237話 国王と会う
「メイさま、さすがに今の私達が国王の前に行く訳にはいきません」
最もなことをメルヴァイナが言う。
まだ、ロイとのことの感傷が残っているのに。
メルヴァイナは王城内をすたすたと迷いなく進んでいく。
わたしは追いかけるだけで、王城のどの辺りにいるのか全くわからない。
国王とコーディ達が話をする部屋を覗ける場所にでも行く気なんだろうか。
メルヴァイナはある一室に入った。
わたしが続けて入ると、そこには先ほど別れたライナスとリーナ、ティムもいた。
他にも見たことのある女性達がいる。今日は三人だ。
「メイさま、国王に会いに行きますので、相応しい装いにお召し替え下さい」
メルヴァイナがさっきと違うことを言ってきた。
? いや、会わないんじゃなかったんだろうか?
侍女のような三人の女性達がわたしに頭を下げ、続きの部屋へと促してくる。
わたしは渋々、促されるまま、部屋に入った。
着させられたのは黒いドレスだった。
さっきのドレスより動きやすい。
黒い仮面をすっぽり被せられる。
完全に国王に会いに行く服装ではない気がする。
というか、嫌な予感がする。
前にもこんなことがあった。
それに、やっぱりわたしの頭に2本の角がついている。
うぅ、いやだ……
心の中で泣き言を言っていた。
着替えて、再び、メルヴァイナ達の前に戻る。
「さあ、魔王さま。私達の威光を知らしめに参りましょう」
メルヴァイナが恭しく頭を下げてくる。ただ、どことなく楽しそうな様子が伝わってくる。
いつ国王の前に乗り込むことになったんだろう?
色々とおかしいと思う。わたしには疑問だらけだ。
「恐喝に行くのだろう」
「要は力を知らしめればいいんだろ?」
「……魔王様の為にがんばります」
ライナスとティムとリーナそれぞれの言葉を聞く。疑問に思ってるのはわたしだけらしい。
彼らはいつの間に着替えたのか、先ほどまでの服装と違っている。
わたしと同じく黒い服だ。
わたし達は全身黒ずくめである。
「演出はお任せください。彼らの望む魔王となるように」
メルヴァイナは胸を張って言うけど、誰も望んでないと思う。
それに、演出って……確かにそのままだと魔王に見えない。単なる不審者だ。
「わたしが国王に会うなんて、聞いてないんです」
連れて行ってほしいと頼んだのは今日の朝だ。
断じて、国王に会いたいとは言っていない。
「私達は元々、国王に会うつもりだったのです。てっきり、メイさまもそのつもりだとばかり思っておりました。失礼致しました。ですが、せっかくですし、会っていきませんか?」
国王にそんな気軽に会いに行くものじゃない。コーディの実の父親だけど。
本当に息子さんを下さいとでも言うのだろうか。
「メイさま、もう、準備は万端です。後は、行くだけです」
「魔王が国王に会うことを宰相は知っているんですか?」
「それは勿論です!」
メルヴァイナは輝くような笑顔を浮かべて言う。
確かにせっかく準備したのに、と思わなくもない。わたしは着替えただけだけど。
それに、知らないところで話が進んでしまいそうだ。
実は、全くいやというわけでもなかったりする。
実力の全くない魔王だけど。
流されているのはよくわかってる。
「わたしは何を言えばいいんですか?」
「お手数はお掛けしません。ただ、立っているだけで構いません」
「わかりました。では、立ってます!」
よくわからないテンションでわたしは答えた。




