、ひどく不安にさせるような声を発する。
「首が失くす方がいいか」
わたしは微動だにせず立っている、つもりだ。
わたしも怖いんだけど……
本気でしないよね?
念でも飛ばすように、メルヴァイナに心の中で投げかける。
「早くしないか。いつまで待たせる気だ」
ライナスが低い声で淡々と言う。
わたしが思う悪役なら、既に何人かの首が飛んでいる。
いや、そんなこと、されても困るんだけど。
実際に殺す気はないんじゃないかと思う。
ライナスが国王を指差す。その指を横に少しだけ動かした。
すると、カランと音がして、国王の冠の下の部分は国王の頭に残し、上の部分が転がり落ちた。
怖すぎる……
わたしがあの国王の立場なら、どうなっているかわからない。
国王は強張った表情だけど、威厳は保っている。
王妃は恐怖で固まっている。
「陛下、私達では魔王に太刀打ちできません。ここは従うべきです」
意外にも、冷静に王太子が言う。
王太子はわたし達に向かって片膝を突き、頭を垂れた。
以前に会った王太子と何だか同じ人だとは思えない。
偽コーディがそれに倣い、ロイは両膝を突いて頭を下げた。
両側にいる人達も同じように膝を突く。
わたしはかなり居心地が悪い。
最後に国王も頭を下げた。
帰りたい。ここにいたくない。
でも、わたしが頼んだことだ。
「既に伝えていた通り、指定した人間をもらう。その代わり、交渉に応じよう。そうすれば、この国は存続する」
一転して、メルヴァイナは優しさを含んだ様な穏やかな口調で言う。
「勇者はあなた方の意思でこの国に返されたはずです。それなのに、どうしてなのですか!?」
ロイが頭を下げたまま、訴えてくる。ロイの体も声も震えている気がする。
ロイも急に呼ばれて、呼ばれたらこんなことになってしまって、災難だと思う。
「魔王様の気が変わられただけ」
それにメルヴァイナが答える。
わたしが我儘みたいに言わないでほしい。けど、よく考えれば、事実だった。わたしの気が変わったようなものだった。
「真に魔王様の言葉だと理解したか? よい返答を期待している」
メルヴァイナが踵を返す。
「待ってくれ。癒しの聖女とは誰のことだ? どこにいる?」
国王がそう言った直後、周りの景色が変わった。
真っ暗闇から普通の部屋に戻った。
転移したのだ。
国王に返事しなくてよかったんだろうか?
それに、癒しの聖女……
「どうでしたか、メイさま。メイさまの期待に応えられましたか?」
いつもの口調でメルヴァイナが声を掛けてくる。
わたしはそんな期待はしていない。応える応えないの話じゃない。
わたしはそもそも、コーディが心配だっただけだ。
メルヴァイナの言う通り、国王、コーディの実の父親がコーディを捕らえようとするかもしれないから。
でも、そのコーディも偽物だった。
国王に会うということは、脅すということだ。
それはわかっていた。
それが今回の目的で、わたしがお願いしたことだ。




